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未来の会

有事に旗を振る「先遣部隊」を育成 ~日本版CDCの設立に向けた体制整備へ~

有事に旗を振る「先遣部隊」を育成 ~日本版CDCの設立に向けた体制整備へ~
杉山 温人(すぎやま・はるひと)1957年岐阜県生まれ。81年東京大学医学部卒業。89年米国クレイトン大学アレルギー科留学、2004年国立国際医療研究センター呼吸器科医長、12年国立国際医療研究センター病院呼吸器内科診療科長、18年同センター国府台病院長を経て、19年同センター病院長に就任(現職)。専門はアレルギー・気管支喘息、間質性肺疾患。日本内科学会総合内科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医。著書に『呼吸器内科 薬のルール73!(レジデントのための薬物療法)』『レジデントのための呼吸器内科ポケットブック』(共に中山書店)。

厚生労働省が所轄する国立国際医療研究センターと国立感染症研究所が2025年度に統合し、「国立健康危機管理研究機構」が創設される見通しだ。米国疾病予防管理センター(CDC)に倣い、新機構は感染症有事に関連省庁に対して科学的知見を提供する専門家組織としての役割を担う。両組織の統合により新たな使命を負う国立国際医療研究センター病院の杉山温人病院長に、COVID-19での取り組みを総括頂くと共に、新機構の設立に向けた意気込みを伺った。


——国立国際医療研究センターは貴院の他に、国府台病院、研究所、臨床研究センター、国際医療協力局、国立看護大学校等、多様な組織を有します。

杉山 当センターは戦前の陸軍病院が始まりで、国立東京第一病院、国立病院医療センターと変革し、その後ナショナルセンター化をしていますので、病院が中心である事に間違いありません。国府台病院は戦前からの精神病院で、精神科に強い病院です。研究所は基礎研究に特化し、臨床研究センターは設立して未だ日が浅い施設ですが、臨床研究中核病院を狙うに当たって当院の臨床データを用いた研究を行い、力を入れています。国際医療協力局は歴史有る施設で、東南アジアや南米等に人を派遣し、保健衛生向上を支援しています。ペルーの人質事件で日本大使館が占拠された時にも応援に行きました。看護大学校は設立20年以上になるセンター附属の看護学校で、センターで働く看護師を養成しています。センター病院には無い精神科、基礎研究、臨床研究、人材育成の部分をこれらの機関が補完し、それらが全てに於いて有機的に繋がっているとお考え下さい。コロナ禍でオンライン化が進み、センター全体での情報共有も活発に行われる様になりました。

——国立病院機構(NHO)との関連は?

杉山 元々は同じ組織の中に在りましたが、そこからナショナルセンターの我々だけが外へ移行されました。但し、実際は医師以外の看護師、放射線技師、検査技師、薬剤師等の人事は全てNHOの中で回っており、何れも厚労省所管の機関ですので、そういう意味での繋がりは有りますね。

——名称が頻繁に変わります。

杉山 段々と長くなり、現在は正式名称で20文字です。当院は1945年に厚生省(当時)に移管された際に国立東京第一病院となってから、長年「東一(トウイチ)」の名称で親しまれて来ましたので、未だにこの名前で呼ばれる事が有ります。2010年に独法化した際にNational Center for Global Health and Medicineという横文字を作った為、東南アジア等の海外では頭文字の「NCGM」で通じます。今後どう変わるかは我々も身構えているところですが、名前はやはり厚労省が考える様です。

COVID-19への対応で一線を画す

——貴院はCOVID-19の拡大当初より、感染患者を率先して受け入れて来られました。

杉山 最初に受け入れた患者さんは、20年1月26日の外来に来た武漢からの観光客でした。症状は殆ど無く、CTで軽い肺炎像が認められました。この時、私の中でCOVID-19はウイルス性肺炎を起こす恐ろしいウイルスだというアラートが鳴りました。武漢からの日本人帰国ミッションが始まり、1月29日から2月17日迄の計5便で829名が帰国しました。その内症状の無い健康な793名を当院でスクリーニング検査したところ、約2%の15名がPCR陽性でした。これはやはり重大な事だと思いました。2月3日に横浜港にダイヤモンド・プリンセス号が入港し、感染した重症患者を受け入れる事になりました。当院には結核患者用の40床のフロアが有りましたので、そこを空けて感染患者を少しずつ受け入れ、人工呼吸器やECMO、場合によっては透析も行いました。

——病院長として、早期の英断が光りました。

杉山 未知のウイルスに対して様子見を続ける病院が沢山有った中、我々は早くに患者を診た者が情報を公開すべきだと考え、2月5日に日本感染症学会のホームページに当院で診た3例の情報を掲載し、2月21日には当院のホームページに11例の臨床データと画像を公開しました。院内感染対策の方法も全て公開し、1年後の21年4月にはこれらを纏めた書籍『新型コロナウイルス感染症COVID-19対応マニュアル』(南江堂)を出版しました。ご存知の通り、論文を発表して実績を重ねる世界ですから、普通であれば論文が出る迄は情報を出さないものです。そういうマインドに反して早い段階で情報を公開した事は、後々他の医療機関の方から評価を頂きました。

——治験にも参加される等、治療法の検討についても積極的に取り組まれました。

杉山 ダイヤモンド・プリンセス号から運ばれて来た患者の内、1人の重篤な症状のアメリカ人に、CDCからレムデシビルを使ってみないかと提案を受けました。この患者さんは非常に難渋しましたが、レムデシビルで治療をし、最終的に約2カ月後に回復しました。これを機に、当院はレムデシビルの人道的供与を受ける事になり、流行初期から日本人患者にも使いました。更に、米国立衛生研究所(NIH)より打診を受け、レムデシビルの国際共同治験に日本から唯一参加する事になりました。驚いたのがそのスピードです。世界で1000例を目標とした臨床試験で、開始から2カ月以内にエントリーが終了し、試験が終わると直ぐに解析をして結果を公表。試験が開始されたのが20年2月末で、その年の5月にレムデシビルはCOVID-19の治療薬として認可されています。一方、国内ではアビガンや吸入ステロイド薬のオルベスコを転用するという話が挙がっていました。アビガンはともかくとして、私は呼吸器内科医なのでオルベスコを喘息で使って来ましたが、COVID-19に効くとは思えませんでした。只、ネガティブな結果でも明らかにする必要が有る為、当院を中心に数施設で共同治験を行いました。結果は無効もしくは少し悪くなるというものでした。論文化するには時間が掛かるので、21年1月に記者会見で公表しました。それ以降、COVID-19にオルベスコが使われる事は殆ど無くなりました。

——COVID-19の回復者血漿を用いる治療法も期待されました。

杉山 回復者血漿は我々独自の治療法で、発想自体は良かったのですが、血漿に十分な抗体が有るか無いかで全く効果が違い、十分な抗体が得られる患者は3分の1位でした。又、他人の血漿を使う事に躊躇される方も多く臨床試験が進まず、その間に良い抗ウイルス薬が出て来て頓挫しました。もう1つの治療法として、ネーザルハイフロー(HFNC)療法が有ります。HFNCはCOVID-19が流行する数年前から呼吸器内科の分野で使われ始めていた治療法です。通常の酸素マスクは8リットル/分を超えると風圧が強く苦しくなってしまうところ、HFNCは30〜60リットル/分の酸素を使って100%濃度の酸素を与える事が出来ます。酸素マスクで改善しない場合は鎮静して挿管するのが普通ですが、HFNCは鎮静する必要が無く、食事や会話も出来ます。欧米でコロナウイルスによる肺炎には腹臥位の方が良いと言われる様になりましたが、人工呼吸器やECMOに繋がれたまま腹這いになるのは大変な事です。HFNCによって、患者さんの負担を抑えながら、挿管率を3分の1位に減らす事が出来ました。但し、HFNCにも問題が有りました。エアロゾルが発生し、ウイルスが外へ飛び散ってしまう事です。当院は治療を行う際は陰圧化した個室で患者さんにマスクを着けて貰い、医療者もN95マスクを着けた上で治療に当たりました。


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