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未来の会

第23回 「精神医療ダークサイド」最新事情 対話なき精神科は変わるのか?

第23回 「精神医療ダークサイド」最新事情 対話なき精神科は変わるのか?
オープンダイアローグとバイオロジー

 急性期の統合失調症などを劇的に改善させるフィンランド発の精神療法「オープンダイアローグ」が、ドキュメンタリー映画を機に日本で知られるようになってから、今年で10年になる。オープンダイアローグの普及に取り組む精神科医・斎藤環さんは、この療法の核となる「対話」について、こう説明する。

 「対話は会話と違い、結論や合意を目指さない。面と向かって、声を出して、言葉を交わす。対話の目的は『対話を続けること』であり、相手を変えることでも、結論を導き出すことでもない」

 家族療法に由来するオープンダイアローグは、西ラップランドのケロプダス病院で1980年代に始まった。医療者、家族、友人らが急性期の患者の家などに集まり、2週間を目途に毎日、対話を繰り返す。

 その効果は、既に複数の研究で証明されている。フィンランドでオープンダイアローグを導入した地域では、統合失調症と診断されても服薬が必要になる患者は35%(通常治療では100%)にとどまり、2年間の再発率は24%(同71%)に抑えられた。

 統合失調症の薬物療法では、「薬を止めると再発して前よりも悪くなる」と精神科医に脅され、薬の影響で糖尿病などを発症しても、生涯服薬を強いられる患者がほとんどだ。ところがオープンダイアローグで対応すると、再発してもまたオープンダイアローグを行うことで、以前のような寛解に至るケースが多いという。

 2022年11月、筆者らのグループは斎藤さんの講演会を横浜で開催した。満員の聴衆を前に、斎藤さんは「その人のいない所でその人の話をしない」というオープンダイアローグの大原則に加え、この療法の要点を次のように説明した。

 「クライアントの主観、すなわち彼が住んでいる世界をみんなで共有するイメージを大切にする」「『正しさ』や『客観的事実』はいったん忘れる」「『そのままでいい』よりも『あなたのことをもっと知りたい』が大事」「シンフォニー(調和)ではなくポリフォニー(多様性)を重視する」「『違い』をすり合わせて折衷案を出すのではなく、『違い』を深掘りする」「答えのない不確かな状態に耐える」等々。

 オープンダイアローグを行う際に、精神科医として最も大事なのは、偉そうにしないことだと言われている。ヒエラルキーのある集団では、開かれた対話は成立しないからだ。物腰は柔らかくても、すぐに専門性を振りかざし、「幻聴ですね」「被害妄想ですね」と決めつけて対話を阻むようではアウトだ。

 精神科医は、科学的な検査法すらない精神医療界で、なぜ何でも分かっているかのように振る舞うのか。斎藤さんは語る。「今の医療は圧倒的にバイオロジーなので、精神科医は今さら、心理士やカウンセラーのような仕事はしたくない。内科医のように正しい診断をして、正しい治療をすれば治る、という幻想を捨てられない」。

 「私は、それは間違っていると思う。しかし、多くの精神科医は三流の内科医的な立場でいることに耐えられず、自分達を一流の内科医に近いものと思いたい。一種の屈辱感とも言えるこうした発想を変えるのは難しく、オープンダイアローグ普及の妨げになっている」

 薬よりも対話を重視する精神医療が、日本各地に広まる日はやって来るのだろうか。

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