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異次元金融緩和は財界が首相にやらせている「悪行」

異次元金融緩和は財界が首相にやらせている「悪行」
政治献金テコに働き方改悪、法人税引き下げ等々の果実

この1月に公表された日本銀行の『展望レポート』は、「物価の見通し」について「2%程度に達する時期は、2019年度頃になる可能性が高い」と記されていた。ところが4月の『展望レポート』では、「2019年度までの物価見通しを従来の見通しと比べると、概ね不変である」との表現に留まっている。つまり、「2%」の「達成時期」がついに削除を余儀なくされた。

 日銀総裁の黒田東彦が、2%の物価目標を2年程度で達成するために「何でもやる」と息巻いたのは、2013年3月21日に開かれた最初の就任会見の席だった。それから5年の月日が経過した間に、黒田は6回もの2%「達成時期」の先送りを繰り返した挙げ句、異例の総裁再任から1カ月も経たないうちに、今度は「達成時期」という表現自体を抹消したことになる。これは果たして、尋常なことなのか。

 なにぶん、今年3月の物価上昇率は0・9%にすぎない。このままだとさらに何回も先送りを強いられることになるが、この30年間の日本経済は、バブル末期の数年間を除いて消費者物価上昇率が2%を超えたためしがない。さすがに厚顔で鳴る黒田でも、先送りの連続による恥のかき通しは避けたかったのだろう。

 ところが自分の面子もあってか、4月27日に開かれた金融政策決定会合後の記者会見では、2%「達成時期」の削除に関して、「『達成期限』ではなく『見通し』であることを明確にするため」だの、「目標をできるだけ早期に実現する考え方は変わらない」だのと、およそ何の説得力もない言い訳に終始した。だが、黒田がどう抗弁しようが、5年前に豪語したデフレ脱却と「2%の物価目標達成」のための「量的・質的両面からの大胆な金融緩和」が失敗したのは間違いない。

日銀国債購入で公共事業大盤振る舞い

 黒田日銀は450兆円台に上る国債をこれまで買いまくり、上場投資信託(ETF)の保有高も約24兆円に達しているが、結局はこの有様だ。将来的には金融政策を正常化する過程で償還や売却という形で手放すことにならざるを得ないが、市場にとって大きなマイナス材料となるのは必至だろう。

 果たして黒田は、2期目の在任中に自分がもたらした負の遺産に責任を持って対処する覚悟で、再任を引き受けたのだろうか。既に地方銀行の経営悪化や年金・保険の運用難といった異次元の金融緩和による副作用が出ているが、それをもたらした黒田に何か策があるとは誰しも期待してはいまい。

 罪深いのは、黒田を使って事実上、日銀を私物化している首相の安倍晋三も同様だろう。日銀が際限なく国債を買ってくれるおかげで財政ファイナンスの役割を演じ、毎年度の放漫財政が可能となって、自民党の悪癖である政権維持と選挙が目当ての公共投資の大盤振る舞いを享受できるからだ。しかも、安倍の人気取りに欠かせなくなっている株高も、日銀の買い支えによって維持される。これが私物化でなくて、何なのか。

 安倍・黒田のコンビは異次元の金融緩和で通貨の供給量を増やしてその価値を下げ、円安を誘導して「企業の収益上昇=株高」、あるいは「好景気=物価上昇」という図式を描いていた。だが、円安は必ずしも株高をもたらさなくなっている。実際、4月25日に米金利の上昇により、円は2カ月半ぶりに1㌦=109円台の円安となったが、同日の日経平均は前日比マイナス62・80円となった。

 理由は、為替を動かすファクターとして最も大きいのは日米の金利差であって、金融政策だけでは限界があるからだ。米国の金利が上昇すると金利が低い日本は金利差が拡大して円安材料となるが、今回は米国の長期金利が節目の3%を一時超えたことが大きい。投資家は金利の高い米国債に向かうから、NYダウの下げ幅も一時600㌦を超える結果となった。それが日本市場に影響したが、繰り返すように円安誘導による株高の演出というパターンは、常に生じるものではない。

 加えて、そこまでして物価上昇にこだわっても、肝心要のデフレからの脱却が可能となる保証はない。デフレの根本原因は、日銀がよく使う「デフレマインド」や、原油をはじめとする価格の低下圧力といった要素以上に、貧困化や低所得が果てしなく進んだ結果の、消費の伸び悩みにあるからだ。それを安倍と黒田が無視している限り、いくら異次元の金融緩和や追加緩和を繰り返そうが、デフレ脱却は無理なのだ。

実質賃金5%低下で企業収益拡大

 安倍や安倍追従の御用メディアは、有効求人倍率の上昇や企業収益の増大、株価上昇といった「成果」を誇りたがるが、最も重要な経済指標である実質賃金の推移については何も触れようとしない。それもそのはずで、第2次安倍内閣発足以来、実質賃金は約5%も落ち込んでいる。

 ただ、首相をすげ替えれば万事好転するほど、問題の根は浅くはない。我が国の世帯所得(子供あり)は、1995年に781万円だったが、2015年には707万円と減少している。一方で、約3000社を対象とした調査では、低賃金の非正規雇用は1994年に974万人だったが、2017年には2034万人と倍増している。逆に、正規雇用は3808万人から3473万人と、335万人分が消えてしまった。

 このように、国民の窮乏化が進む現状で、「2%」のインフレの「達成時期」にこだわることに一体何の意味があるのだろう。石油危機や恐慌でもない限り、需要が増えないのにインフレ率が上昇するなどあり得るはずもない。だが、安倍に政治献金という名の巨額の賄賂を流し込んでいる財界にとっては、実質労働賃金の低下は労働コストを圧縮し、企業収益の拡大を結果する。加えて安倍の「働き方改革」と称した財界が狙う長時間残業の合法化や残業代ゼロ制度は、さらにこの傾向に拍車を掛けるはずだ。

 財界は、安倍の円安誘導によって400兆円台という空前の額の内部留保を貯め込むことができ、消費不況などさほど痛みに感じる必要もない。デフレだろうが何だろうが、それを口実に異次元の金融緩和で日銀が自分達の株を買ってくれ、国債も購入して自民党に「真水」の大型公共投資を乱発させれば、さらに懐が肥える。その結果、いくら財政状態が危機的になろうが、法人税を下げるだけ下げさせておきながら、のうのうと「国民の痛みを伴う改革を」などと、うそぶいていられる構図だ。

 こう考えると、異次元の金融緩和とは安倍の失政というより、「今だけ、カネだけ、自分だけ」を地で行く財界が、政治献金という強力な武器で政治屋にやらせている悪行と言えなくもない。もう消滅はしたが、「1%対99%」という構造への怒りから、かつて米国で一時高揚した「オキュパイ運動」が真に求められているのは、案外、現在の日本なのかもしれない。 (敬称略)

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