SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

【「集中」の是々非々 72】

【「集中」の是々非々 72】

「ノーベル賞2冠に輝く日本〜称賛と警鐘」

「医学賞の快挙が日本経済を救う?」

 日本が再び世界の注目を集めた。2つのノーベル賞を同時に受賞したという朗報は、「沈んだままの30年」に沈滞する日本に、久々の明るい光をもたらした。限られた研究費、減少する若手研究者、老朽化した施設といった逆風の中で成し遂げた快挙である。 「奇跡」と呼ぶより、「執念」と呼ぶべきか。資金よりも情熱、制度よりも信念で突破した日本人研究者の精神力に、心からの敬意を表したい。

 日本の科学は、かつて“モノづくり国家”と呼ばれた時代から、地道な努力と長時間の研鑽によって支えられてきた。今回の受賞者たちもまた、実験室に寝泊まりし、夜を徹してデータと向き合い、失敗を積み重ねながら結果を積み上げてきた世代である。 いわば「24時間働けますか」と言われた時代の申し子たちだ。休みなく研究に打ち込み、休日の概念さえ忘れて、世界と競い合った。研究という孤独な闘いの中で、彼らは己の人生を賭けた。そして今、その努力が実を結び、世界が日本の科学を再び評価している。これは「個人の栄誉」であると同時に、「日本人の精神文化」の勝利でもある。
だが、同時に見逃してはならない現実がある。受賞者たちの多くは、いまの「ゆとり教育世代」や「働き方改革世代」ではない。彼らの青春期には「休む」という概念は希薄で、むしろ「やり抜く」ことが美徳だった。試験管を握りしめ、終電を逃してもデータを追い、真夜中の研究室で新しい発見の兆しを求め続けた。それこそが、日本の科学力を支えた「執念の文化」である。では、今の日本に、その執念を許す土壌は残っているだろうか。
ゆとり教育は、「詰め込みからの脱却」を掲げた。しかし結果として、学力と意欲の低下を招いたことは否定出来ない。学ぶ喜びよりも「ほどほどでいい」という風潮を生み、努力の価値が薄れた。そして現在、進行する「働き方改革」。確かに過労死を防ぎ、労働環境を改善するという点では意義深い。だが、その陰で「挑む人間」が減ってはいないか。武者修行の言葉が消えた。海外に打って出る研究者も少なくなった。「休むことが正義」とされる風潮の中では、真の創造力は育たない。研究も医療も、時間と情熱を燃やした者だけが新しい境地に到達する。万国共通だ。

 この構図は医療現場にも重なる。働き方改革のもと、医師の労働時間は制限され、夜勤や当直の回数が減った。だが、患者の立場から見れば、深夜の救急対応が遅れたり、休日の診療が制限されたりと、「安心の空白時間」が生じている。命を守る現場に「定時」はないはずだ。医師も看護師も、患者の一瞬一瞬と向き合っている。確かに、働き方改革は人間らしい生活を取り戻す第一歩かもしれない。しかし、医療とは効率ではなく、「信頼」と「覚悟」で成り立つ世界である。医師が「休めるようになった」代わりに、患者が「不安を抱く」社会になってはいないか。このバランスをどう取るか――それが、今の日本が抱える最大の課題だ。
ノーベル賞受賞の輝きは、過去の努力の結晶であり、同時に未来への警鐘でもある。今の制度のままで、次の世代から再びノーベル賞受賞者が生まれるだろうか。もし「過度な休息」と「過少な競争」が続くならば、その答えは否である。創造とは、苦しみの先にある歓喜だと誰かが書いていた。成功とは、汗と涙の積み重ねの果てに訪れる報酬であると誰かが書いていた。
「ゆとり」も「改革」も大切だが、若者から挑戦の炎を消してはならない。今回のノーベル賞二冠は、過去の日本が世界に示した“執念の証”。楽して得られるレベルの話ではない。未来の日本が同じ栄冠を手にするためには、再び「本気で生きる」覚悟を取り戻すしかない。そう思った。

 皆様からの情報をお待ちしております。>>>  info@zezehihi.shuchu.jp


【「集中」の是々非々 01】「大日本印刷北島社長の引責辞任」
【「集中」の是々非々 02】「悪辣な看護師派遣ビジネスで重い医療法人の財務負担」
【「集中」の是々非々 03】「日大田中理事長体制を守ってきた責任は文部科学省にある!」
【「集中」の是々非々 04】「東京にタクシーがいない・東京オリンピックにむけて大丈夫?」
【「集中」の是々非々 05】「大日本印刷北島社長の引責辞任(2)」
【「集中」の是々非々 06】「企業検診の義務化と予防医学を目指す」
【「集中」の是々非々 07】 「新型コロナウイルス対策」
【「集中」の是々非々 08】NIPT(出生前遺伝学的検査)は知る権利の一つだ」
【「集中」の是々非々 09】「地に落ちた権威・WHO」
【「集中」の是々非々 10】「世界が疑う日本発の情報」
【「集中」の是々非々 11】「新総裁候補に期待すること」
【「集中」の是々非々 12】「ファンド資金が医療法人に流入」
【「集中」の是々非々 13】「替わらない厚労省と変われない医師」
【「集中」の是々非々 14】「オンライン診療の導入を」
【「集中」の是々非々 15】「日本初の医療格付がスタート」
【「集中」の是々非々 16】「日本薬剤師連盟が頭を抱える松本純議員の行状」
【「集中」の是々非々 17】「米国医師はカルテと処方箋の記載に全精力を傾ける」
【「集中」の是々非々 18】「米国史上で最悪の医薬事件の顛末」
【「集中」の是々非々 19】「新型コロナ感染拡大の中で見る国家力」
【「集中」の是々非々 20】「尾身発言は立派の一語」
【「集中」の是々非々 21】「大学医学部の2023年問題」
【「集中」の是々非々 22】「日本の大学総長選挙が海外で注目に」
【「集中」の是々非々 23】「研究費を自ら集めまくる海外一流大学」
【「集中」の是々非々 24】「病院は不正企業の稼ぎ場なのか」
【「集中」の是々非々 25】「オリンパスの漏洩事件が医療期間へ波及する?」
【「集中」の是々非々 26】「海外メディアが配信する日本大学理事長逮捕の衝撃」
【「集中」の是々非々 27】「コロナ幽霊病棟補助金の話題が拡散中」
【「集中」の是々非々 28】「小野薬品オプジーボ訴訟から見えた日本の現状」
【「集中」の是々非々 29】「当事者になって見えたもの」
【「集中」の是々非々 30】「ジェンダー平等は時代の趨勢」
【「集中」の是々非々 31】「医療ツーリズムは国際間競争に発展」
【「集中」の是々非々 32】「岸田首相の考える健康危機管理庁(仮称)構想」
【「集中」の是々非々 33】「米連邦最高裁判所で中絶NOの判決」
【「集中」の是々非々 34】「東京電力13兆円賠償判決は医療賠償に影響」
【「集中」の是々非々 35】「東京工業大学と日本医科歯科大学の統合協議開始」
【「集中」の是々非々 36】「コンサル会社にご用心」
【「集中」の是々非々 37】「上辺だけのサービスにはご用心」
【「集中」の是々非々 38】「内部告発には迅速な対応が必要」
【「集中」の是々非々 39】「世界は混沌」
【「集中」の是々非々 40】「1000億円の損害賠償」
【「集中」の是々非々 41】「マスコミにはご用心」
【「集中」の是々非々 42】「日本の国際社会から乖離の一例」
【「集中」の是々非々 43】「日本M&Aセンターの凄み」
【「集中」の是々非々 44】「海外金融機関から期待されている集中格付」
【「集中」の是々非々 45】「有機トリチウムは恐ろしい物質」
【「集中」の是々非々 46】「海外のスパイが跋扈するお気楽な日本」
【「集中」の是々非々 47】「過疎化と高齢化がもたらす病院経営の変化」
【「集中」の是々非々 48】「強引とも思える国際基準は誰が決めるのか?」
【「集中」の是々非々 49】「新たなアインファーマシーズ事件」
【「集中」の是々非々 50】「海外臓器移植斡旋に実刑判決」
【「集中」の是々非々 51】「世界もグリニッジが標準」
【「集中」の是々非々 52】「日本の臓器移植のお寒い現状」
【「集中」の是々非々 53】「身元保証が無ければ生きていけない社会が到来」
【「集中」の是々非々 54】「日本の医療制度は世界一、秀逸」
【「集中」の是々非々 55】「製薬会社が国民から袋叩き状態に!」
【「集中」の是々非々 56】「地方の医師不足を解消するために新制度?」
【「集中」の是々非々 57】「美容医療トラブル急増」の大きなタイトル記事」
【「集中」の是々非々 58】「医師の報酬を欧米並みに高額にするべし」
【「集中」の是々非々 59】「医療現場を脅かすモンスターペイシェントの存在」
【「集中」の是々非々 60】「医師の偏在問題と僻地医療の新たなアプローチ」
【「集中」の是々非々 61】「患者代表を中医協に加える事の意義と必要性」
【「集中」の是々非々 62】「日本の女性が世界の女性と同じ権利を有する事の難しさ」
【「集中」の是々非々 63】「日本の英語力92位に転落」の記事に驚愕
【「集中」の是々非々 64】「東京女子医科大学とフジテレビに見る危機管理の欠如」
【「集中」の是々非々 65】「日本の医療の信用失墜を心配する内閣府」
【「集中」の是々非々 66】フジテレビ「調査報告書」の中立性は保たれているのか?」
【「集中」の是々非々 67】「都合の良い人間関係」が人生を壊す
【「集中」の是々非々 68】「取り残される国、日本」
【「集中」の是々非々 69】「英国最大の失敗、BREXITから学ぶ」
【「集中」の是々非々 70】「お一人さま問題が社会に与える損失は膨大」
【「集中」の是々非々 71】「画期的な手法で医療費削減を」

Return Top