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未来の会

【「集中」の是々非々 74」】

【「集中」の是々非々 74」】

「日本企業が沈む中での快挙・第一三共」

「快進撃を生んだトップの決断は秀逸」

円安、少子化、産業競争力の低下。新聞を開けば「日本沈没」という言葉ばかりが並ぶ。しかしその一方で、世界の医療の常識を静かに、しかし確実に塗り替えている日本企業がある。第一三共である。

同社の抗がん剤「エンハーツ(Enhertu)」は、HER2陽性乳がんにとどまらず、HER2低発現乳がん、肺がん、胃がんへと適応を拡大し、がん治療の“次の標準”となりつつある。単剤で売上8,000億円規模に達するとされ、日本発の創薬が世界市場でメガヒットする、稀有な成功例となった。

この快進撃には、明確な戦略の原点がある。2010年代、第一三共が「がん領域に強みを持つ企業を目指す」と舵を切った際、その方針を明言したのが当時の社長・中山譲治氏だった。 当時の第一三共は多くの課題を抱えていた。5,000億円で買収したインドの後発薬会社は品質不良という、製薬会社として致命傷ともなる事故を起こす。そんな中で、抗体薬物複合体(ADC)という成功の保証がない分野への大規模投資は、社内外から驚きとともに慎重論も根強かった。しかし、中山氏は研究陣を信じ、ゴーサインを出した。今後、日本の名経営者の一人として評価される事になる。この高リスク戦略を背後で支えた経営陣の一人が、当時取締役であり、現在は会長として全体を統括する真鍋淳氏である。その決断の積み重ねが、今日のエンハーツの成功へと結実した。真鍋氏は、日本の製薬企業経営における「長期視点」の象徴的存在と言ってよい。

そして昨年11月7日、会場となった「AMERICAN MUSEUM OF NATURAL HISTORY」で、このエンハーツは「創薬のノーベル賞」と称されるガリエン財団(PRIX GALIEN USA 2024)を受賞した。大きな拍手の中、受賞式の壇上に立ったのは主任研究者でもあった我妻利紀氏だ。その背後には、臨床・研究の最前線で支えてきた竹下淳博士をはじめとする研究陣の長年の蓄積があった。まさに、経営・研究・開発が三位一体となった勝利である。喜びに浸る中で我妻氏は、1ヶ月後の12月5日に心疾患で急逝した。

今年、日本はノーベル賞も受賞した。基礎研究大国としての底力は今も健在である。しかし、基礎研究だけでは患者を救えない。研究成果を「薬」に変え、命を救うところまで導く企業の存在があってこそ、科学は社会に生きる。その最前線に立つのが、第一三共だ。日本は、なぜか自国の成功を素直に称えない国になってしまった。だが、第一三共とエンハーツの成功はもっと大きく報じられるべき出来事である。国は、こうした企業と研究にこそ、もっと誇りを持ち、もっと大胆に支援すべきだ。第一三共の成功は、一企業の勝利ではない。日本の科学、日本の研究、日本の産業がいまだ世界と正面から戦えると言う明確な証明だ。是々非々で言おう。
政治が迷走してもよい。だが、第一三共の成功から学び、未来をつくる国であるべきだ。エンハーツは、日本が世界に誇る数少ない“本物の希望”だ。

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