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コロナ対策連携で国と東京都の「微妙な関係」

コロナ対策連携で国と東京都の「微妙な関係」

首都のプライドが影響し国との人材交流が出来ない

8月下旬に東京都内の感染者が連日4000〜5000人を記録し、入院待機や自宅療養をする人が3万人を超える中、東京都が医療提供体制の再構築に向けてようやく重い腰を上げた。厚生労働省と連名で、改正感染症法に基づく病床確保の要請に踏み切ったのだ。

 国が行うのは初めてで、病床の一層の確保に期待する措置だが、この知らせに触れた世論の受け止めは「いまさら」「まだやっていなかったのか」という冷めた見方が多数を占めた。厚労省と都との関係を中心に、今回の措置について振り返りたい。

 要請の内容は以下の通りだ。コロナ患者を既に受け入れている都内の医療機関約400カ所に対し、病床を空ける事なく最大限の患者受け入れ、更なる病床確保に努めるように求める。受け入れていない250カ所の病院の他、約1万3500カ所の診療所や大学医学部、看護師養成学校には人手の足りない医療機関や宿泊療養施設への人材派遣を要請し、診療所や大学にはワクチン接種にも協力してもらいたい、というものだ。

 いわば罰則付きの措置に乗り出したという事で、田村憲久厚労相と厚労省内で会談した後に記者団のぶら下がり取材に応じた小池百合子都知事は、「通常医療の制限も視野に入れ、最大の危機を乗り越えるため総力戦で戦う」と意気込んだ。

国・東京最初のタッグで「苦い経験」

 東京都と厚労省が「タッグ」を組むのはこれで2度目だ。1度目は8月初旬に、感染者の療養・入院方針の転換を巡り、混乱を引き起こすという苦い経験をしている。この「方針転換」がうまくいかず、医療提供体制の再構築は更に瀬戸際に追↖い込まれていた。失敗の原因は明らかだ。中等症患者の取り扱いをはっきりと説明せず、感染者は「原則自宅療養」とするかのような方針を打ち出したからだ。

 これに野党のみならず、総選挙を控えた与党も反発し、説明資料の修正に追い込まれた。

 説明資料の修正だけなら大きな痛手にはならなかったが、都が作成しようとした入院基準の厳格化は見送られ、実務に影響を与えた。元々水面下で厚労省と都が入念に打ち合わせた上で発表したのが、療養・入院方針の転換で、これに合わせる形で都は血中酸素濃度の基準値を厳格化する等といった入院基準を見直す段取りだった。

 しかし、厚労省の説明不足により方針がぶれ、都の入院基準の厳格化も現場の理解を得られず、当初の想定通りに進まなかった。厚労省幹部は「中等症の扱いなどきちんと説明しなかった不手際があった」と認める。

 こうした経緯があるだけに、今回は入念に検討を重ねてきた。要請主体は東京だが、改正感染症法上では国も可能なため、早くから共同での要請を視野に入れていた。厚労省幹部は「基本的には東京都が要請する話だ。ただ、民間病院の中には都に言われたぐらいでは検討しない、というところもあるので、そうした場合は国も一緒になって要請をすればいい。いずれにしても東京都が病床を増やしやすいような形になれば受け入れたい」と話していた。

 入院制限では功を奏しなかった厚労省と東京都の連携が実を結んだ形になったが、病床は簡単に増えそうもない。要請時の都内の病床使用率は63%で、コロナ患者の受け入れが可能なようにみえる。ただ、自宅療養や入院調整中の患者は3万6600人に達しており、病床は足りていないのが実態だ。

 厚労省幹部は「高齢者へのワクチン接種が進む一方で、デルタ株が広がり、40〜50代の重症患者が増えている。この世代は高齢世代と違って、快復力もあるし、延命治療もより一生懸命やる。人手もかかり、医療従事者の消耗が激しい。当初想定した人員よりも多くかかるため、病床をフル稼働出来ない事情がある」と明かす。

 こうした事情に加え、厚労省が今春に病床確保計画を「第3波の2倍の感染者」でも耐えられるように見直す事を無理に求めたため、軽症者用の病床も紛れ込みフル稼働しない要因となっているという。医療関係者の1人は「1割ぐらい中等症や重症患者を診る事が出来ない病床が含まれているのではないか」とみる。

 別の要因もある。厚労省の別の幹部は「病院内のオペレーションとしては軽症病床から重症病床に移行するが、重症者病床が少なく、すぐに満杯になってしまうため、軽症者向け病床が空きがちになる」とも話す。与党を中心に、補助金をもらいながらコロナ患者を受け入れない医療機関があるとしてやり玉に挙げる事が多いが、この幹部は「地方ではあり得るが、都市部ではそうした医療機関は少ない。むしろ、地方では病床が少ないから数字上、そのように見えてしまう事がある」と述べる。

東京都の状況に厚労省が「助け船」

 また、東京ならではの事情として、医療機関の多さを挙げる声もある。ある政府関係者は「東京都は高度なものも含めたくさんの医療機関が乱立している。地方ならお互いに顔見知りになるが、都市部では競争相手なので協力関係になりにくい。コロナから回復した後方支援病院がなかなか出来ないのはそういう事情もある」と明かす。

 医療提供体制は一義的には都道府県の責任で構築するもので、これまで厚労省はあくまでサポート役に徹してきたが、医療崩壊寸前となった東京都の状況に厚労省が助け舟を出した形になった。医療行政に詳しい田村憲久・厚労相が積極的に介入した事が要因の1つだが、これに加えて、厚労省では迫井正深・医政局長を中心にこれまで乏しかった都との関係構築にコロナ直後から励んで、ようやくここまでたどり着いた、と評価する声もある。

 ただ、厚労省の中堅職員は「せっかく関係を構築しても小池都知事が気に入らないといって幹部を飛ばしたりするので、都庁内の職員は萎縮するし、関係構築も一からになるので非常に難しい面がある。23区の保健所をコントロール出来ないのも、こうした小池都知事のガバナンスや資質としての問題が遠因としてあると都庁職員から聞いた事がある」と声を潜める。

 厚労省と都による病床確保の要請から期限となる1週間が経過しても、指摘したような事情が邪魔をしてスムーズには進んでいない。都と厚労省の関係に抜本的な改革が必要なのかもしれない。

 ある大手紙記者は「厚労省と都の間には医系技官はおろか、キャリア官僚との人材交流もない。首都・東京都としてのプライドが影響して国との人材交流が出来ないらしいが、こうした事も含め抜本的に関係性を見直してもいいのかもしれない」と指摘する。

 療養・入院方針の転換や病床確保の要請等、厚労省と都が一体となって動く場面が奇しくも目立った8月だが、思うような成果は残せず課題だけが浮き彫りになった。

 こうした経験を来るべき今冬の感染拡大で生かしてもらうためには厚労省、とりわけ首都を預かる東京都庁のより一層の意識改革が求められるだろう。

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