SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「医歯学×理工学」で想像を超える ~異分野の力を結集させ、新しい医療を創生~

「医歯学×理工学」で想像を超える ~異分野の力を結集させ、新しい医療を創生~
藤井 靖久(ふじい・やすひさ)
1963年群馬県生まれ。88年東京医科歯科大学医学部医学科卒業。96年同大医学部附属病院泌尿器科助手。99年米国ピッツバーグ大学/ルイビル大学内分泌代謝学教室博士研究員。2004年東京医科歯科大学医学部附属病院泌尿器科講師。05年財団法人癌研究会有明病院泌尿器科医長。07年前述の講師に再任。10年同大大学院医歯学総合研究科腎泌尿器外科学教室准教授、11年公益財団法人がん研究会有明病院泌尿器科副部長。12年前述の腎泌尿器外科学教室准教授に再任。16年同教授就任(現職)。19年同大医学部附属病院副病院長(併任)。23年同病院長(併任・現職)。

今年10月、国立大学法人である東京医科歯科大学(医科歯科大)と東京工業大学(東工大)の2大学が統合した「東京科学大学」がいよいよ始動する。2021年に医学部附属病院と歯学部附属病院の一体化により名称変更し、変革を遂げた東京医科歯科大学病院は、新たに「東京科学大学病院」として医工連携による更なる飛躍を目指す事になる。泌尿器外科の専門家でもある藤井靖久病院長に、これ迄の取り組みと、新大学設立後の展望について話を伺った。


 

——先生は医科歯科大のご出身で、昨年4月に同大学病院の病院長に就任されました。大学及び病院に対する思いをお聞かせ下さい。

藤井 私は、曾祖父が大工の棟梁をしていた事も有り、幼い頃から建築に興味が有り、漠然とですが建築家を志望していました。地方の公立高校でゆったりとした生活をしていたのですが、高校3年の夏に父が大腸がんで死去した事が切っ掛けで、急遽進路を医学部志望に変更しました。そこから必死に勉強し、現役で医科歯科大に合格する事が出来ました。父が早くに亡くなった事で、大学には奨学金の便宜を図って頂いたり、博識な人が多かった同級生には色々な事を教えて貰ったり、医師になってからも先輩や後輩、恩師から多岐に亘り助けて頂きました。自分を育ててくれたこの大学と病院にはとても感謝しています。ですから、医師になってからは、社会貢献を通じて社会に恩返しをしたいと思って来ました。病院長という機会を頂き、益々その思いを強くしています。

泌尿器科・がん領域で頂点を目指して邁進

——泌尿器外科医を専門とされたのはどの様な理由からでしたか。

藤井 父をがんで亡くしましたので、がんを扱う部門に進もうと考えていました。その中で泌尿器科を選んだのは、領域が多彩だからです。泌尿器科には独特の世界観が有り、内科も外科も画像診断も含まれます。循環器であれば循環器内科と心臓血管外科、消化器であれば消化器内科と消化器外科に分かれているのが普通です。1つの病気で見た場合も、虚血性疾患に対して、経皮的冠動脈形成術(PCI)は循環器内科で行い、バイパス手術であれば心臓血管外科で行います。血便の患者さんが来た場合、当院では消化器内科で診断を行い、大腸がんであれば大腸・肛門外科で手術、転移が出現したら臨床腫瘍科で全身治療という様に、それぞれの診療科が担当します。一方、血尿の場合は、診断から手術、全身治療迄、全てを泌尿器科の中で行います。こうした形態はドイツ流の泌尿器科のスタイルで、独立性が高く、首尾一貫しているのが特長です。泌尿器科では尿路(腎臓、尿管、膀胱、尿道)、男性生殖器(前立腺、精巣)、副腎等、多くの臓器・器官を扱い、対象となる疾患も悪性腫瘍のみならず、尿路結石や排尿障害、内分泌疾患、尿路感染、女性泌尿器疾患等、広範囲に渡ります。学ぶ事が多く苦労もしましたが、好奇心が旺盛な性分ですから、そこに魅力を感じた事と、当時の大島博幸教授や福井巌助教授が率いる泌尿器科の雰囲気が良かった事から選択しました。福井先生にはその後、がん研究会有明病院でも薫陶を受けました。

——泌尿器外科の専門家としての成果と教授就任に至った経緯について教えて下さい。

藤井 医師になった当初から、がんの専門病院の泌尿器科のトップになるという目標を立てていました。その為には、泌尿器科がんの全てで外科・内科的治療共に一流になる必要が有ると考えました。泌尿器科に含まれる膀胱がん、腎臓がん、前立腺がん、精巣がんの全てを専門とし、新しい術式や治療、診断法も開発しました。精巣がん以外の3つのがんを対象とした全く異なるタイプの研究で基礎と臨床の英語論文を、筆頭或いは責任著者として発表した人間は、世界的にも少ないのではないかと自負しています。がん研有明病院には2回勤務した経歴が有り、その間に前任の木原和徳教授から後継者(候補)として戻って来て欲しいと熱心に声を掛けて頂きました。私の本来の目標ではなかった(正直なところ教授の重責を担う自信も無かった)ので、1度はお断りしたのですが、再度お声掛け頂き、自分としては覚悟を持って准教授として大学に戻り、16年に教授を拝命しました。

——大学に戻られてから、どの様な事に注力されて来ましたか。

藤井 木原先生が教授の頃は、社会に役立つ新しい医療の開発と実践を目標に掲げ、「ミニマム創内視鏡下手術」、「4者併用膀胱温存療法」、「4者併用インターフェロン治療(I-CCA治療)」といった新しい治療法の開発が重視され、私も参画させて頂きました。私が教授になった後は、これらを継続しながら、ロボット支援手術、光線力学診断等、世界標準の先端的医療を積極的に導入し、バランス良く発展させる事に注力して来ました。こうした取り組みに対する我々の評判、論文数、手術数等を評価頂き、Newsweek誌のWorld's Best Specialized Hospitals 2023で、当院の泌尿器科が世界125施設の1つに選出されました。

——泌尿器科に於けるがん治療のトレンドについて教えて下さい。

藤井 私達は泌尿器がんに対する臓器温存療法に注力しています。膀胱がんに関して紹介しますと、膀胱を摘出する場合、尿路変向として腸を使って代わりの道筋や袋を作る必要が有ります。しかし、どちらも生活の質の低下を伴い、手術自体が体への負担が大きく高齢者や合併症の有る方では難しい事から、近年は膀胱温存療法のニーズが高まっています。木原先生が開発された筋層浸潤性膀胱がんを対象とした4者併用膀胱温存療法は、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)、抗がん剤、放射線療法、膀胱部分切除と骨盤リンパ節郭清を組み合わせたやや手間暇が掛かる温存療法ですが、再発率が低く、世界に誇れる成績を上げています。19年に中期成績を発表し、24年には10年の長期成績が出る予定です。温存療法は腎臓がんでは既に標準治療になっていますし、前立腺がんでは必要な部分だけを治療する「フォーカルセラピー」が登場し、当院でも積極的に実施して来ました。21年5月には日本初の「泌尿器がん臓器温存外来」を開設し、全国から沢山の患者さんにお越し頂いている状況です。

病院長としてコロナ禍後の病床有効活用に尽力

——副院長時代に新型コロナウイルス感染症が流行しました。医科歯科大での取り組みは如何でしたか。

藤井 本学ではパンデミック初期に田中雄二郎学長が「力を合わせて患者さんと仲間たちをコロナから守る」というキャッチフレーズを作られ、内田信一前病院長のリードでコロナ患者さんの診療に注力して来ました。東京都で最も多くの重症患者を受け入れ、治療成績も誇れるものです。学内では、基礎と臨床を含め、新型コロナ関連の研究を200件近く実施し、PNAS等、質の高い雑誌にも成果を発表しました。又、治験・臨床試験にも20件以上参加しました。しかし、今回のパンデミックで本学や当院が開発した新規医療が実践に至らなかった事は、今後の課題と捉えています。


続きを読むには購読が必要です。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top