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未来の会

「おだいじに」の患者・医師への効用

「おだいじに」の患者・医師への効用

SNSの一つ、ツイッターには簡単なアンケートを取る機能が備わっている。

 ある日、そこにこんな質問と二者択一の選択肢を投げ掛けてみた(SNSなので、かなりフランクな口調で呼び掛けたことを、ご容赦願いたい)。

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 私は診察の最後に「おだいじに」と言わず、「気をつけて」「さようなら」と言ってる。「おだいじに」はいかにも相手を"病気のヒト"として見てる感じがするから。

 でも今日、カゼでマスクしてたら患者さん数名が「カゼ? おだいじに」と言ってくれてうれしかった。

 そこで質問。診察の最後に医者が言うのは……

 ・「おだいじに」がよい

 ・「おだいじに」以外がよい

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 おそらく多くのドクターは、「なぜ『おだいじに』と言わないの?」と思うかもしれない。これは精神科独特の問題かもしれないが、患者さんの多くは数週間に一度のペースで半年、1年、長い人では10年やそれ以上、外来への通院を続けている。

 こちらも、いわゆる“上から目線”にならないように、その人がリラックスして日常の様子や症状の変化を話せるように心掛ける。

 中には、「先生の顔を見ると、いとこにでも会ったようにほっとするんだよね」と言ってくれる人もいる。そういう時には私も、「おや、随分年上のいとこですね」などとちょっとした軽口で応じたりする。

 そういうやり取りの後、なるべく雰囲気が変わらないように「えーと、クスリですが、随分元気になってきたし、そろそろ抗うつ剤は減らしましょうかね。あと、復職に向けて、そろそろ自主リハビリなんかもどうですか。春の散歩も楽しいですよ」などと処方や生活指導の話をして、診察が終わる。

“心が込められたひとこと”か

 さて、その時の“最後のあいさつ”として、何がふさわしいのだろう。

 せっかくくだけたムードになっているのに、突然「では、おだいじに」と言われたら、その人は「ああ、やっぱり私は病気でこの病院に通っているんだ。この人は医者なんだ」と現実に直面することになるのではないか。

 もちろん、それがプラスに働く人もいるかもしれないが、それよりも自分の病理性を自覚して“病人モード”で帰ることにもなりかねない。

 だから私は、「じゃ、2週間後に」とか「気をつけて」などといった何げないあいさつで、診察を終了することが多いのだ。 

 アンケートには、1日で551人が答えてくれた。その結果は、「おだいじに」が78%、「『おだいじに』以外」が22%、圧倒的に「病院でのあいさつは『おだいじに』」と考える人が多かった。

 私は、「自分はちょっと考え過ぎていたかもしれない」と反省した。アンケートにはコメントも付けられるのだが、「おだいじに、のひとことで癒やされます」といった意見から、「医者なんだから“おだいじに”があたりまえ」、さらには「「逆に医者がこんなことを意識するほうが、患者を特別視して差別している証拠」という厳しい意見もあった。

 また、「『気をつけて』のほうが“上から目線”です」「『さようなら』と言われると拒絶されてる気がする」といったコメントも目に付いた。

 それ以上に気になったのが、「私も通院中ですが、先生は何も言ってくれません」とか「パソコンから目を離さずにおだいじに、と言われてもうれしくない」という意見だ。どんな言葉でも、それが事務的、機械的な口調で言われるか、心が込められたひとことなのかで、ニュアンスはまったく変わってくる。

どんなクスリよりも効くかも

 ここで「心を込めて」と言うと、多くのドクターは「1日に何十人もの外来患者さんを診るのだから、一人ひとりに心を込めて“おだいじに”と言うのなんて難しい」と反発したくなるのではないだろうか。

 確かに、その通りだと思う。私自身、診療が込み合ってくると、1人の患者さんがドアを出るか出ないかのタイミングで、「はい、次の人」と呼び入れようとしてしまい、「しまった」と思うことも少なくない。

 ただ、よく考えると、こうも言える。

 「心を込めること」には時間はかからない。機械的な口調で「おだいじに」と言っても2秒、患者さんの目を見て優しい口調で「おだいじに」と言っても2秒。

 また、それでエネルギーのロスがかなり異なるかというと、それも違う。こちらがほほ笑みながら「では、おだいじに」と言えば、患者さんから「先生、いつもありがとうございます」といったひとことが返ってくる率が高くなり、むしろ疲れが癒えるかもしれない。

 あるハンバーガーのチェーン店のメニューには、かつて、それぞれの商品の値段の後に、「スマイル 0円」と書かれていた。

 これは「いつも従業員は無料で笑顔を提供しますよ」という意味なのだろうが、「いらっしゃいませ!」と笑顔を向けられると、こちらもついにっこりして、「ポテトも頼もうかな」という気分にもなろうというものだ。

 心のこもった「おだいじに」の保険点数は、ゼロ点。でも、言われた患者さんにとっては、どんなクスリよりも効くかもしれないし、言ったドクターや医療関係者のほうにしても良い気分になれるだろう。

 今回のアンケートでは「おだいじに」を望む人が多いことが分かったが、私は今後もあまりフレーズの種類にはとらわれず、その時々で患者さんのニーズに合わせた言葉を、心を込めることを忘れずにかけたいと思っている。

 また、こういうアンケートを実施して、その結果をここで報告してみたい。

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