
米国の横暴が止まらない。年初の南米・ベネズエラ急襲に続き、今度は中東・イランへの攻撃である。ベネズエラでは大統領を拘束・収監する電撃作戦だったが、イランではイスラエルと組んで最高指導者・ハメネイ師ら幹部多数を殺害する荒っぽい手口だ。何れも主権国家への不当な侵害である。
イランは当然、報復する。イスラエルは元より、米軍基地の在る周辺のアラブ諸国の空港等を攻撃し、世界の原油・LNG(液化天然ガス)供給の2割を占める大動脈・ホルムズ海峡の封鎖に打って出た。中東のみならず、世界全体に影響を及ぼす軍事力の行使である。「国際法は必要無い」と言ってのける米国のトランプ大統領に世界は振り回され、瞬く間に混迷が広がった。
「2カ月連続での他国への武力干渉は流石に想定外だよ。トランプ大統領は南北アメリカを中心とした西半球重視を主張していたから、ベネズエラ攻撃はまだ理解の範囲内だが、中東、しかも大国のイランに真正面から手を出すとは」
外交政策に詳しい自民党中堅は「泥沼化を最も恐れている」と付言しながら続けた。
「米軍による中東への介入は過去に何度か有るが何れも多大な犠牲と社会・経済の不安を増長しただけだった。トランプ大統領自身、一連の中東への軍事関与を〝バカげた終わりなき戦争〟と非難してきた経緯が有る。それを、今回、自分で主導した。ユダヤ系とされる娘婿・クシュナー氏の助言も有ったのだろうが、中間選挙向けに大博打を打ったのだろうか。狙いは様々なのだろうが、トランプ大統領の腹の内が読めない」
1990年代以降の中東への大掛かりな米軍介入を少し整理してみる。米国は91年の湾岸戦争を含め、これ迄、3度の大掛かりな軍事行動を起こしている。湾岸戦争はイラクに侵略されたクウェートの解放の為、国連決議に基づく多国籍軍を率いた。2001年の米同時テロに際しては、国際テロ組織アルカイダへの報復としてアフガニスタンを攻撃。03年のイラク戦争では国際理解が得られず、有志国連合でフセイン政権打倒に動いた。
結果はどうだったか。多少端折って言うと、湾岸戦争後のサウジアラビアへの米軍常駐がアルカイダというテロ集団の台頭を招き、後のアメリカ同時多発テロに繋がる。イラク戦争は中東の政治力学を変化させ、地域でのイランの影響力が増大した。イラクは不安定化し、その混乱の中から過激なイスラム国(IS)が生まれる。そうして、テロの波が世界に広がっていった。
中東は政権や戦争の形を変えながら、怨嗟や憎しみといった不安定要因は増大し続けた。イランは反米色を強め、中国やロシアとの連携を深める。今回のイラン攻撃はその延長線上に在る。トランプ大統領の「バカげた終わりなき戦争」という論評は、こうした負の連鎖の事を言っている。湾岸戦争を負の連鎖の起点と見なす事には、イラク戦争を起点とすべき等異論は有るが、中東に視点を置く限りに於いて、米軍の介入は良い結果をもたらしたとは言い難い。
中東=西半球、トランプの変節
「バカげた戦争」に自ら乗り出したトランプ大統領の真意は諸説言われている。先の自民党中堅が指摘する様に今年秋に控えた中間選挙に向けて、これ迄の政権が失敗を重ねてきた中東問題を克服する姿勢をアピールしようと試みたのかも知れない。只、数字を変えて修正出来る関税政策と違って、踏み出してしまった戦争は容易に修正出来ない。新たにイランの最高指導者となったモジタバ師と仮に関係を修復出来たとしてもイランシンパの過激派が反米の動きを強めるのは避けられない。関税政策の様な「TACOトレード」は通用しない。
米国市民の受け止めはどうだろうか。米国での世論調査によれば、反対が43%、支持が27%である。共和党の支持者は過半数が賛意を示したが、それでも1割強は反対姿勢を明らかにしている。
米国筋によれば、同時多発テロ以降、米国民の間では武力行使への消極姿勢が目立ち、特に米兵に戦死者が出た場合はそれが際立って現れるという。先の世論調査は米兵の死者数(3月3日時点で6人)が公表される前のデータだ。今後の調査では反対が相当数増えると見込まれている。
看板の関税政策が米最高裁から否定され、他の法令でやり繰りせざるを得なくなった上、行き過ぎた移民排除政策による労働力不足等から支持率が低下しているトランプ政権。目先を変える事で、支持率低下に歯止めを掛け、中間選挙に向けて弾みを付けようというのは難しそうだ。
和平の仲介役は中国?
自民党のベテラン議員は今回の戦争は広い視野で俯瞰する必要が有るという。
「イランは中国、ロシアと親密な関係にある。ベネズエラ急襲でも感じたのだが、親中勢力の力を削ぎ落す事が本当の狙いじゃないかと思っている。核兵器開発の阻止、米軍及び同盟国の防衛、ハメネイ師をトップとしたイランの体制転換等は、そのパーツに過ぎない」
その中国は「戦闘の拡大を防ぐべきだ」「最優先は停戦と対話だ」等とコメントし、中東地域の緊張拡大に懸念を表明している。只、今の所、イランに対する軍事的支援等は匂わせておらず、慎重且つ抑制的な対応だ。ウクライナを侵攻しているロシアは中国と歩調を合わせ国連安全保障理事会等で米国を強く非難したものの、ウクライナで手一杯で動きが鈍い。寧ろ米国の目が中東に向き、ウクライナから遠ざかるのを期待している様だ。
今年最大の外交イベントは、3月31日〜4月2日に予定されるトランプ大統領の訪中である。トランプ大統領は習近平国家主席との首脳会談が迫る中、親中派のイランへの攻撃に打って出たという事になる。これをどう読むかが大事だと、先のベテラン議員は語る。
「中国の公式コメントを見ると、ヒステリックに日本を非難しているのとは異なるトーンを感じる。抑制的であり、他に何か狙っている様に感じるんだ。関税交渉の時もそうだった。報復関税で応酬する一方で、国際連携を強化し、公正なルールの遵守を強調していた。米国の横暴を逆手に取って、世界市場への浸食を着々と進めている。イラン戦争は当然、首脳会談の主要テーマになるだろう」
米国政府は当初、イラン攻撃の期間を4週間程度としていた。逆算すればトランプ大統領の訪中日程とピッタリ合う。戦争は先が読めないから、攻撃が終わっているのか、停戦になっているのかは予測不能だが、只でさえ注目度の高い米中首脳会談は中東地域のみならず、世界の行方を左右する一大交渉の場になるかも知れない。
ベテラン議員は気になるトランプ大統領の片言が有ると言う。イラン攻撃の出口戦略を語ったその全文は「長期間掛けて全面制圧するか、2〜3日で終結させ『核・ミサイル計画を再構築するなら数年後に再び会おう』と通告するか出来る」である。
ベテラン議員が引っ掛かったのは後段の「数年後に再び会おう」というフレーズだ。「前後の文脈を加味すれば変ではないが、何故か『再び会おう』だけが浮いていた。本音が滲み出た様な感じだった。『2〜3日で終結』はもう無いが、米中首脳会談後の〝再会〟は可能性が有る。中国もその辺を読み取っていると思う」
戦局は情報が錯綜し、先が読めない。戦争長期化との予想が広がる一方で、4日午後には「イランがCIAを通じて停戦を打診」との情報が駆け巡った。トランプ大統領の言動も変動が大きく、定まっていない。ベテラン議員が目を付けた米中首脳会談も、基本は両大国の意地と打算のぶつかり合いだ。イラン和平は交渉材料の1つという位置付けだろう。それでも、世界の2強(G2)のトップ交渉なのだから、少しは世界の平和と繁栄に寄与する中身になって貰わないと困る。ベテラン議員がボソッと言った。「俺は中国が和平の仲介役を買って出ると思うんだ。米中は既に摺り合わせをしているんじゃないか。勿論、邪推さ。でも、そうあって欲しいね」。




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