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時価総額4679億円。内閣府も期待する「ユニコーン企業」が誕生

時価総額4679億円。内閣府も期待する「ユニコーン企業」が誕生
房 広治(ふさ・こうじ)オックスフォード大学 小児学部 特別戦略アドバイザー/アストン大学 サイバーセキュリティイノベーションセンター 客員教授/GVE株式会社 代表取締役兼CEO

1959年兵庫県生まれ。82年早稲田大学理工学部卒業後、英国留学。86年インベストメントバンクからの誘いで、日本人で初めてのロンドンベースのM&Aバンカーとなる。その後、金融業界で国際的に活躍し、2017年に日下部進らとGVEを設立。

 強固で利便性の高いセキュリティが医療に情報化と意識変革をもたらす。医療DXの必要性が叫ばれているが、セキュリティへの不安やデータの共通化の難しさ、システムへ不信感からマイナンバーカードの保険証利用も抵抗が強い。従来とは異なる発想で新たなサイバーセキュリティシステムを考案し、モバイル決済の「FeliCa」を発明した日下部進氏と、金融業界で国際的に活躍した房広治氏が共同で設立したGVEは、強固なセキュリティシステムを基に法定通貨のデジタル化プラットフォームを開発し、電子カルテシステムのセキュリティ強化にも取り組んでいる。GVEの成長戦略や医療DXとの関わり等について、房氏に話を聞いた。
——GVEが誇る頑強なセキュリティシステムとはどの様なものなのですか?

 私達が開発したのは、IDとパスワードの組み合わせだけではなく、認証用の電子鍵と生体認証を組み合わせ、瞬時に多重認証を行うセキュリティシステムを内蔵したサイバーインフラです。アメリカのセキュリティ専門家団体であるNISTは、今迄50年間使われてきた公開鍵暗号方式は、量子コンピュータの発展と共に2030年頃には使えなくなると16年に警鐘を鳴らしました。現在使われている認証局の秘密鍵のハッキングによる「なりすまし」が出来、今のままでは大混乱が起こるという指摘です。一方、私達のシステムは鍵が目的別、且つサービスの提供者と受け手が鍵を個別に持つという仕掛けで、鍵の公開情報が全く無い為、現在使われているPKIと呼ばれるサイバーセキュリティに比べて強度が異次元レベルに高い。日本国内では既に特許を取得し、現在、米国や欧州等世界のGDPトップ30の主要国でも申請中です。

——サイバーセキュリティに携わる迄の経緯は。

 早稲田大学理工学部を1982年に卒業後、英国で経済学を学んでいました。27歳の時、担当教官の1人・ポーテス教授(99年1月1日に誕生したの創設者の1人で元『エコノミックジャーナル』の編集者、ロンドンビジネススクール教授)を通じて、私の論文を読んだ現地の投資銀行から私を「是非雇いたい」と声が掛かりました。初対面の際「何故、私に声を掛けたのか」と聞くと、「あなたは立場が違えば、同じ物事でも見え方や捉え方が異なる事を理解し、それぞれの立場の人がどう考えているのかを分かっている。そうした能力を持ち合わせていればインベストメントバンカーとして成功するのは間違いないと思った」という答えが返って来ました。丁度日本ではバブル景気が始まった頃です。投資銀行でM&A(企業合併・買収)のアドバイザーとして、ロンドンを基点に日欧米の間で多くの買収案件を手掛けました。その後、勤務先の投資銀行は買収や合併を経て現在のグループとなり、私はUBS信託銀行の会長兼CEOを2年間務めました。この時の経験が、今、手掛けている法定通貨のデジタル化やサイバーセキュリティに繋がっています。

——「法定通貨をデジタル化する」という構想は何時頃から持っていたのですか?

 思い付いたのは2017年4月です。私は「10年後にどうなりたいか」等の長期的な視点で人生を考えた事は殆ど無く、目前の選択肢を如何に増やして行くかを常に考えて来ました。ですから、10年前には法定通貨のデジタル化といった事は全く考えていませんでした。基本的にはスティーブ・ジョブズ曰くの「コネクティング・ザ・ドッツ」と同じ発想です。様々な経験がドットとして存在し、ある時突然思いもしなかった新しい創造に役立つという意味です。私の場合は、UBS信託銀行の社長の経験の他、1999年に不祥事を起こした日本のクレディ・スイス・グループの投資銀行部門の再建を担当した時に、偶然、楽天証券の前身であるDLJディレクトの50%を持っていたクレディ・スイスの利益代表として取締役になった事、2004年に独立した後、翌年から始めたヘッジファンドが雑誌のファンド・オブ・ザ・イヤーに選ばれた為、ライブドアのFXのテクノロジー会社が06年にファンドの傘下に入り、同年に独立系で世界最大になった事等が「ドット」として今の事業に生かされています。最初から何かをしようと考えていた訳では無く、偶々選択肢に上がり、選んだ道を進んで来た結果です。

特許を中心に据えた成長戦略

——GVEの時価総額は23年1月末の時点で4679億円に上ります。

 共同創業者の日下部は、ソニーの技術者時代、スマートフォンの決済等に使われる非接触ICカード技術方式「FeliCa」を発明しました。彼は、以前経営していた会社で早い段階で資金調達を行った結果、自分の持ち分を大幅に減少させてしまった経験が有ります。今回はそうした失敗を繰り返さない様、IPO時点で25%の持ち分を保つ事を目指し、資金調達額を出来るだけ抑える事を経営戦略の1つとしました。私達の手元の資金は約20億円有りますが、年間の持ち出しは6000万円から1億円程です。という事は、仮に収益が上がらなくても20年から30年は持つ。言い換えれば、20年の間に収益を黒字化すれば良い訳です。それがもし、年間2億円使ってしまうとしたら、10年しか持たない為、私達の報酬はずっとゼロなのです。ベンチャー企業の中には、十分な収益も上がっていないのに立派なオフィスを構え、社員に高額な報酬を払っている所も有りますが、それでは多額の出資を募らなければならず、企業の価値も上がりません。GVEは、事業内容に将来性を見出し「是非出資したい」と言う投資家に恵まれています。日本には素晴らしい技術を持つ会社が数多く有るのに、GAFAMと呼ばれる米国の5大企業ほど稼ぐ会社は無い。それは、企業戦略の違いに有ると私は思っています。

——資金調達以外に重視している企業戦略は?

 重要なのは特許戦略です。アップルとアマゾン、グーグルの事業戦略を分析したところ、これらがそれぞれの部門で圧倒的な強さを持った源泉は、基本特許を取得している事だと気づきました。例えば、アップルはスマートフォンの基本的な仕組みに関する「電子デバイス」の特許を取っている。つまりアンドロイド端末が1台売れる度にグーグルやサムソンからアップルに使用料が支払われており、これだけでアップルの時価総額3兆ドルの30%程、およそ150兆円の価値が有るとEUのレポートは分析しています。グーグルも、検索エンジンに関する基本特許を取得した当初から、検索エンジンで4年間も先行していたヤフーを駆逐すると言われていました。又、それ迄本だけを売っていたアマゾンが、Eコマースで圧倒的に先行していたイーベイを追い抜いた切っ掛けは、事前に支払い情報と住所を登録する「ワンクリック注文」の特許を取得した結果です。その為、私達もビジネスに有意義な広い範囲での特許、即ち基本特許の取得を目指す戦略を取りました。「秘密鍵でのサイバーセキュリティ」と「階層化」については何れも国内で承認され、階層化はアメリカとシンガポールでの国際特許も取得出来ました。同様に、秘密鍵でのサイバーセキュリティでもアメリカかEUでの特許が取得出来れば、GVEもGAFAMに対抗出来る様な時価総額を目指せると考えています。

——日本企業は基本特許を重要視していない?

 日本の会社は基本特許よりも応用特許と呼ばれる基本特許の周辺特許を数多く取得する傾向が有ります。殆どの日本企業は、特許申請時と特許取得時に報奨金が払われますが、その技術が成功しても成功報酬が発生しません。その為、技術者は報奨金目的で特許の数を競い、会社の収益に結び付くかどうかは関係ないと思っている様にも感じます。過去の青色ダイオードの裁判等からも、企業は技術者に多額の報酬を払う事を嫌う傾向にあります。私達は、収益を生む特許を広い範囲で1年か2年に1つ出願し、何れかの特許が1つでも取得出来れば良いという戦略を当初から立て、4つの国際特許出願したところ、全てが特許として成立したという幸福に恵まれたのです。

——GVEはどの様な成長戦略を描いていますか?

 私達はアップルの様に5兆円の法人税を納め500兆円規模の時価総額を有する会社を目指し、企業戦略を立てて事業を進めています。財政危機、財政赤字等とばかり言われますが、国内の企業がしっかりと世界中で利益を出してGAFAMの様に多額の法人税を納めれば、財政は均衡し黒字化するのではないでしょうか。今こそ官民一体の姿勢を見せ、政府、研究機関はきちんとしたグローバル戦略を立てる時期に来ていると思っています。日本の財政赤字を解消する為に、世界で儲けられる日本企業の成長しか無いと思っています。

診療医療情報の扱いを決めるのは患者本人

——GVEの技術は医療分野でも活用出来ますか?

 私達が先ずは決済分野で事業を展開する理由は、世界で最も高いセキュリティをどの様に実装するかのアイデアを持ち、それを求められるのがお金と軍事の領域だからです。一方、セキュリティへの感度が低いのが医療分野でした。個人情報を扱い、プライバシーの保護が欠かせない筈なのに、その議論が遅れている。私達のシステムは、情報を隔離して細かく分別管理が出来る為、電子カルテのプライバシー保護にはとても有効だと、オックスフォード大学のホランダー教授には会社設立当初からアドバイスを頂いています。病院や医師の中にはカルテは医師や病院の所有物だと錯覚している方も居ますが、患者の個人情報の塊です。患者がセカンドオピニオンを希望する場合、現在はセキュリティの観点から、診療情報をCD‐ROMで患者に渡していますが、高いセキュリティのプラットフォーム下でインターネットや電話網を使い、患者が許可した相手であればスマホやPCでも見られる様にするべきです。又、病院の検査データを別の病院で活用出来れば、同じ検査をする必要も無い。病院毎に異なるシステムのデータを統一するのが大変だという議論が有りますが、私達のシステムでは個人がデータを管理する為、全ての病院で統一する必要は有りません。英国でもこの問題は30年間も議論されており、欧米では漸く医療情報は個人のものという認識が急速に浸透しています。

——医療データの収集にも役立ちそうです。

 個人情報を保護し、誰のデータか特定出来なくするマスキングを施した上で医療データを収集出来れば、医療の発展に多大な貢献が出来ます。病気の原因解明や治療法の開発には、100%信頼出来る医療データセットが必要ですが、間違った情報が混在する80億人の情報よりも100%信頼出来る3万人のデータの方が医学的には価値が有るのです。セキュリティが信頼出来、個人が特定されないという安心感が有れば、治験や医療情報の提供に同意する人は増える筈です。GVEの秘密鍵システムはこれを一気に解決出来、100%信頼出来るフレームワークに近づきます。健康管理は本来患者自身の責任で、そうした意識改革が今後起こると思っています。

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