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未来の会

第57回 「日本の医療の未来を考える会」 リポート 保険診療の法制度 指導・監査について/令和4年度診療報酬改定について

第57回 「日本の医療の未来を考える会」 リポート 保険診療の法制度 指導・監査について/令和4年度診療報酬改定について

今日の医療現場では長期化する感染症の対応に日々追われている一方で、基礎疾患の受診を控える患者が増えている。それによって多くの医療機関の経営状況が悪化し、ポストコロナに向けて経営改善を図ることが求められている。来る令和4年度の診療報酬改定では、医師の働き方改革の推進や不妊治療の保険適用等、多数の項目で見直しが行われた。報酬改定に当たって医療機関は保険診療における指導・監査にどう対応して行くべきか。3月23日に衆議院第一議員会館で開かれた勉強会では、東京都健康長寿医療センター保険指導専門部長、東京医科大学名誉教授の葦沢龍人氏を講師に招き、「指導・監査のチェックポイント及び2022年度診療報酬改定の傾向」について解説して頂いた。


原田 義昭氏「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士):医療の運営で、いかに医師がご苦労されているかお察し致します。報酬改定では厚労省が覚悟を持った方針を出しました。コロナ禍が収束に向かいつつあり、皆様に引っ張って頂いた事にお礼申し上げます。今後も皆様の期待に沿えるようにして行きたいと思います。

三ッ林 裕巳氏「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(元内閣府副大臣、自民党衆議院議員、医師):今回の診療報酬改定では技術料本体として0.43%上乗せされましたが、厳しい状況に変わりません。改定の中で医療機関がどう乗り越えるかが重要なテーマであります。病院経営している方にとって、そういった課題についても葦沢先生からご説明を頂けると思います。

尾尻 佳津典「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):今日のテーマは診療報酬制度です。3年前の芦沢先生の講演の際、診療報酬のルールを徹底すると安心で高度な医療を提供でき、患者の満足度が上がり、ひいては病院経営に貢献するという言葉が印象に残っております。今日も皆さんと共に勉強したいと思います。

講演採録

療と法の関係性を押さえ
医師はプロフェッショナリズムの追求を

■臨床研究と法の独立性

2011年の「ディオバン事件」をまだ覚えている方は多いと思います。臨床研究の不正問題ですが、降圧剤のディオバンが非ARBと比較して心筋梗塞や脳梗塞にも効果が有るという5つの論文が出され、その後に裁判となった事件です。

被告は論文の執筆者ではなく、論文執筆に協力したノバルティスファーマ社及び社員でした。裁判では、5つの論文が旧薬事法の“誇大広告”に該当するかどうか争われました。論文は虚偽のデータに基づく結論と認定され、21年迄に全て撤回となりました。一方、判決は「論文は誇大広告の準備状態に当たる」ものの、論文を一般人が読む訳では無いとの事から、無罪が確定しました(21年)。同時に高裁は「新たな立法措置で対応する必要性が有る」と判断し、最高裁でも同様に認められました。これを機に「臨床研究法」が成立し18年4月から適用され、症例を報告するだけでも高いハードルが設けられました。

法律を作る人はなかなか賢いと思うのですが、臨床研究法というのは論文の内容そのものに対する法律ではなく、研究する際の手続を求めるルールです。臨床研究を行う際、病院内に於ける認定臨床研究審査委員会の承認を得ると共に、厚労省に実施計画の提出を求めています。医療に関して様々な法律が有りますが、医学的な内容に立ち入る法を定める事は医学論争の対象となり、結論を出せなくなる可能性があります。実際この事件の時も、高血圧学会は論文の虚偽性を否定しています。そのため、医学関連の法律は、殆ど手続きに関する物となっているのです。

■医療法に於けるインフォームドコンセント

医療に於ける法体系は医師法、医療法、医薬品医療機器等法の三法をベースとしており、医療行為の殆どはこれらにより司られていると言って良いと思います。これらの内容は3年前の講演で少しお話ししましたので割愛し、新しく出来た医療法の中のインフォームドコンセントに基づく“高難度新規医療技術の導入のプロセス(医療法施行規則第1条、第9条)”ついて説明します。

高難度新規医療技術の導入のプロセスは、皆さんも未だ覚えていらっしゃると思うのですが、群馬大学医学部附属病院の腹腔鏡下肝切除術の医療事故に基づいて出来た新たなルールです。同ルールが17年4月から適用され、当該病院で実施した事の無い医療技術、且つその実施により患者の死亡や重大な影響を及ぼすと想定される医療技術が対象となります。

特定機能病院では保険収載されている医療技術であっても、第1例目については事前のインフォームドコンセントと共に、評価委員会の承認の下で実施する事がマストとなります。施設基準の無いものであれば、その時点で保険診療としての請求が可能となります。一方、施設基準が有る物であれば、数例の実施の後に、厚生局へ届け出た後、保険請求が可能となります。

ここでは、K555-2経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)の実施を例としてご紹介します。この術式は、経心尖大動脈弁置換術が61530点、経皮的大動脈弁置換術が39060点として保険収載されています。しかし、某私立大学医学部のホームページでは、TAアプローチ(経心尖大動脈弁置換術)以外にも、DA(直接大動脈)アプローチ、TS(経鎖骨下大動脈)アプローチを提示し、実際にこの病院で行っている事を謳っています。当該病院(特定機能病院)では保険未収載の可能性のあるDAやTSの術式を実施する際、高難度新規医療技術の導入のプロセスを経ているのかどうか、また保険請求を行っているのかどうかについて確認する必要があります。厚生労働省としては「それらの点を、きちんと詰めて下さい」という事を求めています。

昨年、東京医科大学病院および東京都健康長寿医療センターでも同様のケースが有りました。院内のルールは存在するものの、手続きを踏まずにDA(直接大動脈)アプローチが実施されそうになりました。事前に知る事が出来たので手術を中止とし、評価委員会への提出を求めました。その後両施設の評価委員会では承認され手術は実施されましたが、次は保険請求する場合の術式の選択となりますが、社保ないし国保の審査会が最終判断を行う事になります。

■保険診療はルールを攻略せよ

保険診療のスキームでは、法律によって診療請求のハードルを設けています。保険診療は基本的に医師と患者間の契約ではなく、保険医療機関と保険者間の契約となります。保険者の中に、日本の国民1億2000万人及びプラスαが含まれます。αというのは主に外国人です。今の日本のルールでは、日本に住む外国人も保険に入らなければなりません。例えば外国からの留学生は、収入が無く日本で納税していなくても国民健康保険に入らなければなりません。その結果、日本で高度医療を定額で受ける事が出来ます。これは外国人が悪いのではなく、日本の制度が悪いのです。「この日本の制度を使っちゃおうか」と考える外国人が居てもおかしくありません。

保険診療の給付に於けるお金の流れでは、保険医療機関は先ず、厚生局に対してどのような医療を提供するか届け出をします。その上で診断・治療を行えば患者さんがその3割を負担した場合、残りの7割は保険者が支払います。この保険者の予算には、患者さんや事業所が支払う保険料、国や市町村から貰う負担金等が有りますが、これでは予算に足りず税金が投入されています。実際、コロナ前の19年度の医療費は約40兆円でしたが、その内の約4割は税金が投入されています。その為、医療費が平等に使われているかどうかチェックしなければならないという事から調査・指導・監査等が行われます。

指導は、保険医に対し「診療報酬の請求等に関する事項について周知徹底し、ルールを知って貰う事」を目的としています。対象は「保険」という言葉が付く職種のみなので、医師、歯科医師、薬剤師です。

既に開業している場合、集団的個別指導は、売り上げの点数の上位8%を対象とし、個別指導する際の選定理由は、①売り上げが上位4%、②情報提供があった場合、③再指導が必要となった場合の3つです。北海道から沖縄迄、都道府県別に比べられるデータによると、15年度の個別指導選定理由から、高点数を理由に個別指導を行っている地域と行っていない地域が分かります。私の感覚では、情報提供によって実施している事が多いと感じます。

情報の提供は保険者や支払基金、行政機関等から寄せられます。患者さんや医療機関の従業員からも多いです。情報提供について厚生局内でその真偽を確認し、A〜Cで判定します。その結果、AかBと判定された場合、レセプトを集めて内容を精査します。様々な情報提供が匿名で寄せられますが、実際に名前を出して来られる医療者の情報は確度が高く、特に医師の場合はクロである事が多いようです。レセプトを抽出した上で都道府県別に個別指導を行いますが、結果は、「概ね妥当」か「経過観察」「再指導」「監査」のいずれかになります。つまり、提供された情報の確度を確認するという事です。

個別指導には、①診療が妥当適切に行われているかどうか、②保険診療が基本的ルールに則り適切に行われているかどうか、③保険診療の算定等を遵守しているかどうか、そして④保険診療について理解が得られているかどうか、という4つの観点が有ります。医学的な内容で妥当・適切に行われているかをチェックしているものの、医師の裁量権は極めて大きい為、それをひっくり返す程の強い権限は行政側には無いと言えます。その為、手続きに関する指導になってしまいます。誤った医行為であっても法が無ければ止めさせる事が出来ないのは、行政指導の限界です。例えば医師が乏しい知識によって診療したとしても、その事で行政指導される事は有りません。だからこそ医師はセルフコントロールしなければならず、プロフェッショナリズムを学ぶ必要があります。

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