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未来の会

日本の医療技術で世界の人々を救う ~iPS細胞由来心筋シートが実臨床に向けて前進~ 大阪警察病院 院長、大阪大学大学院医学系研究科 特任教授 澤 芳樹

日本の医療技術で世界の人々を救う ~iPS細胞由来心筋シートが実臨床に向けて前進~ 大阪警察病院 院長、大阪大学大学院医学系研究科 特任教授 澤 芳樹
澤 芳樹(さわ・よしき)1955年大阪府生まれ。80年大阪大学医学部卒。92年大阪大学医学部第一外科助手、98年同講師、2002年同臓器制御外科助教授、06年同大学大学院医学系研究科外科学講座心臓血管・呼吸器外科主任教授、07年同心臓血管外科主任教授、同医学部附属病院病院長補佐、12年京都大学iPS細胞研究所特任教授、15年大阪大学大学院医学系研究科研究科長・医学部長、20年国際医療福祉大学特任教授等を経て、21年9月大阪警察病院院長に就任(現職)。一般社団法人inochi未来プロジェクト理事長。紫綬褒章、文部科学大臣科学技術賞、厚生労働大臣賞、日本医師会医学賞、日本再生医療学会賞等、受賞歴多数。

深刻なドナー不足にある重症心不全の新たな治療法として、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた心筋シートが期待されている。医師主導治験が半ばに達し、臨床化に向けて着実に歩みを進めているところだ。2025年の日本国際博覧会(大阪・関西万博)を控え、外国人患者の積極的な受け入れが進められる中、iPS細胞は日本が誇る医療技術として、国内外から注目を浴びている。京都大学の山中伸弥教授と共に心筋細胞シートの開発を手掛けた大阪警察病院の澤芳樹院長に、今の想いを伺った。

——先ずは貴院の理念、特徴、経営体制について教えて下さい。

 当院には現在、大阪市内に大阪警察病院と第二大阪警察病院(旧・NTT西日本大阪病院)という2つの病院が存在します。どちらも地域の中核病院として地域医療に貢献して来ましたが、大阪警察病院は最新鋭の医療設備と最先端の技術を備え、外科系診療を強みとしているのが特長です。一方の第二大阪警察病院は、内科系の専門診療科が多岐に亘って設けられています。2019年4月にNTT西日本大阪病院から事業譲渡を受ける形で両病院が合併し、それぞれの強みを発揮する事で、当院の理念とする「全人的医療」をより充実した形で提供出来る体制となりました。

万博開催の前年に新病院をオープン

——大阪・関西万博の開催と前後して、新病院がスタートします。新病院の基本構想について、お聞かせ下さい。

 これ迄の85年間の警察病院は、巨大な病院に多くの人員を投入し、巨額のお金を回すという、所謂、人海戦術による昭和的な病院でした。その利益がとりわけ大きいかと言うと、そういう訳でも有りませんでした。只、利益を追求して行くと言うよりは、合理的な考え方をする事によって、働き方改革に繋げなければならないと思っています。新病院は、「スマートホスピタル」を謳い、IT化は元より、新しい時代に向けた次のステージを目指して行きます。夢の有る病院にしたいですね。

——万博の中でも、活躍されるそうですね。

 元々は、14年に私が立ち上げた「inochi未来プロジェクト」というソーシャルイノベーションのプロジェクトが始まりでした。我々は1人の患者さんの命を救う為に、日々10人以上の人が携わり、一生懸命に心臓の手術をしています。その傍らで、戦争や殺人等で簡単に人が殺されています。人の手で人を殺めるという事は、あまりに人の命を軽く見過ぎているからであり、死生観が無さ過ぎると思います。逆に言えば、命を大事にする事によって、人や街、地球の健康を考える事に繋がるのではないかという考えからスタートしました。我々の考えを世界に発信する為、プロジェクトのメンバーが万博に向けて活動して行こうと無邪気に言い出した頃、丁度、府知事や市長も同じ様な事を考えていたのです。16年に我々が開催した「2016 inochi未来フォーラム」は、大阪府と大阪市にも後援して頂き、日本での万国博覧会の開催意義についてのパネルディスカッションを行いました。

——日本への万博誘致は、その様にして本格化して行ったのですね。

 我々の考えは、大阪だけで無く、京阪神、東京、金沢、徳島、九州と、全国に広がり、特に若い方達の間で共鳴しました。フォーラムに先駆けた15年、inochi未来プロジェクトの学生支部として、学生等を中心とする「inochi WAKAZO Project」を立ち上げました。彼等は、万博誘致に向けたアイデアを「若者100の提言書」として取り纏め、府知事に提出しました。府知事はこの提言に感心し、若者のエネルギーを今回の万博の原動力にしようという流れになりました。18年6月にパリで行われた博覧会国際事務局(BIE)総会では、立候補国である日本、アゼルバイジャン、ロシアがプレゼンテーションを行いました。そこで、日本の代表の1人として、WAKAZO代表であった京都大学4年生の川竹絢子さんがスピーチを行う事になりました。これが大変素晴らしく、朝日新聞でも、ライバル国のアゼルバイジャンのスピーチよりも爽やかで、新しい力であると取り上げられました。日本での万博開催の決定は、こうした若者のエネルギーがBIEにも伝わった結果だと思っています。この若者の力を万博で更に表明する為、我々も万博に向けて色々とお手伝いをさせて頂いているところです。先日も、博覧会協会からの依頼を受けて、外国のパビリオン向けに万博の概要を説明する機会が有りました。命の大切さ、死生観、ウェルビーイングで一番大事なのは命であるというお話をしたところ、これ迄に無いスタンディングオベーションが起こり、10カ国位から質問を受けました。特に皆がCOVID-19を経験し、これ程タイムリーな提案は無いと絶賛されました。我々はCOVID-19が始まる前にプロジェクトを立ち上げた訳ですが、我々の常日頃の考えが諸外国からも評価された事は、感無量でした。

——万博ではどの様なパビリオンの出展を計画されているのでしょうか。

 万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。この中核事業である「いのちの輝きプロジェクト」では、8つのテーマに沿ったパビリオンが設けられる予定です。テーマパビリオンの1つである「いのちを拡げる」では、大阪大学の石黒浩先生がプロデューサーとなり、ロボットやアバターと共生する世界を演出します。技術と人が融合する事により、命の可能性を拡げようというものです。実は現在、当院では石黒先生と共同で、新病院の設立に向けて、アバターを活用した案内サービスの実証実験を行っています。新病院のコンセプトは「いのち輝く未来病院」です。万博の成功に貢献する事は、我々の大きなミッションであると思っています。この他、大阪府・市では、iPS細胞で作成した心筋シートによる「生きる心臓モデル」の展示を検討しているそうで、こちらにも協力させて頂く予定です。

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