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第93回 改憲勢力3分の2と安倍首相の微笑

第93回 改憲勢力3分の2と安倍首相の微笑

 参院選は自民、公明両党の大勝に終わった。憲法改正に前向きな政治勢力が参院で3分の2を占めたことから、話題はもっぱら「改憲」に集まるが、安倍晋三首相は「党と国会にお任せしている」と、どこか人ごとのような受け答え。これまで見せたことのないような柔和な微笑を周囲に振りまいている。国政選挙4連勝なのだから、笑いが止まらないのだろうが、笑顔の裏には党則改正による「総裁連続3期」への思惑が潜んでいるらしい。

 「『改憲勢力』っていう呼び方はよくないな。マスコミは安易に言葉を使い過ぎる。自民党単独で3分の2を占めたわけじゃないからね。今にも憲法改正するようなトーンで報道するのはやめてくれ」

参院選・東北壊滅に気をもむ自民 与党圧勝にもかかわらず、自民党幹部はメディアへの不満を口にした。理由は、いろいろある。まずは、保守地盤といわれた東北・甲信越で野党連合に完敗したこと。岩城光英法相(福島)、島尻安伊子沖縄・北方担当相(沖縄)の現職閣僚2人が落選したこと。さらには、各種調査で公明党支持者の離反が裏付けられたことなどだ。

 東北・甲信越での敗北は環太平洋経済連携協定(TPP)への反発が背景にある。岩城氏の落選は原発問題、島尻氏は米軍の基地問題がそれぞれ原因とみられている。いずれも安倍政権の重要課題であり、政府・与党でそれなりに努力してきたはずなのに、現場ではほとんど理解されていないことが浮き彫りになった。同じ農業県でも北陸、四国では与党圧勝の結果だが、この幹部は「東北が一塊で持っていかれた感じで気持ちが悪い」と本音を語る。

 伝統的に自民党の票田だった農村票の切り崩しは、今に始まったことではない。2010年の参院選以降、共産党はJAに接近し、志位和夫委員長の演説会にJA幹部が同席するなどしている。TPPや農政改革への反対をてこに、農業票取り込みは着実に進められており、「東北の変」もその延長線上にある。

 自民党幹部が東北を気にするのには、生活の党と山本太郎となかまたちの小沢一郎・共同代表の存在もある。今回の野党連合の起点が、小沢氏が提唱した「オリーブの木構想」だったからだ。構想はイタリアにならったもので、選挙時の届け出政党を既存の政党とは別に創設し、そこに各党の候補者が個人として参加する方式だ。今回は、小沢氏を警戒する民進党幹部らの反対で、届け出政党、統一名簿を作るまでに至らなかったが、1人区(定数1)に野党統一候補を立て、11人を当選させた。

 「小沢さんも、そろそろお陀仏かと思ったが、地元の岩手で自民党を退け、比例代表でも小沢ガール・青木愛の返り咲きを果たした。無所属で当選した元秘書は民進党に取られてしまったが、考えがあってのことだろう。まだ、何かたくらんでいそうだ。まったくしぶといよ」

 オリーブの木に手応えを感じているのは、小沢氏ばかりではない。「もっと勝ちたかったが、共闘の効果は出た。第2、第3のステップにつなげていきたい」。惨敗状況の野党で、唯一、議席を伸ばした共産党の志位委員長は衆院選に向けた野党勢力の結集に意欲をみなぎらせている。

 1人区で健闘しながら、全体として野党が伸び悩んだのは、都市部の複数区と比例代表で勝てなかったためだ。比例票の不振は無所属候補を立てたことで、政党の印象が薄れ、投票行動を呼び起こせなかったこと。複数区では、候補調整ができず、野党の共倒れを招いたことが敗因に挙げられている。小沢氏の選対関係者が言う。

 「比例票の受け皿となる届け出政党を新たに作れば、状況は全く違っていた。数で優位な与党に対し、変幻自在に立ち回らなければ、野党に勝ち目はない。届け出政党を新設し、新たな政治スタイルなのだと訴えれば、比例代表の伸び悩みも、複数区での共倒れも解消できた。本当に悔しい」

 オリーブの木に消極的だったのは民進党だ。民主党時代から小沢氏に振り回されてきた幹部らが「また、庇を貸して母屋を取られる」と反対したからだ。14議席減の党内には岡田克也代表への批判とともに野党連合への懐疑が広がる。

改憲論議が進めば野党連合は崩壊?  その一方で、安倍首相が選挙中に発した「気をつけよう、甘い言葉と民進党」というたわいもない一言でけちらされたショックも隠せない。「民主党を引きずっている限り、絶対に勝てない。このままいけば、自民党1党体制が固定化し、日本は1党制の国になってしまう。オリーブの木はそれにあらがう有効な手法の一つじゃないか」。民進党の若手の間には、そんな意識も芽生えている。

 「今回の野党連合は失敗だろう。だが、東北の一件を甘く見てはいけない。オリーブの木を実らせないようにしないとな」

 自民党の長老は、今後進められる憲法改正論議が野党連合を阻むとみている。憲法堅持の共産党と、憲法改正に前向きな民進党の共存は難しいからだ。民進党の岡田代表は「安倍政権での改憲はノー」と主張しているが、改憲発議が可能となった状況で、憲法改正論議が熱を帯びるのは目に見えている。

 「野党第一党の存在感を示そうと、改正論議に引きずり込まれるのは必至だろう。共産党や社民党はどうするのかな。いずれにしても野党連合にはひびが入る。とはいえ、改正がすんなりいくわけでもないがな」

 自民党幹部は憲法改正の障壁はむしろ与党内にあるとみている。参院選のさなか、東京都から立候補したミュージシャンの選挙活動で、あるハプニングが起こった。創価大学の学生が壇上に立ち、今の公明党がやっていることは創価学会の本来の教えに反していると批判したのだ。情報は駆け巡り、公明党の山口那津男代表はテレビ番組などで、9条改正を目指す自民党と同等に改憲勢力と扱われることに不快感を示し、「いま直ちに9条を改正する必要はない」などと弁明した。報道各社の投票所・出口調査でも公明支持層の2〜3割が野党に投票したと伝えられ、公明党幹部らは対応に苦慮している。

 「安倍さんの任期は2018年秋まで。衆院選はやらない。公明党支持層の熱を冷まし、オリーブの木を実らせないよう、じっくり時間をかけた憲法改正論議をやる。そのうち、党内から、現在任期3年で連続2期までになっている党則の改正がじんわり出てくる。党則を改正し、総裁連続3期を成し遂げ、東京オリンピックに臨む。この間、うまくことが運べば、憲法の条文も一つぐらいは改正できる」

 与党幹部が想像する首相の微笑の正体だ。対抗勢力が見当たらない現状では可能性は低くはないが、勝ち慣れして楽観的にものごとを考えているのだとしたら、先々は案外危ういかもしれない。

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