SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第28回 「精神医療ダークサイド」最新事情 低下する精神病床利用率が70%台へ

第28回 「精神医療ダークサイド」最新事情 低下する精神病床利用率が70%台へ
地域ケアへの移行戦略が不可欠

民間精神科病院に看護師として45年間勤務し、現在は地域ケアを拡大するための活動を続ける氏家憲章さんは、厚労省の病院報告をもとに、精神科病院の病床利用率などのデータを定期的に発信している。今春、各地の患者支援組織などに送った最新レポートの見出しは、かなり衝撃的だった。

「(全国平均の病床利用率は)今年早々にも70%台突入が濃厚」

日本の精神病床数は33万床にのぼり、全世界の2割を占める。その9割を民間病院が抱えているのも特徴だ。一般病院では、病床利用率の損益分岐点は80%くらいとされるが、国が「安かろう、悪かろう」経営を肯定し、診療報酬を低く抑えてきた精神科病院の経営は、病床利用率90%台を維持しないと厳しい。氏家さんの集計によると、この割合が2022年12月の全国平均で80・3%となり、前年同月比で2・6%も低下した。今年中に70%台に突入するのは確実とみられる。異質の排除を好む国民性にも支えられ、精神病床数はピーク時の1990年代前半には36万床を超え、在院患者数は35万人近くに達した。約30年後の現在、病床数は約4万床減り、在院患者数は9万人近く減った。長い年月を要したものの、世界に恥ずべき隔離収容政策は揺らぎ始めている。

病床利用率の低下要因としては、①統合失調症患者らの入院期間が短縮して新規の長期入院が減っている、②数十年も病院に閉じ込められて高齢化した患者たちが死亡する時期にきている、③認知症患者の長期入院でベッドを埋める戦略がそれほど成功していない、等が挙げられる。22年12月の平均病床利用率を都道府県別にみると、経営青信号の90%台はゼロ。黄信号の80%台が24都道府県で51%を占め、赤信号の70%台と60%台も計23府県にのぼった。60%台は、福島県(68・5%)と和歌山県(68・1%)の2県だった。この値は都道府県ごとの平均値なので、数字が低い県にも空床が少ない優良経営病院(患者にとっての優良病院とは限らない)はある。一方、平均値以下の病院も少なくないので、このままいけば遠からず、精神科病院の経営破綻が相次ぐことになるだろう。

既に経営危機にある病院の実態について、氏家さんはこう明かす。「病棟改修時の多額の借金がまだ残っているのに、空床だらけの病院もある。施設を売り払っても完済できないので、とにかく延命しなければならない。まず切り詰めるのは人件費なので、看護師は安く雇える年金生活者ばかりになり、80歳代の看護師も働いている。これでは災害などの緊急事態に対応できない」

筆者は、患者のための病院づくりに本気で取り組む民間精神科病院には生き残って欲しいと願っているが、患者を地域で支える仕組みへの移行は待ったなしだ。氏家さんは次のように語る。

「質の悪い病院は経営破綻に追い込まれていく。でも、それを喜んでいるだけではだめ。地域ケア中心の精神医療に一気に転換するため、あらゆる層が今すぐにでも知恵を出し合う必要がある。日本と同様に、民間の精神科病院が多い国でありながら、10年以降の改革で精神病床を3割減らし、地域ケアを拡大したベルギーの取り組みが参考になる。コロナの問題が収まってきたので、ベルギーの関係者を日本に招くなどして学ぶ機会を増やしたい」


ジャーナリスト:佐藤 光展

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top