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第33回 「精神医療ダークサイト」最新事情 身体拘束を更に増やす要件緩和を止めろ

第33回 「精神医療ダークサイト」最新事情 身体拘束を更に増やす要件緩和を止めろ
「日本身体拘束研究所」が都内で始動

2023年9月、一般社団法人「日本身体拘束研究所」の創立記念シンポジウムが都内で開かれた。理事長を務める杏林大学教授の長谷川利夫さん(「精神科医療の身体拘束を考える会」代表)は、立ち上げの経緯をこう語る。

「2000年代初めと比べて2倍に急増した身体拘束を減らすため、被害に遭った患者や家族の支援を続けてきました。石川県の死亡例では弁護士の佐々木信夫さんの尽力もあって、精神保健指定医が指示した身体拘束を違法とする名古屋高裁判決が確定しました。独自の国際調査も行い、日本の精神科病院での身体拘束(1日に人口100万人あたり98・8人)は米国の266倍、豪州の599倍にも上ることを明らかにしました」

「それでも減らない。それどころか厚生労働省は、最高裁が上告を退けて確定した名古屋高裁判決を無視するかのように、身体拘束を更にしやすくする要件緩和を進めようとしています。このような非道、卑劣な行為に歯止めをかけるには、アカデミックな分野の第一人者たちの視点が欠かせないと考えました。様々な切り口からの見解を集め、社会に発信するのが研究所の役目です」

創立記念シンポジウムでは、医事法の第一人者である早稲田大学大学院法務研究科教授の甲斐克則さんが講演。「精神科医療は他の医療と比較して歴史的に特異な領域を形成し、人権問題に深く関わる固有の問題が内在しています。身体的拘束の問題もその一つですが、日本では法的問題性の自覚が不十分なままです」と冒頭で指摘した。

その上で、「身体的拘束の行為自体は逮捕罪(刑法220条)の構成要件に該当し、その行為を行うには正当化事由が不可欠です。身体的拘束それ自体は治療行為ではなく措置(処遇)行為であり、医師の裁量に全面的に委ねられてはいません。精神保健指定医に認められた身体的拘束の必要性の判断についての裁量の幅は、無制限ではないのです」と語った。

更に「身体的拘束を実施するには、刑法35条の『正当業務行為』論を持ち出すだけでは不十分で、法令による根拠を持った行為が必要となります。患者本人の同意もしくは公的基準(精神保健福祉法37条1項に基づき厚労大臣が定めた基準)に則った要件、とりわけ『切迫性』『非代替性』『一時性』という3要件の充足が不可欠です。『切迫性』要件は抽象的危険のレベルではなく、具体的危険のレベルで判断するものです。要件緩和の検討が今行われていますが、安易な緩和をすべきではありません」と述べた。

長谷川さんと甲斐さんが指摘したように、厚労省は身体拘束の要件緩和を画策している。厚労大臣が告示で定める要件の中に、「おそれ」「必要な期間」等の曖昧で拡大解釈可能な文言を増やそうとしているのだ。この動きが起こったのは先の判決確定後なので、患者を縛る以外に能がない連中からの圧力を受けたのだろう。

もしあなたの親が認知症になり、周辺症状が目立って精神科病院に入院したら、現状では高確率で縛られる。厚労大臣が近く要件緩和の改悪告示を出せば、その確率は更に上がる。縛られた高齢者の心身は急激に衰え、死へと転がり落ちていく。それでよいのか。自分や家族にも関係することなのだから、一人ひとりがきちんと考えて欲しい。


ジャーナリスト:佐藤 光展

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