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業者との癒着で前代未聞の74人大量処分

業者との癒着で前代未聞の74人大量処分
国立病院機構の長年に亘る呆れた実態

 国内最大の病院グループで、74人もの処分者が出る癒着事件が起きた。高額な医療機器等を購入する医療機関はこれ迄も数々の癒着事件の温床となり、逮捕者を出した。それに比べると、今回の癒着事件は「金額的にはしょぼい印象」(全国紙記者)と言うが、国家公務員に準ずる待遇で働き、高い倫理観が求められる独立行政法人の複数の医療機関に於いて職員が業者とズブズブの関係を築いていたのだから、前代未聞の不祥事である。

 「職員による不適切な行為を深くお詫びします」

 年度末が差し迫った3月30日、東京・霞が関の厚生労働省で頭を下げたのは、独立行政法人「国立病院機構」の楠岡英雄理事長だ。国立病院機構は、厚労省が運営していた国立病院や国立療養所を2004年に独立行政法人化して誕生した国内最大の病院ネットワークで、全国140の病院の他、看護学校等の附属施設を持つ。北海道東北、東海北陸、近畿等全国をエリア毎に6つのグループに分けて管理し、東京都目黒区に本部が設けられている。

 前代未聞の規模の不祥事が起きたのは、機構本部と、関東信越グループ(1都9県)に所属する下志津病院(千葉県四街道市)、下総精神医療センター(千葉市緑区)、千葉東病院(同市中央区)、千葉医療センター(同)、東京医療センター(東京都目黒区)、信州上田医療センター(長野県上田市)、小諸高原病院(同県小諸市)、東埼玉病院(埼玉県蓮田市)、横浜医療センター(横浜市戸塚区)、栃木医療センター(宇都宮市)、水戸医療センター(茨城県茨城町)、渋川医療センター(群馬県渋川市)の12病院、計13カ所だ。

 「発端は千葉県の国立病院機構3病院の職員4人が、出入り業者の社長から接待を受けているとの内部通報が昨年2月、機構本部に寄せられた事だった。これを受けて本部は4人のメールの送受信記録を確認し、本人達から事情を聞いた。彼らは接待を受けた事を否定したが、メールの内容等から接待が有ったと認定された」と全国紙記者が解説する。

飲食や旅行の見返りに他社情報を漏洩

 問題の出入り業者は、国立病院機構関東信越グループの17病院と取引実績(20年度)が有る千葉県船橋市の有限会社小松電器。文具やトナーカートリッジ等の他、電化製品の修繕や工事も請け負っているが、有限会社である事からも分かる様に営業マンを多く抱える大きな会社ではない。ところが、通報が有った職員の調査をした結果、そんな小さな会社の社長から、5人の職員がバーベキューや焼き肉店で接待を受けたり、社長と盛岡や富山に旅行したり、スマートウォッチ(5万円相当)を貰ったりしていた事が分かった。

 「5人のうち1人は、他社との取引の内容や金額を社長に提供していた事が確認された。他社との契約状況が変わっていない事から、機構は情報漏洩による影響は無かったと結論付けたが、全員ではないにせよ接待の見返りがしっかりと業者側に渡っていた事が明らかになった」(全国紙記者)

 5人のうち最も大きな便宜供与を受けていたのは、下志津病院と下総精神医療センターに勤めていた共に20代の係員(当時)だ。下志津病院の係員は小松電器の社長と2回旅行に行った他、スマートウォッチも受け取っていた。下総精神医療センターの係員は、社長と盛岡旅行に行った他、焼肉をおごられており、見返りに他社の取引状況と金額を教えていた。「2人は懲戒解雇処分を受けたが、既に病院に在籍しておらず、実際には処分は行われていません」(同記者)。又、5人の中には厚労省医政局に出向後も、複数回接待を受けていた係員が居たと言う。

 それだけでは無い。通報を契機に、機構が関東信越グループの全32病院の契約事務担当者(延べ792人)を調査した所、接待を受けていなかった職員23人からも、他社の価格を同社に提供したり、一般競争入札への応札を依頼したりと、同社との不適切な関係が次々と発覚したのである。にも拘わらず、機構は、組織的な不正や小松電器以外の取引先との不適切な事案は無かったと結論付けた。

メール履歴で明らかになった不適切な便宜供与

 「23人の中には、入札の際に複数回に亘り、他社の価格情報を小松電器に提供していた者も居た。接待を受けていた係員とは別の下志津病院の20代の係員だったが、こちらも既に同病院には在籍しておらず、懲戒解雇は出来なかった」(同記者)

 接待も受けずに入札で便宜を図っていたとはにわかに信じ難いが、同社を有利にする様な不適切な入札は、千葉医療センターと信州上田医療センターでも認められた。何故こうした事が行われたのか。

 厚労省関係者は「調査は機構のメールサーバーに記録が残っている19年以降のやり取りの確認や、過去5年間の行動についての聞き取りで行われた。以前から同様の不正が行われており、慣習として引き継がれていた可能性も有るが、それは調査対象外だ」と指摘する。

 更に、同社とのズブズブの関係は意外な所にも認められた。23人のうち9人は、運送業の許可を持っていない同社に引っ越し作業を依頼したり、引っ越しの見積書を作ってもらったりしていたのだ。正に〝便利屋〟の様な扱いだが、驚くのはこうした不適切な便宜供与が、懲戒解雇処分を受けた職員が居た下志津病院と下総精神医療センターだけでなく、栃木医療センター、渋川医療センター、水戸医療センター等多岐に亘る医療施設で行われていた事だ。

何故、元国立病院で不正が続発したか

「今

回、調査対象となった契約担当者の大半は、医師ではなく一般事務の職員。彼らは原則として関東信越グループで採用され、係長に昇進すると3年程度の周期でグループ内の医療施設を異動する。小松電器は船橋市に有り、今回、接待が判明したのは千葉県内の3カ所の医療施設に居た若手職員だったが、ここで関係を築いておけばその後、関東信越全域の医療機関に〝面倒を見た〟職員が居る事になり、業者側としては様々な頼み事がし易くなる」(前出の記者)

 実際に、東京医療センターの50代の班長は、公表前の人事情報を小松電器の社長に提供していた。又、機構本部の40代の係長は、他社との取引品目と金額を毎月、同社に提供していた。業者側としては、便利屋になってでも関係を築いておく必要が有ったのだろう。

 結局、不適切な関係が認められた職員は計28人だったが、機構は管理監督責任として当該病院の院長ら上司46人も処分した。このうち小諸高原病院では、50代の班長が治験研究費を捻出するため同社に架空の請求書を作成させており、これを唆したとして院長も停職5日の懲戒処分を受けた。

 機構は更に調査を行っていると言い、処分者は増える恐れも有る。高い倫理観が求められる元国立病院で今回明らかになった呆れた実態は、氷山の一角と言われている。

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