SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

「マスク会食義務化」の持つ法的意味と 感染防止対策向上のインセンティブ

「マスク会食義務化」の持つ法的意味と 感染防止対策向上のインセンティブ
1.まん延防止等重点措置としての
 マスク会食義務化

 新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置(まん防)が令和3(2021)年4月5日から、初めて発動された。

 この措置は、新型インフルエンザ等対策特別措置法の令和3年2月3日付改正によって、同法第3章の2(第31条の4〜6)として創設された。

 ただし、その内容は改正前からも同様にほぼ全て定められていたけれども、緊急事態宣言中しか発動できないという決定的な欠陥があったため、それを緊急事態宣言外の時でも発動できるように法律改正をしたにすぎない。

 新たに付け加わったものと言えば、主に命令権限と、それに反した時の罰則(と言っても、刑罰ではなく、20万円以下の過料。同法第80条)くらいのものであろう。

 この重点措置は、政府が重点措置の期間・区域を明らかにして公示したら、今度はそれを受けた都道府県の知事がさらに具体化して、事業者または住民に対して必要な措置を要請する、というもの。

 要請に応じない事業者に対しては、命令(そして、違反には過料も)を発することができるとした。

 4月1日に、初めて措置の適用が決定されたのは大阪府・兵庫県・宮城県の3府県であった。期間は4月5日から5月5日までの1カ月間。そのうち大阪府については「マスク会食の義務化」というユニークな(そして、賛否両論のある)要請がなされたのである。

 また、政府は4月9日、東京都・京都府・沖縄県を重点措置の対象に指定した。期間は東京が4月12日から5月11日までの1カ月。京都と沖縄は同じく4月12日からゴールデンウィークが終わる5月5日までである。更に政府は4月15日、埼玉、千葉、神奈川、愛知の4県に重点措置を適用。期間は4月20日から5月11日までとした。

2.マスク会食は具体的な法的義務ではない

 都道府県知事の採用しうる事業者向けの措置の具体的内容としては、政令(新型インフルエンザ等対策特別措置法施行令)の第5条の5(重点区域におけるまん延の防止のために必要な措置)において8項目の措置だけが認められた。

 マスク会食に関するものは、発熱症状を呈している者の入場禁止や手指の消毒などと並んで定められた「マスクの着用」(同令第5条の5、第6号・第7号)が該当する。

 第6号の「入場をする者に対するマスクの着用その他の新型インフルエンザ等の感染の防止に関する措置の周知」と、第7号の「正当な理由がなく前号に規定する措置を講じない者の入場の禁止」に、「マスク会食」も含まれるという法解釈なのであろう。

 十分にありうる法解釈であるので、一般的抽象的にはその通りであると言ってよい。

 しかしながら、一連の食事中のマスクの着脱をどの程度に細かく頻繁に行うべきかは、強制せしめ、または、罰則を科しうるほど仔細には法規範化されていないのが現状だと評しえよう。

 そうすると、「マスク会食は具体的な法的義務ではない」と考えざるを得ない。

 つまり、「マスクの着用」をさせていない飲食店であるというレベル以上には、「マスク会食」をさせていない飲食店だと取り扱っての強制や罰則は無理なのである。

3.知事にはマスク会食を要請する権限はある

 マスク会食という具体的な法的義務までは課せられないとしても、都道府県知事にはマスク会食を要請する権限が無いというわけでは無い。

 前述の政令の第6号・第7号からして、知事はマスク会食を要請する一般的抽象的な権限を有している。店内での「マスクの着用」の1つのバリエーションとして、一般的抽象的には当然に包含していると考えられよう。

 微妙ではあるが、このことは重要な法的意味を持ちうるのである。たとえば、来店した客の全てに対して、厳格に「マスク会食」をさせていた飲食店の事業者がいたとする。

 感染防止対策を十分過ぎるほどしていたので、意図的に営業時間を20時までのところ22時に延長していたとしたら、どうなるであろうか。

 知事の時短「要請」には反しているのであるから、次は「命令」の対象になるようにも思われる。

 しかし、そもそも「命令」を発出するためには、法第31条の6第3項によれば、「正当な理由がないのに当該要請に応じないとき」であって、「特に必要があるときに限り」という2つの要件を充足しなければならない。

 この点について、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室長発出の令和3年2月12日付事務連絡によれば、「感染防止対策を講じていることについては、要請に応じない『正当な理由がある場合』には該当しない」。

 しかし、「例えば命令の際に、『特に必要があると認めるとき』に該当するかどうかを判断する際の考慮要素とすることが考えられる」と明示されている。

 つまり、「マスク会食」を守らせていれば、営業時間を延長していても、場合によれば「命令」が発せられず、事実上、営業時間の延長が認められるということもありうるかもしれない。

 もしも、このような法令の解釈と運用ができたとしたら、なかなか馴染みにくい「マスク会食」に対して、事業者にも来店客にも、長時間のゆったりとした飲食というインセンティブを与えることになるであろう。

4.店ごとに個別に営業時間延長の許可を

 甚だ残念なことであるが、そもそも「マスク会食」は嫌だ、と感じる人も多い。どうしてもマスクをすることを嫌がる欧米人に対しては、「マスク如きで、そんなに!」と感じる日本人でも、マスク着脱型の「マスク会食」となると一転して、どうしても馴染まないと感じることもあろう。

 そのような人々に少しでも清潔感を持って、かつ、嫌悪感を減らしてもらうために、「マスク会食セット」(会食中に度々マスクを取り替え支給、大量使い捨て用の口拭いペーパーの常備、手拭き用の除菌おしぼりを取り替え支給)などを用意してでも、「マスク会食」を当たり前のものとして普及させる意味はあるかもしれない。

 そして、そこまで「マスク会食」を徹底させた飲食店には、感染防止対策が充実しているとして、店ごとに個別に「営業時間延長」の「許可」を出してもよいように思う。

 そのようなインセンティブも、手強い新型コロナの感染防止対策として有効ならば、その1つとして認めるのも有益である。

 ところが、現在、個々の飲食店ごとに規制を緩和する手法は認められていないらしい。前述の事務連絡(5頁)にも「事業者全体に対して行うこと」とあるに留まる。

 したがって、政令を改正して、一般的に発出した「要請」も、特段の要件を満たして感染防止対策を徹底させた当該飲食店に対しては、個別に「要請」を解除できる権限を、知事に新たに付与してもよいように思う。

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top