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未来の会

【「集中」の是々非々 70】

【「集中」の是々非々 70】

「お一人さま問題が社会に与える損失は膨大」

「日本に忍び寄る『崩壊』の二文字」

現代日本社会では、「お一人さま」という言葉はもはや珍しくない。お一人さまになる理由は様々だ。未婚率の上昇、少子化、そして高齢化社会の進展により、身寄りのない人々が増え続けている。入院や終末期医療の現場で直面する問題は、より深刻さを増す。とりわけ医療界では、この「お一人さま」問題が静かに、しかし確実に現場を揺らし始めている。

病院に入院する際、多くの医療機関では身元保証人を求める。治療方針の決定や緊急時の判断、さらには医療費の未払いリスクを考慮した「備え」として、保証人の存在は長らく当然とされてきた。しかし、頼れる親族や知人がいない人にとっては、この段階で早くも「医療への入り口」が閉ざされかねない。

実際、多くの医師は、患者本人の意志だけでは治療の可否を決定できない場面に度々直面する。例えば、延命治療をどこまで施すか、認知症や意識障害のある患者に対する判断等。こうしたケースでは、保証人の存在が意思決定の「根拠」として求められることもある。病院側としても、支払い能力の不明確さは経営上のリスクとなり、入院の受け入れを躊躇する要因となっている。

だが、厚生労働省は明言している。「身元保証人がいないことを理由に医療の提供を拒否してはならない」と。当然の原則ではあるが、病院経営者たちからは反論も多い。「未収金が発生している」「現実的には対応しきれない」という悲鳴も上がる。理念と現実の間に深い溝が横たわっている。

この問題に対して、今こそ制度側からの支援が必要であると裁判官経験者の公証人は言う。そして「身元保証人がいない人々を支えるために、『お一人さま支援団体』の整備、成年後見制度の柔軟な運用、そして病院における医療意思決定支援の体制整備が喫急の課題だ」と語る。

これと似たような構図は不動産の世界にも見られる。東京都世田谷区は高級住宅街のイメージが強いが、実は、都内で最も多くの空き家を抱え、この問題が深刻化している。空き家の発生の理由も様々だが、高齢者の住宅所有者が亡くなり、遺言書がないために相続が滞り、相続人が決まらず、そのまま空き家として放置される。空き家は、地域の防災・防犯の観点からも問題を生む。ここにも根底には「お一人さま」の影がある。

どちらも共通して言える事は、元気なうちに「備える」ことの重要性だ。一例として公正証書による遺言書の作成がある。子や兄弟姉妹がいなくとも、自らの意思を社会に託すことは出来る。年間、1000億円超が遺産として相続人のないまま国庫に入る現実を知ると、その重要性は明白だ。そして、そうした意思を受け止める制度と支援体制を、私たちは社会全体で整備すべき時期に来ている。「誰一人、取り残さない」──この言葉を空念仏にしないために、医療・福祉・不動産、それぞれの領域で、「お一人さま」を支える社会的枠組みを築いていく必要がある。是々非々の立場から、今こそ一歩を踏み出す時である。

 

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