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未来の会

雇用形態の見直しを促すコロナ禍の「テレワーク」

雇用形態の見直しを促すコロナ禍の「テレワーク」

新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、テレワーク(在宅勤務)を導入する企業が広がっている。4月の緊急事態宣言が拍車をかけたが、その後もテレワークを続ける企業も増えており、「アフターコロナ」「ニューノーマル」の時代における「非接触型」の新たな働き方として定着しつつあるが、雇用形態の変化も促しそうだ。

 積極的にテレワークを進める企業の代表格が大手メーカーの日立製作所だ。緊急事態宣言の発令後、原則全ての従業員を在宅勤務に移行させ、約7割程度の従業員が在宅で業務を遂行している。

 2021年4月からは、週2〜3回の在宅勤務を基本とする新たな働き方にシフトする事も表明する等、積極的な姿勢が目立つ。

 大手商社の伊藤忠商事も日立製作所に続く。本社や支店等に勤務する3000人の多くを在宅勤務に切り替えた。感染が落ち着いた6月には出社させる方針に戻したが、7月以降、再び感染が拡大した事から半数は在宅勤務とする方向に見直した。

オンラインの社員教育が今後の課題

 テレワークを実施している大手メーカーの管理職は「地獄のような通勤ラッシュもなくなったのは良かった。仕事後には近くのスーパーに行けるし、通勤時間などがなくなったことで自宅で自由な時間が増えた」と歓迎する。

 ただ、課題もあると言う。「ちょっとした雑談が仕事のヒントになったりしていたが、そうした有益な『無駄』がなくなった。自宅で1人で仕事をする時間が増え、少し寂しい気持ちもある」と話す。

 更に「入社したばかりの若手社員の教育がオンラインだとしにくく、今後社員教育をどうするかは課題となるだろう」とも指摘する。

 別の食品メーカーで働く社員は「光熱費や通信費等が余分にかかるにもかかわらず、手当がないのは不満だ」と話し、「自宅にいると長時間働き過ぎる事もある」と不平を口にする。

 都市部の大企業では、テレワークを導入しやすいが、業種や働く場所によっては難しい場合もある。民間人材会社の調査では、4〜5月の緊急事態宣言の発令中、調査対象となった1500人のうち、業種別にみると販売の96%、営業の66%はテレワークを実施出来なかったという。「対面」を基本とする仕事内容だと導入が難しいようだ。

 事務職の財務・経理でも遅れており、押印が必要な書類や紙を用いた業務が多い事が要因となっていると言う。

 一方、ITエンジニアは67%がテレワークしており、その取り組みは二極化している事が窺える。

 内閣府が5〜6月に実施したアンケート調査によると、東京圏のテレワーク実施率は49%に上る一方で、地方圏では26%にとどまっており、都市と地方での地域差も浮き彫りになった。

 医療業界は、普及が難しい業種の1つだ。オンライン診療はあるものの、そこまで進んでいない。

 新型コロナ対応限定で初診からのオンライン診療が解禁されたが、「普通の診療の感覚として初診からオンラインにするには得られる情報が少なく、誤診のリスクがある」(ある勤務医)と一部の医師には根強い抵抗感がある。

 ある病院経営者も「病院自体はテレワークとは無縁だ」と話す。ただ、製薬会社のMR(医薬情報担当者)のテレワーク化は進んでおり、ウェブでの面会が増える等、一部では進んでいると言う。

テレワークで重要なのは勤務管理

 今後、テレワークを進める上で重要なのは、勤務管理をどう適切に実施していくかだ。

 連合が6月にテレワークをした男女1000人を対象にした調査では、「ネットワーク上の出退勤管理システムでの打刻」が最も多く、27・6%を占めた。「メール等による管理者への報告」は18・7%、「パソコンなどの使用時間の記録」が16・7%と続いた。

 ただ、時間管理をしていない職場もあり、中小企業になればなるほど多くなるとみられ、課題も残る。

 長時間労働になりがちな傾向もある。この調査では、残業代支払いの対象となる時間外・休日労働については「よくあった」のが6・8%、「ときどきあった」は18・9%、「まれにあった」は12・4%に上り、全体の4割近くを占めた。65・1%が「時間外・休日労働をしたにもかかわらず申告しないことがあった」という実態もあった。

 また、「仕事とプライベートの時間の区別がつかなくなる」と訴えたのが71・2%、「勤務時間の間に定められた休憩時間がとれない」が53・6%、「通常の勤務よりも長時間労働になる」が51・5%にも上った。今後、テレワークを根付かせるためには、現状では行き届かない労働管理を改善していく必要性が浮き彫りになる。

 こうした働き方の普及は、給与体系にも影響する可能性がある。資生堂や日立製作所、富士通等の大企業は、「ジョブ型雇用」を更に進める方針だ。ジョブ型雇用は、職務や勤務形態を限定し、定められた範囲の中で人材を評価するもので、「仕事に人を合わせる」制度とよく比喩される。欧米等で広く普及している雇用形態で、業務の成果に応じて給与が決まる事が多い。終身雇用等を前提とする「メンバーシップ型雇用」とは対比して用いられる。

 政府は更に、テレワーク・在宅勤務を超え、仕事(ワーク)と休暇(バケーション)を組み合わせ、観光地等旅先で働く「ワーケーション」の普及にも取り組む。

 冷え込む観光業界への支援が主目的とみられるが、海外等でも注目されており、政府は予算措置等で後押ししていく方針だ。

 既にいくつかの地方都市では試行的に取り組むケースもみられ、参加者からは「ホテルの部屋以外のワーキングスペースの拡充」「モバイルルーターの貸し出し」等、今後の課題等が指摘されていると言う。

 ワーケーションは「一部の官僚の思い付きにすぎない」(政府関係者)のため、一過性の流行りもので終わりそうだが、テレワークは育児中や介護中の人も働け、時代のニーズにマッチする可能性が高い。

 遠隔地での勤務も可能になり、都市部の大企業に偏りがちな高度な人材や人的ネットワークが地方で生かされるようになるかもしれない。パソナのように、本社を兵庫県の淡路島に移転する等の事例も出てきている。

  あるメディア関係者は「やりようによっては日本全体の活性化に繋がる可能性もある」と話すが、普及には課題も多い。雇用形態の見直しにまで及ぶかもしれず、企業側の本来の狙いとなりそうな「副次的な」作用にも注意が必要だ。 

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