激アツの2023年も師走に入った。気象庁によると、平年より気温の高い暖冬になるという。コロナ禍から、やっと立ち直った百貨店業界は冬物の販売不振を懸念し始めている。酷暑のせいで、鍋料理に欠かせないネギは不作で嘗て無い高値だ。気温は高いが懐は心許無い冬の到来である。
ウクライナへのロシアの軍事侵攻に加え、イスラエルとパレスチナのイスラム組織「ハマス」の軍事衝突が勃発し、世界は混迷の色を深めている。東アジアも北朝鮮・ロシア・中国と日本・米国・韓国の睨み合いが続く。歴史的な繋がりが深い日中韓の首脳会談が模索されてはいるものの、未だ光明は見↘えない。
丸2年を経過した岸田文雄内閣は支持率低迷が続く。臨時国会では、身内の世耕弘成・参院幹事長から激しい「口撃」を食らった。与党内の猛烈な反発を受け、世耕参院幹事長が首相擁護に態度を変えると、SNSでは「増税メガネと腰抜けメガネの笑えない猿芝居」と揶揄された。何とも締まりが無い。
〝腰抜けメガネ〟の三文劇場
メガネを悪者にされた眼鏡使用者からは「メガネはかけていないが、日銀の〝黄金バット〟の方がもっと酷い」と金融政策を仕切る植田和男・日本銀行総裁への批判も出ている。円安がぶり返し、株価が↘不安定だからだ。原因は米金利が「思っていた」よりも上昇し、円が売られたからだが、米国に気兼ねした財務省が円買いに二の足を踏んでいた実態も明らかになり、「こいつら何もしてない」との不満が噴き出した。
国民の不満には伏線が有る。岸田首相が貯蓄から投資への転換を進め、国民に株を買わせようとしているからだ。通貨が安定せず、日銀が政策修正を繰り返す現状で、来年から「株を買え」というのだから、「何を言ってやがる」と噛み付きたくもなるのである。
再三指摘しているが、日本は大規模金融緩和のラストランナーだから、現下の円安は当然の成り行↖きである。米国や欧州で利上げが進めば、一身に通貨安を食らうのである。メリットは国の借金である国債の利払いが最小限で済む事だが、我慢にも限界は有る。
物価を上げ、賃金が上がった上で、利上げが進み、円の価値が上がれば、バラ色の未来も開けようが、ラストランナーの走りっぷりは世界から丸見えなのだから、そう簡単には行かない。金融緩和の出口を怖々探っているから、植田総裁の表情はいつも冴えないし、国民の失望ばかりを買うのだ。アベノミクスの後始末の問題である。
縷々書いて来ると、23年は新型コロナウイルスが一段落した以外に良い事は殆ど無い。円安を享受した一部企業はちゃっかり利益を上げ、賃上げも進む様だが、国民の大半は円安と物価高の二重苦に苦しんでいる。インバウンドの外国人観光客は増えたが、著名な観光地では観光公害が問題になり、海外資本による国土の買い漁りも増えている。バブルの時代、カネ余りの日本は米国の不動産を買い漁って総スカンを食ったのだから、文句を言える立場でもないが、出口の見えない円安が暗雲の様に列島を覆っているのは否定のしようが無い。
溜まった国民の不満の矛先は当然、リーダーである岸田首相に向かう。だから、何をやっても支持率は低迷する。
「安倍晋三・元首相も出来なかった。これで支持率が下がるなら、政治家として何をすれば良いのかと言いたくなる」
自民党内主流派の重鎮、麻生太郎・副総裁のぼやきである。他国領域のミサイル基地等を破壊する反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有決定を実績に挙げて、岸田首相を擁護した発言だ。国民の不満の所在を理解出来ておらず、相変わらずトンチンカンなのだが、「何をすれば良いのか」とのフレーズに政権の現状が滲み出ている。
「腰抜けメガネ」とSNSで見下された世耕・参院幹事長が臨時国会での代表質問で、「『決断』や『言葉』に弱さを感じる」と岸田首相を批判したのも、好意的に解釈すれば、「何をすれば良いのか」が分からない政権の現状を踏まえたものだろう。
国民の不満を身内の世耕参院幹事長が代弁する事で、自民党の自浄能力の高さを示すのが狙いである。SNSの指摘通りの「猿芝居」ではあるが、岸田政権を思っての事だった、というのであればそれなりの意味が有る筈だった。
実際はどうだったかと言うと、自民党からは「お前が言うか!」とのヤジが飛びまくった。世耕参院幹事長の人望の無さである。
自民党幹部は「世耕氏は政権に責任を負う政府・与党の最高幹部の1人だから、あの発言は天に唾する様なもの。国民の多くは、自分が首相になりたいから、岸田首相を扱き下ろしたと受け取った。まったく、アホな事だ」と切り捨てた。
詳細を見てみよう。
世耕参院幹事長は代表質問で「国民が期待するリーダーの姿を示せていない」と指摘し、岸田首相の「税収増を国民に還元する」との宣言について、「給付か減税か、その両方なのか、全く伝わらない。政治家としての言葉で発信して頂きたい」と厳しく批判した。
野党陣営は「その通り」と溜飲を下げたが、岸田首相は「相当頭に来ていた」(首相周辺)という。というのも、岸田首相と世耕参院幹事長は10月中旬、東京都内のステーキハウスで2人だけで懇談している。その後、世耕参院幹事長は岸田首相の考えを先取りする形で「減税論」をぶち上げているから、減税策に関して示し合わせていた形跡が有る。
ところが、本番になると、世耕参院幹事長の下手な芝居が大暴走した上、事後には「岸田首相にエールを送るつもりだった」と猿芝居の内幕まで曝け出す始末。三文役者・世耕によって、自民党の自浄能力を示す機会は、政府・与党間の機能不全を曝け出す結果に終わった。
「劇場作戦」の失敗で、岸田首相は腹を決める。非課税世帯への給付金と所得税・住民税減税をセットで記者発表し、「企業の賃上げ支援や減税等の一連の対策を通じ、来年夏には国民所得の伸びが物価上昇を上回る状態を確実に実現したい」と宣言した。
実は与党内では「来年の所得税・住民税減税よりも即効性の高い給付の方が効果的だ」という意見が多数を占め、10月中旬、党内調整に当たっていた萩生田光一・政調会長から岸田首相に「まとめきれないかも知れない」との報告が入っていた。
この流れで考えると、世耕参院幹事長の発言は党内世論の混乱を踏まえたものと分かる。良く解釈すれば「首相の奮起を促す為」なのだが、悪く取れば「党内多数派の給付論者に配慮した、自分の人気取りの為」とも見える。いずれにしても中途半端で失敗したのだが……。
報道等によると、減税策を終始主張したのは岸田派の木原誠二・幹事長代理だったという。
首相周辺によると、岸田首相は木原幹事長代理を重用し、「最近は木原さんの言う事にしか耳を貸さない」という。木原幹事長代理は財務省出身だが、メイン・ストリームの主計や主税ではなく、証券畑の出身である。東京の名門私立・武蔵高から東大に進学しており、やはり名門私立の開成高出身の岸田首相とは馬が合うのかも知れない。株にご執心なのも何となく分かる。
古人曰く、税は政治そのもの
ともあれ、岸田首相は「ルビコンを渡った」とされる。自民党幹部が語る。
「古人曰く、税は政治そのものである。失敗すれば命取りという意味だ。岸田首相は減税を明言し、〝来年夏〟と期限を切って、国民所得が物価上昇を上回る、と宣言してしまった。語尾は濁しているが、国民にはそう聞こえた。経済は生き物だ。紛争が勃発する中で、絵に描いた通りに物事が進むとは限らない。でも、一国の首相が言った以上、どんな理由が有ろうが言い訳は通らない。命掛けの勝負という事だろう」
来年夏、減税策が奏功した後に岸田首相が描いているのはアベノミクスの終焉なのだろう。真っ当な金融政策への回帰は期待したいが、道程は存外険しそうだ。
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