
政府を説得し、骨太の方針に「肥満症を含む」と追加記載
自由民主党有志の国会議員で作る「肥満症対策推進議員連盟」が、密かに注目されている。7月21日に閣議決定された政府の「経済財政運営と改革の基本方針2026」にも、初めて肥満症対策が盛り込まれたからだ。日本人でも肥満に悩む人が増えている中、政府による肥満症対策の牽引役となりそうだ。
肥満症対策推進議連は5月に設立された。会長には齋藤健元経済産業大臣を据え、顧問に加藤勝信元官房長官、田村憲久政務調査会長代行、福岡資麿元厚労大臣が就いた。設立の趣意書には、①全世代における肥満に関する正しい知識の普及と行動変容を支える環境整備、②予防から医療につながる全国的な連携基盤の構築、③専門的支援体制と研究基盤の強化——とある。
只、議連設立に奔走したのは、事務局長の渡嘉敷奈緒美元厚労副大臣だ。今年2月の衆院選で4年半ぶりに国政に復帰後、日本肥満学会等からの要望を受け、政府の肥満症対策を推進すべく水面下で動いていた。
国内に於ける肥満症の現状は放置出来ないものとなっている。国内での肥満者は約2660万人に上るとの推計が有る。日本で肥満とは、BMIが25以上の状態を指す。女性で身長158センチであれば63㌔㌘、男性で身長170センチならば73㌔グラムであれば該当しそうだ。20歳以上の男性の内、31・7%、女性は21%を占める(22年調べ)。特に問題なのが、高度肥満と呼ばれる状態でBMIは35以上だ。先程と同じ身長と仮定すれば女性は88㌔㌘、男性は102㌔㌘に達すると高度肥満と診断される。日本全体の肥満者数が微増なのに対し、高度肥満者数はこの30年で凡そ10倍に増えている。
肥満に関連する健康障害は多岐に亘っている。例えば、糖尿病や心血管疾患、高血圧、睡眠時無呼吸症候群等で、200以上に亘るとされる。この為、日本肥満学会は、「肥満の予防と管理は、国民の健康増進、医療費削減、経済生産性向上という3つの重要な利益に繋がる」と訴える。
1%の肥満解消で年間900億円の財政改善
議連の設立総会でも、渡嘉敷氏は「肥満は200以上有る病の中の上流リスクで一番根っこに有るといっても過言ではない。これを1%抑えるだけで年間900億円の財政改善が見込まれる」と問題提起。更に「日本は肥満に対しては比較的先進国だった。メタボ健診等は国家規模だが、診療報酬に反映されていなかったり、生活習慣病に肥満症が含まれていなかったり、薬物治療も進んでいるのに保健指導だったりする等の問題に、国家的に取り組む必要が有る」と強調した。
日本肥満学会の下村伊一郎大阪大教授は議連の設立総会で、▽国民健康運動による肥満・肥満症への正しい理解と啓発の強化▽保険者努力支援制度における「肥満症対策」の評価項目追加▽診療報酬の生活習慣病管理料等における肥満症の明確な位置づけ▽肥満症治療の開発研究及び適切な普及の推進▽肥満症の治療・疫学エビデンス創出の推進——を要望した。議連関係者は「全てを直ぐに取り組むのは難しいが、出来る事から政府の政策に取り込みたい」と述べている。
「肥満症」という言葉を避けている?政府
一方で、政府の取り組みはあまり進んでいない。健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目指す「健康日本21」でも肥満傾向児の減少や運動習慣者の増加等を掲げているものの、市町村は健康増進計画の策定が努力義務に留まっており、十分に浸透しているとは言い難い。「健康づくりサポートネット」でも生活習慣病等の情報を発信しているが、「肥満症」という言葉を使用していない為、直接的なイメージがし難いままだ。医療費適正化に取り組む保険者へのインセンティブとなる後期高齢者支援金の加算・減算制度で、肥満解消率が掲げられているものの、関連する施策は多くはない。
文部科学省でも、各種教科書で「過剰にエネルギーを取ると体脂肪が増えて肥満になる」や「女性のやせは、貧血や無月経の原因となり、将来の不妊症や骨粗しょう症につながる可能性がある」等と注意喚起したり、栄養教諭による個別の相談指導等にも取り組んでいたりするが、世代を超えた啓発活動が更に求められよう。
骨太の方針への記載を求めて猛烈な巻き返し
そこで、議連・学会側からの要望実現の試金石とされたのが、経済財政運営と改革の基本方針、所謂「骨太の方針」だ。骨太の方針に記載されれば、翌年度以降の予算等を獲得出来る可能性が高まるからだ。
議連は先ず決議文を纏め、上野賢一郎厚労大臣に手渡した。そこには、肥満の正しい理解と行動変容に向けた自治体の取り組み強化やメタボ健診の対象年齢拡大、生活習慣病管理料の対象疾患への肥満症追加、研究基盤強化等を求めた。
只、6月下旬に示された原案段階では、「肥満症」という言葉は何処にも記載されていなかった。この為、水面下で議連の関係議員が厚労省等に掛け合い、骨太の方針への記載を働き掛けた。原案は閣議決定される迄に何回も修正されるのだが、そこに「肥満症」はなかなか記されなかった。その決め手となったのが、7月7日に開かれた自民党の政調全体会議だった。詰め掛けた議連所属の議員等が「肥満症対策を是非入れて欲しい」と声を上げたのだ。
この猛烈とも言える巻き返しの甲斐有って、滑り込みで骨太の方針への記載が決まった。「攻めの予防医療と疾病対策」の段落で、当初は「『攻めの予防医療』を推進し、健康増進、疾病予防、早期発見及び早期介入に関係機関が連携して取り組む」とされていた「疾病予防」の頭に、「肥満症を含む」の6文字が追加された。今後、議連は年末の予算編成に向けて要望内容の具体化する様、後押ししたい考えだ。
マンジャロの乱用も新たな議題に
一方で、この議連の「裏テーマ」とも言えるのが、GLP−1受容体作動薬「マンジャロ」等の糖尿病治療薬の適正使用に向けた取り組みの強化だ。若者を中心に痩せる目的で適応外使用されているからだ。
議連の趣意書にも、「学校教育や保護者への啓発を通じた若年層の適正体重の理解促進、適度な痩せ願望や誤ったダイエットによる健康被害の予防を含む」と匂わせている。議連の設立総会でも問題視されており、渡嘉敷氏が挨拶で「肥満の治療薬と称してマンジャロがオンライン診療で簡単に手に入る状況に有る。間違った情報を基に手を出す人が非常に多く、トラブルになっている」と指摘している。
マンジャロの乱用は社会問題にもなっており、流産や膵炎等の副作用は23〜25年で44例報告されている。オンライン診療等で大量に処方を受けた人が中国に「輸出」したり、海外から安く仕入れて処方する事で「利鞘」を稼いだりするケース等が有るといい、製造販売元の日本イーライリリーも手を焼いていると見られる。
この様にマンジャロの乱用が蔓延っている為、大阪府警は6月2日、病院で処方されたマンジャロを販売したり、SNSで入手したマンジャロを販売目的で自宅保管したりした男女3人を摘発し書類送検した。インフルエンサーが軽率に使用を勧めたのが「炎上」した事も有った。
乱用される背景の1つが、マンジャロには最適使用推進ガイドラインが設定されておらず、施設や患者の基準等の制限が無い事だ。学会等でガイドライン的なものを策定する事等が考えられるが、直ぐに対応するのは難しいと見られる。議連としては何らかの対応を検討する方針で、今後会合を開いて対応したい考えだ。今は一部に留まっているが、肥満症対策推進議連の取り組みに注目が集まるかもしれない。



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