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未来の会

病になって初めて知る患者の気持ち

病になって初めて知る患者の気持ち

これを読んでいる医療関係者の方々は、自分が心身に不調を来した時には、どうしているのだろうか。

 大きな病院に勤務している人は、同僚に依頼して薬を処方しているかもしれない。1人で開業している医師は、知り合いの医師に電話をして「どうも逆流性食道炎らしくて胸やけがする。今日そっちに寄るから、処方してもらえるかな」と頼むこともあるのだろうか。

 私も風邪程度なら、勤務先の診療所で隣の診察室にいる医師に処方してもらうのだが、そうでなければ、なるべく外の医療機関を受診するようにしている。問診票に職業を書く欄がなければ、積極的には自分が医師だと名乗らない。

 「他の医療機関をリサーチしているのか」と思われそうだが、そうではない。“患者さんの気持ち”を身をもって知る良い機会だからだ。

まず説明ありきは患者としては安心

 先日も突然、手足に湿疹が出たので、時間を作って近くの総合病院の皮膚科を受診した。初診受付に行くと、担当の職員が笑顔で「今日はどうなさいましたか。予約の電話はなさっていますか」と尋ねる。既に予約済みだと伝えると、「そうですか。では、カルテを作るために必要なので、保険証をお借り出来ますか」と言った。

 なるほど、ただ「保険証をお願いします」と言われるより、目的も付け加えてくれた方がこちらは安心する。

 「病院なんだから、保険証を出すのは当たり前でしょう」というのは、医療で仕事をする側のみの感覚であって、患者さんにとってはそうではないかもしれない。

 そういう調子で、その病院では何をする時も「これは何に使いますので」と、まず目的ややり方が説明された。

 例えば、採血をする時も、検査室の看護師さんが「検査のために、腕にこの針を刺して血を採ります。試験管3本採りますね」などと説明してくれる。「ここは検査室なんだから、血を抜くのは当然」という強圧的な態度は一切なく、こちらも安心して検査を受けることが出来た。

 今回も私は大いに勉強になった。自分が患者の立場になって病院を受診すると、特に初診の場合は、なんとも言えず心細いということがよく分かる。そもそも体調が悪いから受診するわけなので、「何の病気だろう。治るだろうか」と不安はひとしおだ。

 そこで、「はい、保険証出して。それはお薬手帳。保険証は?」「採血します。……袖をまくってもらわないと、血は採れないでしょう」などと畳み掛けられるように言われたら、さらに不安が増強してパニック状態になるだろう。医療機関側にとっては常識であっても、患者さんにとっては全てが初めての出来事かもしれないのだ。

 同時に私は、「自分は患者さんにちゃんと説明しているだろうか」と振り返った。

 精神科の診察室でも「では、血圧を測りましょう」ということもあるのだが、そういう時に血圧計を引っ張り出してきて、後は無言で患者さんが腕を差し出すのを待っていないだろうか。

 きちんと「これを巻いて血圧を測定するので、腕を出して頂けますか」と「何の目的があるのか」「何をしてもらいたいのか」を説明しているか、と問われると、自信をもって「そうしている」とは言えない。

 特に精神科では、患者さんにプライベートな質問をすることも少なくない。その際は、「ちょっと踏み込んだ質問になりますが」「差し障りがあれば、お答えは結構ですが」といった前置きも必要だ。

 ところが、何かと立て込んだ外来では、どうしてもスピード勝負となってしまうため、そういった一言をはしょりがちになる。

 ただ、考えてみれば、いくら忙しくても、「こういう検査をするので、腕から血を採らせてください」「やや立ち入った質問になるかもしれませんが」と言うのには5秒もかからない。その5秒を節約したために、結果的に患者さんが不安になり不信感を抱くこともある、ということを忘れないようにしなければならない。

気付きを与えてくれる「他院受診」

 さて、皮膚科を受診した私は、診察室で職業を聞かれて“告白”したところ、担当医は「あの病院の女医さんですか。うわー、緊張しちゃうなあ」と笑顔で言った。

 私は恐縮半分、楽しさ半分の気持ちになり、「いえいえ、今日は1人の患者として来ましたので、よろしくお願いします」と伝えた。

 この時、もし担当医が「え、医者なんですか。どうして来たんですか」などと身構えたら、こちらも「言わなければ良かった」と後悔したり、「来てはいけないんですか」と反発したりしてしまったかもしれない。

 もし同業者が受診したり、知人が偶然来てしまったりしても、なるべく不自然な態度にならずに診療する。これも医師として必要な心構えだろう。

 診察が終わった後、ドクターの指示で看護師さんが軟膏の塗り方などを指導してくれた。看護師さんは丁寧で的確に説明してくれ、こちらもその頃には自分が医師であることもすっかり忘れ、「分かりました。こうするんですね」などと、頷いていた。

 こうして私の“患者体験”は無事に終わり、今回もたくさんのことを学ぶことが出来た。 

 インフルエンザの迅速検査ひとつにしても、こちらは毎日、何十人にもやっていても、いざ自分がやられるとなると、その恐怖や痛さに驚きを感じることがある。

 「病になって初めて知る患者の気持ち」というのもおかしな言い方だが、ぜひこれをお読みの医療関係者の方々にも、「風邪やじんましんなど、ちょっとした不調の時に一度、他院を受診してみてはいかがですか」とお薦めしたい。私のように「ちゃんとしてるな」と思えば、それを取り入れれば良いし、「ここは良くないな」と思えば、他山の石とすれば良いのだ。

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