
「あの人、自分が国家元首で大統領だと勘違いしているんじゃないの。無理強いをして通らないとなると、睡眠時間が無いだの忙しいだのと御託ばかり並べる。謙虚さの欠片も無い」
冒頭から人気の総理への悪口で少々気は引けるのだが、半年前には「神功皇后の再来」だの「アマテラスの化身」だのと高市早苗首相を持ち上げていた、にわか自民党支持の中年男性の告白である。支持者になったのは知人から「高市さんが首相になれば株価が上がる」と聞き、実際その通りになったからだという。
金儲けという自己都合であるから、自分が買った株が暴落すれば気も変わる。無党派の人々の政党支持は移り気である。かと言って、前段の発言をナンセンスと退ける気は無い。「無理強いをして通らない」の件には政治センスが窺える。政治状況に詳しい知人等の助言が有ったのか、或いは政権の運営方針に批判的な言説に接し、共感したのだろうと思うからだ。
民主国家では、どんな理由で政党を支持しても自由である。政権運営とはその中で、より多くの国民の支持、共感を得て政策を進める事に他ならない。独裁国家とは違うのである。
高市政権の支持低下が目立ってきた。主要な報道機関の7月の世論調査では軒並み低下している。注目されているのは無党派層の支持率の変化だ。日本経済新聞では無党派層の不支持が51%、読売新聞でも47%とほぼ半数に達し、何れも支持を上回った。こうした「無党派層の離反」が支持率を押し下げたとの見方がされている。
高市内閣の支持率軒並みダウン
各社の世論調査をもう少し、見てみよう。先ずは政権に厳しい数字が出がちな毎日新聞である。支持率は前回比10ポイント減の41%、不支持率は44%で政権発足後初めて支持・不支持が逆転した。朝日新聞は支持率が同7ポイント減の53%で、30代の支持層が大きく落ち込んだとされている。読売では支持率が12ポイントも下がり、57%に落ち込んだ。読売では政権発足後、6〜7割の支持率を保ってきたが、初の5割台に急落している。
政権幹部等は毎日の「支持・不支持逆転」には、「毎日が手厳しいのはいつもの事だ」と平静を装っていたが、主要報道8社が何れも支持率大幅ダウンと知り、事の深刻さを感じ始めている。
高市支持派の自民党中堅議員が語る。
「内閣支持率には一喜一憂せず、が永田町の不文律だけど、全部下がっているのは流石に無視出来ないよな。紆余曲折は有ったけど、必要な法案は全部通した。高市首相の強気姿勢は変わっていないし、野党だって何らポイントは稼げていない。となれば、これ迄の期待が大き過ぎて、それには十分に応えられていないという事かなと思うけど……。SNSとか見ると、結構酷いよね」
高市首相の答弁や発言に対するSNSの反応を見てみよう。先ずは国会終盤、衆院予算委員会で中道改革連合の階猛幹事長が支持率低下の原因を聞いた際の答弁「原因については分かりません」から。
︿生活と関係ない法律ばかりに熱心で、円安も容認、それで「分からない」はギャグだね﹀
次は記者会見で国会運営への「反省点」を問われた際の「反省点というのは特に無い」「とにかくがむしゃらに政権公約を1つでも多く実現しようという事で頑張ってきた」との首相発言には。
︿一生懸命やりました。反省点は有りません——高市、お前小学生か。今時小学生だって、しっかり自己現状分析するよ﹀
確かに高市政権が国会で通した皇室典範の改正や国旗損壊処罰法、副首都法は、国民生活と関わりの薄いものだった。皇室典範改正では国民の多くが議論を期待した女性天皇を素通りし、「男系男子」に固執する中身だった。与党最大の実力者である麻生太郎副総裁の肝入りなのだが、国民にも皇室にも真摯に向き合う姿勢は乏しかった。
リベラル派の自民党中堅が語る。
「皇室典範は憲法と共に触り難い法律だ。或る種のタブー色がある。政権が拘ったのは改正という爪痕を残したかったからだ。中身は後回し。改正有りきだ。皇室典範が変えられたのだから、次は憲法改正って魂胆。そんなの国民にも皇室にも理解されないのは当然だろう」
自民党中堅は、国旗損壊処罰法は右派議員等による憲法改正の布石であり、日本維新の会が拘泥した副首都法は国民不在の権力ゲームの落とし所に過ぎない、と切り捨てた。勿論、高市政権にも事情は有る。支えて貰っている右派勢力の要望に応えなければ政権基盤が揺らぐし、参院の少数状況を考えれば維新にも気を遣わなければならないからだ。高市首相が「反省点」を口にしないのもそうした配慮の一環だと取れなくもない。
但し、高市内閣の支持率低下は高市首相本人の責に負う所も有りそうだ。注目を集めたのは高市首相が投稿した︿0時間〜3時間睡眠が常態化﹀との同情を誘う様なアピールへの反応だった。
︿睡眠不足による正常な判断の狂いは、泥酔状態と同じ。国家安全保障や災害対応の観点からあまりに危う過ぎる﹀
因みにこの投稿後の7月28日に熊本地震が発生している。時宜に叶った投稿となった。次は昭和世代からの投稿だ。
︿『寝てないアピール』は昭和の学生のテスト前と同じ。成果ではなく労働時間の長さで評価を求める姿勢にウンザリする﹀
何れも言葉に刺々しさは無いものの、冷静に高市首相の資質を見抜いている。ふざけ半分の投稿とは一線を画す手厳しい内容である。
高市首相に同情の余地が無い訳ではない。女性初と、もてはやされて首相になり、乾坤一擲の衆院選で圧勝したのだから、国民の期待は必要以上に膨らんだ。新たなリーダーを歓迎する「ご祝儀相場」は嘗て無い程に大きく、長引いた。ご祝儀の大きな渦の中では反省や謙虚さは無用のモノとなり、多忙の中で失われてしまったのだろう。
だが、巨大与党が国会運営に呻吟する中で、ご祝儀期間は完全に終わってしまった。報道各社の世論調査で現れた支持率の急落は、寧ろ国民が冷静な目で政権の運営や政策の遂行具合を判断する様になった証左と言えそうだ。
謙虚さは政権運営にプラス
さて、いよいよ秋口である。内政の注目点は内閣改造・自民党役員人事だろう。首相官邸筋によれば、高市首相は盆明け迄ゆっくり休み、減税関連法案を持ち出す臨時国会への対応、更には年末の予算編成・税制改正迄の運営に考えを巡らせるという。勿論、その一連の作業を担う内閣のメンバー、党役員等の人選が重要になる。
外交の方は9月下旬に国連総会で初の演説が予定されている。11月はASEAN首脳会議があり、中国との直接対話が実現されるかが試される。外交筋は「中国の態度は硬い」と言うが、11月に中国で開催されるAPEC首脳会議に向けた道筋を見出し、トランプ大統領との日米首脳会談、習近平国家主席との日中首脳会談というメインイベントに繋ぎたい所だろう。
自民党長老は「下がったとは言え、支持率は概ね5割有る。前の内閣の2倍以上だ。国民の視線は厳しくなるが、信任されているのは間違いない。危険水域でも何でもない」と余裕を見せた。
次いで口にしたのは「謙虚」の美徳だった。
「熊本地震への対応やらで忙しいが、下に任せられる部分は思い切って任せればいい。首相が激務なのは当たり前だ。国を背負っているのだから。でも、泣き言は言わない事だ。割り切って部下に任せる。首相が出て行って〝出来ません〟という訳にはいかんからね。部下の失態は厳しく処分し、自らもきちんと責任を取る。辞任じゃないぞ。きちんと説明し、謝罪し、許しを請う。支持率が高いんだから、そういう謙虚さこそが多くの共感を得るはずだ」。



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