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「損税」問題で窮地に立つ基幹病院 ~補填不足状態がこれからも続く病院がある~

「損税」問題で窮地に立つ基幹病院 ~補填不足状態がこれからも続く病院がある~
亀田隆明(かめだ・たかあき)1952年千葉県生まれ。78年日本医科大学医学部卒業。同大学附属病院第二外科入局。79年順天堂大学大学院入学。83年順天堂大学医学部胸部外科大学院修了。医学博士号取得。同年より亀田総合病院心臓血管外科勤務。85年鉄蕉会副理事長。2004〜08年国立大学法人東京医科歯科大学理事。08年同大学客員教授、鉄蕉会理事長に就任。財務総合政策研究所「持続可能な医療サービスと制度基盤に関する研究会」メンバー、財政制度等審議会「財政制度分科会財政構造改革部会」有識者などを歴任。

今年10月に予定されている消費税率10%への引き上げ。それに伴う医療機関の負担に対応するため、診療報酬の改定が行われる。8%への引き上げ時の補填は不十分だったとして、実態に見合った改定が期待されていた。特定機能病院入院基本料は1599点から1718点へと大きく伸びたが、急性期一般入院料1は現行の1591点から1650点に上がるに止まった。控除対象外消費税(損税)問題に20年以上取り組む亀田氏に話を聞いた。


——消費税率10%への引き上げに対し、診療報酬の改定で補填することになりました。

亀田 損税問題に対して、国はこれまでも診療報酬で補填するとしてきたわけですが、2014年に消費税を8%に引き上げた時の診療報酬改定が、補填不足だったことが明らかになっています。診療報酬をいじったところで、消費税を正確に反映させることなどできないのは当たり前です。大きな設備投資をしたり、医療材料を大量に使用したりする基幹病院ほど、負担が大きくなるわけですが、8%への引き上げ時には、急性期医療を担う基幹病院ほど補填不足になるという現象が起きてしまいました。この問題について国会で取り上げてくれたのは、柿沢未途・衆議院議員だけでしたね。昨年11月の厚生労働委員会での質問です。

——どのような内容だったのですか。

亀田 厚労省は、2014年の8%への引き上げ時の損税について、バラツキはあるがマクロでは十分に補填されていると言っていたわけです。ところが16年のデータで調べたところ、大幅な補填不足が明らかになりました。病院全体でも85%しか補填されていないし、特定機能病院に限ると、なんと61.7%しか補填されていないということが分かったわけです。全国医学部長病院長会議議長の山本修一先生(千葉大学医学部附属病院病院長)が、国立大学病院でどのくらい消費税補填不足が起きているかを調査したデータを出しました。柿沢議員は、そのデータに基づいて質問したのですが、15年度には全国の42の国立大学病院で約195億円の補填不足が生じていました。1病院当たり平均すると約5億円です。特定機能病院というのは、ほぼ大学病院の本院ですが、地域の基幹病院と呼ばれているような大きな病院は、特定機能病院と同じような規模で同じような医療を行っています。そういう日本中の大きな病院が、損税によって病院経営に重大な影響を受けている。柿沢議員の質問は、そういう状況を訴えていたわけです。

特定機能病院だけが大幅に伸びた理由

——今回の補填では特定機能病院だけが大きく伸びましたが、例えば亀田総合病院は、特定機能病院と同じような医療を行っているわけですね。

亀田 同じどころか、手術件数に関してはうちの方が多いくらいです。千葉大病院の1.5倍はやっていますから。ところが、今回の改定では大きな差が付いてしまいました。

——特定機能病院だけが優遇された理由は?

亀田 それは全国医学部長病院長会議がどんどんデータを出していったからでしょう。四病院団体協議会としてもそういったことは考え控除対象外消費税問題に対してアンケート調査を実施しましたが、最終的にまとまったデータは公表されませんでした。昨年7月に、日本病院会を経由して会員病院にデータを出すようにアンケート調査が実施されました。もちろん我々の病院は出しましたし、最終的にデータとしてまとまって、それがオープンになるものと思っていました。8月下旬には病院団体の関係者ともお会いして、全国医学部長病院長会議が出しているのと同様にデータをしっかり公表しましょうというお話もしました。ところが、データが出てこなかったのです。厚労省に頼まれて集めたデータだから勝手に表に出せない、というような話でした。結局、公表されなかったし、私も見ていません。どうなったのかも分かりません。結局、データをどんどん出していった大学病院だけが、しっかりと補填を勝ち取ったということです。今回の結果を見ると、国は特定機能病院だけ残せばいいと考えているのではないか、と疑いたくなります。

——なぜ大学病院のようにデータをまとめられなかったのですか。

亀田 病院をいくつかに分類しないと、きちんとしたデータは出せないと思います。特定機能病院にもいろいろな病院があるのは確かですが、400床以上で、10以上の診療科があって、大部分が大学病院の本院ですから、それなりに統一感のある集団になっているわけです。その点、病院団体には多種多様な病院が集まっています。病床数も1000床規模から数十床までありますし、急性期の病院も療養型の病院もあります。そういった病院が集まってデータを出そうとしても、なかなか意味のあるデータは出てきません。

——同じような病院のデータが必要ですね。

亀田 急性期のいわゆる基幹病院だけのデータを取れる仕組みが必要かもしれません。1つのアイデアとしては、DPC(包括支払制度)対象病院のⅡ群に分類されている病院が、大体そういう病院を含んでいるので、データを取るのにちょうどいいかもしれません。DPCⅡ群というのは、大学病院本院に準じた診療密度と一定の機能を有する病院と定義されています。我々の病院と同じような病院が多いはずなので、ここに入る病院だけでデータを取れば、特定機能病院と同じような数字が出てくると思います。もちろんDPCⅡ群に限る必要はないけれど、分かりやすいどこかで線を引くとしたら、1つの選択肢だとは思います。

控除外消費税問題はどう解決すべきか

——損税を診療報酬で補填することについてどう考えますか。

 

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