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「必勝しゃもじ」を批判する立憲民主党の外交不見識

「必勝しゃもじ」を批判する立憲民主党の外交不見識
ウクライナ戦争が炙り出した親露・偽リベラルの欺瞞

岸田文雄・首相が3月にウクライナを電撃訪問した際、ゼレンスキー・大統領に土産として渡した「必勝しゃもじ」が野党やリベラル左派系メディアから批判を浴びた。しかし、何が問題だったのだろうか。

 しゃもじは岸田首相の地元広島の名勝宮島の特産品。「飯取る」と「敵を召し捕る」の語呂合わせから戦前・戦中は「必勝祈願」に奉納され、戦後は選挙やスポーツの勝利を願う験担ぎのアイテムとして親しまれている。今年5月に広島で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)の議長国として、ロシアによるウクライナ侵略を非難し、ウクライナを支持する姿勢を明確にするに当たって、ウクライナの必勝を祈願するしゃもじを贈った事が何故批判されなければならないのか。

ロシアを利する「中立」「平和」「停戦」主張

 泉健太・立憲民主党代表曰く「戦争中の国家の元首に対し、緊迫した外交の中において必勝しゃもじを贈るというのは違和感が拭えない。日本の国内では、例えば受験の合格であったり、甲子園を始めとしたスポーツの応援であったり、選挙の応援であったり、平時における必勝という事で戦後は愛用されている」。つまり、受験やスポーツ、選挙の験担ぎに使うものを戦争中の国に贈るのは不謹慎だと言いたい様だ。

 続けて泉代表はこうも指摘した。「戦前の日清・日露戦争の『敵を召し捕る』という文脈でゼレンスキー大統領に日本の総理として必勝しゃもじを贈ったのならば、戦前の験を担いで今のウクライナに『もっと戦え、必ず勝て』と外からメッセージを送るという意味で二重に違和感があった」。では逆に泉代表に問いたい。立憲民主党はウクライナに対して「もう戦うのは止めろ、勝たなくて良い」と言いたいのか。ロシアがウクライナ侵略の果実を得る事を認めるのか。その主張が結果的にロシアを利する事が分からないのだろうか。

 人類が2度の世界大戦を経て辿り着いたのが、力による現状変更は認めないという戦後国際秩序だ。国連憲章第2条4項には「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」と定められている。これをどの国よりも守る責務を負う安全保障理事会常任理事国の1つが公然と踏みにじり、国際社会に核の脅しを突き付けて隣国への武力侵攻を続けている。

 岸田政権は米国に言われて嫌々ウクライナを支持しているのではない。ここでロシアの蛮行を許す事になれば、ロシアに続いて戦後国際秩序の破壊を試みる「ならず者国家」が他にも現れる恐れが有る。現にこの東アジアでは、中国が拡張主義的な姿勢を隠さず、核開発を進める北朝鮮が挑発的なミサイル発射を繰り返している。中国がロシアのウクライナ侵略を批判しないのは、自らが台湾に侵攻する思惑からではないかと誰もが疑う。

 国際社会は今、ロシアにウクライナ侵略を止めさせて平和と安定の秩序維持へ向かうのか、それとも、ウクライナを救う事が出来ず戦争と混沌の未来へ向かうのか、その岐路に在る。ここでウクライナの必勝を祈願する事に違和感が有るのだとすれば、我が国の野党第1党にこそ外交・安全保障を背負う覚悟が欠けているのではないか。

 ロシアによるウクライナ侵略が始まって1年以上が経過する中で、リベラル左派系の論者からしばしば発せられて来たのが「中立」「平和」「停戦」の主張だ。そこに反米感情が絡まり、「ロシアは勿論悪いが、ロシアを追い込んだ米国も悪い」という「どっちもどっち」論が語られて来た。ロシアによるウクライナ侵略を「米露の代理戦争」等と論じる識者に至っては、「代理」という日本語を理解しているのか、ロシアを代理して誰が戦っているのかと問い詰めたくなる。日本のリベラル言論界は、自由と民主主義を重んじる立場でウクライナと連帯する本物のリベラル派と、自由・民主の原則より反米・親露・親中の意識が勝る偽物のリベラル派に分かれる実態を露呈した。

政権交代可能な政治体制は遙か遠く

立憲民主党全体が偽リベラルに加担しているとは思わない。前述した泉代表の発言前半は、必勝しゃもじ批判の根拠として不謹慎さを指摘していたが、仮に受験や選挙の御守りを戦時国に贈るのが不謹慎だと感じる日本人が一定数居たとして、それはウクライナ側にとって問題になる事なのだろうか。その様に受け取る日本人が居るという説明を受けなければウクライナ側には理解出来ない話ではないのか。実際、必勝しゃもじが日本国内で批判されたのに対し、ウクライナ側からは必勝しゃもじを歓迎し岸田首相を擁護するメッセージが発信された。

 泉代表は日本国内の内向きの感覚で揚げ足を取ろうとしただけなのかも知れないが、ウクライナ情勢が緊迫する中、政権を批判する目的でロシアを利する主張を展開したのだとすれば、それこそ不謹慎だと言わねばなるまい。岸田首相に国会で「日本がやるべきは如何に和平を行うかだ」等と詰め寄った野党議員達は反戦・平和の信念に従っただけなのかも知れないが、それが親露・偽リベラルの主張と重なる事に気付かない時点で将来の与党を目指す政治家として失格だろう。

 朝日新聞の看板コラム「天声人語」が「敵も味方も、多くの人命が失われている。平和外交を掲げる国として、『必勝』などと言った単純な言葉で、戦争へのメッセージを発するべきだったのか」と噛み付いたのを始め、リベラル左派系メディアには「非礼」「緊張感がない」等の文字が躍った。その中で、4月3日付毎日新聞朝刊のコラム「風知草」が国会論戦について「宮島名産『必勝しゃもじ』が首脳外交の土産にふさわしいか否か——で紛糾する現状は寒心に堪えない」と難じたのは当を得た論考として目を引いた。

 必勝しゃもじに対しては、与党内からも「対ロシア外交として問題だ」との批判が聞こえて来た。北方領土返還交渉の進展を期待してプーチン・露大統領に接近した安倍晋三・元首相の悪しき遺産と言えるかも知れない。安倍—プーチン時代の蜜月関係を利用してロシアに撤退を迫る気概が有るなら別だが、サハリンの石油・天然ガス利権等を念頭にロシアとの決定的な対立を避けたい思惑が残っているのだとすれば、事ここに至って尚もロシアの歓心を買おうとする浅ましさは、外交音痴を通り越して醜悪にすら映る。

 岸田首相のウクライナ訪問は、習近平・中国国家主席のロシア訪問と重なった。東アジアの2つの大国がロシアのウクライナ侵略に対して180度違うスタンスを取っている事が国際社会に向けて発信された意義は大きい。我が国にとっては、安倍政権時代の親露・親プーチン色を払拭する外交成果になった事を率直に評価したい。

 政権交代可能な政治体制には外交・安全保障の継続性が必要とされる。野党は政府の外交を批判するなと言いたいのではない。日本と国際社会の有るべき姿をどう描き、その理想にどう近付けて行くのかについて、与野党が互いの深い思慮と見識をぶつけ合う建設的な国会論戦を望むのは無い物ねだりなのか。G7広島サミット後の衆院解散・総選挙も取り沙汰される中、政権担当能力無き野党が岸田政権を下支えする構図が続く。

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