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未来の会

第75回「日本の医療の未来を考える会」
少子化の打開策としての生殖医療の現状プレコンセプションケアの役割と課題

第75回「日本の医療の未来を考える会」少子化の打開策としての生殖医療の現状プレコンセプションケアの役割と課題
2022年4月から不妊治療が保険適用される様になった事に続き、23年10月には東京都で卵子凍結に係る費用への助成が開始された。社会的関心の高まりと共に民間企業に於ける支援も進みつつあり、卵子凍結は全国的な広がりの兆しを見せている。減少の一途を辿る出生数に歯止めを掛けたいところだ。しかし、長期的・根本的な解決には、若い世代を対象としたプレコンセプションケアの充実が重要だと山王病院名誉病院長の堤治氏は指摘する。「日本の生殖医療の現状と卵子凍結〜プレコンセプションケアが日本の少子化を救う〜」と題し、堤氏による双方向型のユーモア溢れる講演が行われた。

挨拶

原田 義昭氏 「日本の医療の未来を考える会」最高顧問(元環境大臣、弁護士):旧厚生省の政務次官をしていた2000年に小泉純一郎氏と共に介護保険制度を作り、今日まで続いて来ました。当時から高齢少子化は大きな問題と捉えられていました。もう1つテーマに上がっていたのが子宮頸がんです。年間罹患者が約1万人、死亡者は約3000人と言われています。これについても、もう一度皆さんと対策を考えて行きたいと思います。

三ッ林 裕巳氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団代表(衆議院議員、元内閣府副大臣):自由民主党の女性活躍推進特別委員会で、幹事長として伊藤忠商事の人事の方にヒアリングをさせて頂いたところ、伊藤忠では会社として海外赴任中の不妊治療と卵子凍結に補助金を出す他、国立がん研究センターと連携し、がんとの両立支援を行う等の施策を行う事で出生率が1.97に上昇したそうです。女性が安心して仕事を続けられる体制が重要です。

古川 元久氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員):出生数の過去最少と同時に、死亡者数は過去最多となり、日本の人口減少は80万人を超えました。少子化は国防の観点からも極めて深刻な問題です。昨年出生した女児が20年、30年後に出産すると考えると、この数十年間で劇的な人口増を果たすのは厳しい状況です。そうした中で、子供を望む人が子供を持てる社会にして行かなければなりません。

東 国幹氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(衆議院議員):出生数の過去最少と同時に、死亡者数は過去最多となり、日本の人口減少は80万人を超えました。少子化は国防の観点からも極めて深刻な問題です。昨年出生した女児が20年、30年後に出産すると考えると、この数十年間で劇的な人口増を果たすのは厳しい状況です。そうした中で、子供を望む人が子供を持てる社会にして行かなければなりません。

和田 政宗氏 「日本の医療の未来を考える会」国会議員団メンバー(参議院議員):不妊治療で2人の子供を授かった経緯から、不妊治療の負担軽減に向けて議連を立ち上げ、保険適用を実現しました。「1子生まれたら1000万円給付」を掲げていますが、大卒男女の1人当たりの平均生涯賃金が約2億5000万円として、経済活動はこの額以上に行われる訳ですから、子供が1人生まれるという事は家庭の幸せのみならず、経済に於いても重要です。

佐々木 さやか氏 (参議院議員):堤先生には日頃から温かくご指導を頂いています。今日のテーマである卵子凍結については社会の関心が高く、特に20代、30代の女性は、東京都の助成制度に対して非常に高い関心を持っています。大企業で働く女性にとって、不妊治療は当たり前の選択肢となりました。卵子凍結についても、国として真剣に取り組んで行きたいと思っています。

尾尻 佳津典 「日本の医療の未来を考える会」代表(『集中』発行人):2月27日、厚労省が昨年の出生数を75万人と発表しました。2100年に日本の人口は現在の半分以下になるそうです。堤先生は本日の講演に先立ち、小池百合子都知事と黒岩祐治神奈川県知事に同じ内容のレクチャーをされ、お2人は直ぐに卵子凍結の助成を決められたそうです。我々も「卵子凍結」「プレコンセプションケア」について情報発信して行きます。

講演再録

■日本は体外受精が世界最多・知識レベルは最低

2022年の出生数は77万人、合計特殊出生率は1.26で共に史上最低レベルです。少子化が進む中、生殖補助医療(体外受精)で生まれる子供の数は年々増加し、19年には14人に1人、22年には13人に1人、昨年は11人に1人、都内では5人に1人程が体外受精によって生まれています。22年4月から体外受精が保険適用となり、更なる増加が見込まれます。

日本は体外受精の治療数が世界最多と言われていましたが、最近データを公開した中国の方が件数は多く、現在は世界で2番目になっています。一方、成績(採卵当たりの妊娠率)を見ると、日本は最低レベルです。何故かと言えば、例えば米国では32歳位で不妊治療を受けるのが標準的なのに対し、日本は40歳がピークです。年齢別の成績を見ると、35歳位から妊娠率が段々と下がり、40歳を超えると更に低下します。

卵子の数には限りが有り、年齢と共に老化します。卵子は胎児の時に作られるので、減る一方で増える事はありません。閉経の時に0になり、20歳の時は卵も20歳、40歳の時は40歳です。35歳と45歳を比べると、体外受精で採れる卵の数が10分の1に減り、更に着床率も10分の1迄下がります。つまり、妊娠率が100分の1に低下するという事です。

以前は40歳以上の出産は稀でしたが、40代で出産する割合が1995年に比べて2022年は10倍以上に増えています。22年に40〜44歳で4万6000人、45歳以上で1600人以上が出産しています。これには体外受精の普及が背景に有りますが、体外受精を必要としている人が増えていると言う事も出来ます。

では何故日本は治療を受ける年齢が高いのでしょうか? そこには、「教育」と「社会」という2つの問題が有ります。

日本は不妊治療の知識レベルが先進国の中で最下位です。日本の教育が進んでいない理由の1つとして、性教育を行った教職員と学校に対し、その内容が不適切だとして厳重注意処分が行われた七生養護学校事件が有ります。私自身は小学校の勉強会で話をする事が有りますが、小学生に対して精子や卵子について話をしたり、超音波の赤ちゃんの写真を見せたりすると、非常に興味を持ってくれます。卵子の老化の話もそうですが、性感染症に関する知識や栄養の大切さも含め、学校教育の中できちんと学ぶべきものだと思います。

近年「プレコンセプションケア」の重要性が叫ばれています。プレコンセプションケアとは、世界保健機関(WHO)によると「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動学的・社会的な保健介入を行う事」とされています。若い世代に対するプレコンセプションケアが欠如している事によって、子供を持ちたいという気持ちが有っても、卵子や妊孕性に関する正しい知識に基づいたライフプランやキャリアプランの選択が成されていないのです。

日本のもう1つの特徴として、有職率が上がるに連れて結婚年齢が年々上昇しています。その結果として、不妊症の頻度が増加していると考えられます。働きながら妊娠、出産、育児を行える体制が十分に整っていない社会に問題が有ると考えられます。ノーベル経済学賞を受賞したハーバード大学教授のクラウディア・ゴールディン氏も、「日本は女性を働かせるだけでは駄目」と述べています。


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