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第144回 浜六郎の臨床副作用ノート 経口コロナ剤の効力・安全疑問

第144回 浜六郎の臨床副作用ノート 経口コロナ剤の効力・安全疑問

 2021年12月24日、軽症・中等症のCOVID-19(いわゆる新型コロナウイルス感染症)の治療用剤として、抗ウイルス剤のモルヌピラビル(ラゲブリオ®)が「特例承認」された。リスク因子を有する軽症・中等症のCOVID-19患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)の中間解析で、入院または死亡(入院/死亡)が、プラセボ群377人中14.1%に対してモルヌピラビル群385人中7.3%とされ、半減したとの発表が根拠となっている。リスク因子とは肥満(BMI≧30)、61歳以上、糖尿病、慢性腎障害、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、重篤な心臓病、活動性のがんの7種類である。薬のチェックでは、根拠情報を詳しく点検し速報した1)。その概略を紹介する。

中間解析以降の対象者では悪化傾向

 割り付けられた1433人全員の最終解析2)では、入院/死亡はプラセボ群699人中9.7%、モルヌピラビル群709人中6.8%、ハザード比0.69(95%CI:0.48-1.01)と、入院/死亡の減少は半分ではなく3割減であり有意ではなかった。中間解析には入れられず、最終解析で集計された対象者の入院/死亡の割合はモルヌピラビル群のほうが多い(4.7%対6.2%)。

重症化リスク者の割合に重大な偏り

 最大の問題点は重症化リスク因子の有意な偏りである。糖尿病や腎臓病、慢性閉塞性呼吸器疾患(COPD)、活動性のがんを保有する人の割合を合計するとプラセボ群(28.4%)よりもモルヌピラビル群(19.4%)に有意に少ない(オッズ比0.61、p=0.0034)。特にCOPD合併者は単独でも有意だ(p=0.0046)。

 最終解析対象者でも4因子保有者の割合の合計はオッズ比0.77(p=0.026)と有意であった。

良すぎる結果は、データ操作の影響の可能性大

 最終解析での背景リスク因子の有意な偏りはランダム割り付けが不適切であった可能性を示唆する。また、中間解析でのCOPDをはじめとする背景因子の著しい偏りと、中間解析前後での結果の逆転は、中間解析への組み入れが恣意的に選択された可能性を強く示唆する。

 サブグループ解析では、糖尿病や重症心臓病を有する人には無効であった。肥満者や女性では一見良い結果が示されたが他のリスク因子の偏りが影響した可能性が大きく、有効とは言えない。中間解析のサブグループ解析で中等症には有意に効果があると報告されたが、中等症対象の別のRCT2件が無効のため試験を中断しており、大きく矛盾している。

骨髄毒性やウイルスの変異に要注意

 モルヌピラビルはファビピラビルやリバビリンなどの類似物質で、ウイルス遺伝子に変異をもたらし増殖できなくし、ヒトの細胞分裂も抑制する。ヒト用量の0.4倍をイヌに22日間使用して不可逆性の全血液細胞障害(骨髄抑制)が認められた。軽症・中等症に多用すると、ウイルスの変異を招くこと、また、毒性が大いに問題となる。

情報が開示され、再解析が必要

 COVID-19用に特例承認されたレムデシビルやバリシチニブなど他の抗ウイルス剤の試験データも大きく矛盾していた。タミフルなどのシステマティックレビューと同様、総括報告書を開示させ検証が必要である。使用しないのが安全と考える。

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