
「小野薬品オプチーボ訴訟から見えた日本の現状」
【日本企業のケチな対応にはがっかり】
「集中」1月号の記事にもあるが、京都大学の本庶佑特別教授が小野薬品を提訴した訴訟は本庶教授に50億円、京都大学に230億円の寄付金を支払う事で和解した件。日本の企業の研究者に対する敬意や評価、対価や報酬の考え方が昔のまま変われない事を痛感した。以前にも今回と同じように研究者が企業を提訴したLED訴訟がある。小野薬品が少しでもこの事例を学んでいれば、ノーベル賞受賞者から提訴を受ける事はなかった筈だ。そもそも訴訟への前段階で10年以上の争いがあった訳だが、この間に和解が出来なかった理由が明らかではないが、聞くところによると一研究者の我が儘と受け止めていた節がある。この時点で小野薬品の危機管理はお粗末だったと言える。恩人とも言える研究者から提訴を受け、被告となる事だけで企業価値を毀損する。
仄聞するに、小野薬品のトップは「この和解が出来てほっとした」と言ったようだが、それは本音ながら後の祭りだろう。小野薬品は売上で言えば3,000億円の中堅企業だ。3兆円を超える武田薬品工業の10分の1でしかない。しかし、時価総額で見ると小野薬品の凄さが分かる。時価総額は1兆5千億と売上の5倍だ。2006年には何と2兆5千億円と当時の売上の10倍だった。武田薬品工業の時価総額は5兆4千億円と売上の1.7倍でしかない。この時価総額がオプチーボの評価、「オプチーボ効果」だったはずだ。そして、この時価総額急増のお陰で小野薬品の資金調達力は格段にアップしたはずだ。
筆者が残念に思うのは、この飛躍的に時価総額が増大した時点で、なぜ和解の道が取れなかったのかだ。研究者に提訴する道を選ばせた。300億円と言う金額は、「オプチーボ効果」で高い時価総額を得た小野薬品にすれば微々たる金額で、支払うべき金額だったのではないか。しかし、そう言う判断はしなかった。小野薬品側に立って見ると、前述の通り「我が儘な研究者」に映っていたに違いない。ところがどっこい、研究者はノーベル賞受賞者となってしまった。もし本庶特別教授がノーベル賞を受賞しなければ、このような和解が出来たかは疑問が残る。今後、研究者が産学協同案件に萎縮するような冷ややかな対応をした企業の責任は重い。
現実論として、一研究者が企業と戦うのは精神的にも肉体的にも厳しいものがある。企業法務には錚々たる弁護団がいるし、仕事上、相手の主張を真っ向否定する。訴訟の中で、飛んでくる企業からの反論は研究者の心を折り、尊厳を汚す。
研究者が特許申請や知的財産権などで企業と対峙するのは時間の無駄でしかない。アメリカに有名大学専門の投資会社があるように、今後日本でも、研究者の側に立ち、企業に対して研究者の特許や知的財産権獲得の指南をしてくれる存在が必要になって来たと今回の訴訟を見て感じた。
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