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未来の会

談合・製造不正等「医薬品業界不祥事」続発の背景

談合・製造不正等「医薬品業界不祥事」続発の背景
問題の根に「事前防止」の認識甘い厚労省の失策

医薬品業界に依然靄がかかっている。国民の信頼を損ねる不祥事が続いているからだ。

 まずは医薬品を病院や薬局に届ける医薬品卸大手4社の談合がある。発覚は2019年11月だが、昨年12月に公正取引委員会が刑事告発した。これを受け、東京地方検察庁特捜部がアルフレッサ、スズケン、東邦薬品の3社とその幹部を起訴した。談合に加わったメディセオは課徴金↘減免制度を使って事前に違反の自主報告をして告発対象から逃れた模様だが、犯した罪は3社と変わらない。

 国立の病院を束ねる医療組織の医薬品入札に全国の医薬品市場のシェア8割を握る大手4社が少なくとも16年、18年の2度不正に手を染め、公正な価格形成を歪めていた。厳しく指弾されるべき案件と言えよう。

 4月下旬には、東京地方裁判所で公判が開かれる予定だ。

 もう1つは後発薬の製造で連発した不祥事の発覚だ。2月には小林化工が116日間の業務停止命令を受けた。睡眠剤の混入した皮膚病の治療に使う経口抗真菌剤を不正と知りつつ製造出荷させ、死者まで出した。小林広幸社長も10年以上前から承認された手順と違う方法で製造されている実態を知っていたという。

 3月3日には日医工が同じく承認書の手順と違った製造出荷をしていたとして、主力工場の32日間の製造停止と24日間の業務停止の命令を受けた。品質試験で検査を通らなか↖った製品を再加工や再試験をして出荷していた事も明らかになっている。

 売り上げ約370億円の小林化工は未上場の後発薬準大手。それに対し、日医工は売り上げ1900億円、1220品目を取り扱う、れっきとした東京証券取引所1部に上場する後発薬首位メーカーだけに、そこが医薬品で最も大事にしなければいけない製造での不正を行っていた事が露呈した衝撃は大きい。

 幾度か続いた医薬品の自主回収に続く出荷停止に伴い、病院等医療現場や患者にしわ寄せを与えている。後発薬業界全体が製造品質をないがしろにしているのではないか、と国民に不信を植え付けてしまった。後発薬メーカーの団体も小林化工を除名、日医工を正会員5年間の資格停止にした。業界も慌てまくりだ。

事前防止策の不備 

 企業固有の体質がこうした問題を引き起こした面はある。日医工は典型だ。創業家2代目の田村友一社長の超ワンマン経営で有名だ。2000年の社長就任時から20年間で売り上げを17倍に拡大し、同社を業界首位に押し上げた。「次の20年で年商5000億円にする」「後発薬で世界トップ10入りする」を公言、規模拡大に執念を燃やしてきた。

 近年も16年に米国セージェントを買収、19年にエルメットエーザイを完全子会社化、20年には武田と世界的後発薬企業の国内合弁会社・武田テバから後発薬486品目と高山工場を買い取っている。その膨張ぶりに品質問題は大丈夫かという声が業界内からも出ていたのは確かだ。その懸念が現実になってしまった。

 しかし、不祥事の原因を企業体質だけに帰すのは危ない。もっと根の深い問題が潜んでいるからだ。考えるべきは、厚生労働省が柱になる日本の医薬品行政、もっと突っ込んでいえば製薬企業や卸企業の育成と規制のバランスをどうするか、その点の行政の失敗にある。

 世界を先取りする形で進む日本の少子高齢化を背景に、国民医療費の拡大を防ごうと政府は薬価引き下げに邁進してきた。官邸や財界、財務相等の圧力を受け、厚労省がとった薬価制度改悪の数々をいちいち上げないが、この4月に導入された「ほぼ全面引き下げ」とも揶揄される毎年の薬価改定の策定過程とその過酷な中身を見れば一目瞭然。

 中長期の薬価低減政策の柱になってきたのが、後発薬の普及促進策だ。20年9月末までに8割を目標に国が尻をたたいてきた。薬価で新薬の5割以下の後発薬を国民に使ってもらえば医療費が安く済むためだ。

 国が後押しする拡大確実の有望市場に群がったのが、有象無象のメーカーだった。なにせ特許切れした新薬をものまねするだけで、研究開発に金をかける必要がないから、弱小メーカーでもやれるというわけだ。今も200ものメーカーがあるというのが後発薬業界の実情だ。

 しかし、ここに落とし穴があった。製造品質等の軽視だ。厚労省や病院等医療機関からは品質と安定供給の両方を要求されるが、供給を優先してしまいがちだ。その方が利益にもなる。後発薬企業がそういう方向に誘惑されがちな構図が生じていたのは間違いない。

 小林化工の小林社長は2月9日の記者会見で「どうしてもやめられなかった。やはり安定供給が脳裏にあった」と語っている。日医工もこの問題の調査報告書の中で需要増による製造・品質管理の現場が逼迫していたと指摘。田村社長も3月3日の会見で「現場に無理をかけ過ぎた」点を認めている。 「正直ここまで大きな問題が起きるとは思っていなかった」(小林社長)という発言からは、トップの法令順守への意識の低さが見えてくる。厚労省、日本医師会、薬剤師協会からも後発薬業界の体質を指弾する声が発せられるが、それだけで事は解決しない。

 ありていに言えば、厚労省の失策が大きい。供給拡大と品質確保を同時追求するには、そこから生じる、企業の供給拡大優先・品質不正を防ぐ必要がある。そのための事前の周到な制度設計が必要だったはずだ。

 その1つは後発薬工場の現場査察等のチェック体制の強化だ。日医工を調べた富山県の査察官は6人。これで県内医薬品企業80社の製造品質をチェックするのは至難。厚労省の査察に関係する人員体制も脆弱だ。

 米国も同様に後発薬への新薬切り替えを促進している。その一方で、工場の製造品質へのチェックは新薬並みの厳しさだ。原薬や製品を供給するインド等海外後発薬メーカーの現地工場にまで査察官が乗り込み、警告書を出して徹底的な製造工程の改善を要求するのはざら。時に出荷停止となり、第一三共が子会社にしていたランバクシー・ラボラトリーズ(インド)の経営が苦境に陥り売却に追い込まれた例もある。

やっと再編論議をする遅さ

 後発薬は新薬に比べて効能・安全性等で差別化しにくく、価格競争により薄利多売となりがちだ。その結果としての製造品質問題を起こす誘因を減らすためにも、後発薬業界の業界再編が有効になるが、ここでも厚労省の行動は鈍い。批判の高まりを受けて、やっと「業界再編への指導の必要性」を医政局経済課の林俊宏課長が発言した有り様だ。

 医薬品卸の談合にも厚労省の政策のちぐはぐさは見えている。医薬現場での過剰な値引き慣行を是正する流通ガイドラインを設定、医薬品卸を支援したはいいが、ガイドラインの精神を完全に破る談合行為を、事もあろうに国立病院の入札現場で業界最大手4社にされていたというのだから、厚労省も面子丸つぶれだ。

 ただ背景には、医薬品卸再編の結果、4社でシェア8割の寡占体制を築いても薄利にあえぎ、その根本的な原因が徹底した国の薬価引き下げや診療報酬抑制策にあるのも事実。法令違反は厳しく罰しなければいけないが、こうした行為に卸を追い込まないための適切な施策がないのか、国全体で冷静に厚労行政を徹底的に検証する必要がある。

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