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未来の会

第153回 ハマの騒動と菅政権の命運

第153回 ハマの騒動と菅政権の命運
横浜市長選にも影響を与えた「ハマのドン」藤木幸夫氏

 ワクチン接種がやっと軌道に乗り、株価も持ち直して一息つきたい菅義偉政権がまたもや身内に足を引っ張られる事態に見舞われている。地元の横浜市長選(8月8日告示、22日投開票)に恩師の息子で、腹心の小此木八郎・前国家公安委員長(56歳)=衆院神奈川3区=が「IR(統合型リゾート)構想の取りやめ」を掲げて立候補を表明したからだ。

 IR構想は菅政権の観光政策の目玉だ。側近の閣僚に突然辞任された上、後足で砂をかけられたようなものだ。横浜市長選で小此木・前国家公安委員長が敗れる事にでもなれば、首相としても自民党総裁としても面目は丸つぶれ。自民党総裁再選や衆院選にも暗雲がかかる。

IR誘致反対の裏事情

 「もし市長になる事が出来れば、最初の私の仕事はIR(統合型リゾート)構想を取りやめる事だ」

 小此木前国家公安委員長は6月25日午前、首相官邸で菅首相に辞表を提出。同日夕、横浜市役所での記者会見で「IR誘致中止の方針」を正式に表明した。小此木前国家公安委員長は、従来のIR推進からIR反対に転じた理由について「新型コロナウイルスがまん延し始めた2020年頃から首をかしげるところが出てきた」と説明。昨年末以降、菅首相にも「そもそも信頼を十分に得られていない中、コロナ禍で本当に(誘致を)進めるのか」と疑問を投げ掛けていた事を明らかにした。菅政権や衆院選にも配慮し、無所属で立候補するという。

 横浜市長選を巡っては、菅首相らと歩調を合わせてIR構想を進めてきた現職の林文子市長(75歳)に対し、菅首相らが4選を支持しない方針を示し、自民党の候補者選びが難航していた経緯がある。その候補調整に当たっていたのが自民党神奈川県連会長だった小此木前国家公安委員長だった。菅首相周辺が語る。

 「小此木さんが悩まれていた事は重々承知していた。小此木さんの名前が浮上した際も、本命候補を誘い出すためのアクションだろうとも思った。結局、候補者調整が不調に終わった事の責任を取ったのだろうが……」

 少し言いよどんで菅首相周辺が続ける。

 「IR反対は林市長への対抗軸なんだろうが、IR推進でやってきた小此木さんの自己否定でもある。いわば両刃の剣だ。IR推進派の自民系市議が離反しないとも限らない。反対派の市民の賛同は得られるのかもしれないが、それも未知数。結局、先代の小此木彦三郎さん(元通産相)から世話になっている〝ハマのドン〟の意向をくんだとしか思えない」

 ハマのドンとは、横浜港運協会会長を昨年退任した藤木幸夫・横浜港ハーバーリゾート協会会長(90歳)の事だ。港湾運送大手の藤木企業のオーナーで、小此木前国家公安委員長の父、故彦三郎元通産相の後ろ盾でもあった実力者だ。菅首相は彦三郎元通産相の秘書として政治を学んだ。藤木会長とは旧知の間柄だ。

 ところが、IR構想を巡って、関係が悪化する。藤木会長はIR誘致反対を明確にし、安倍晋三政権で推進役となってきた当時の菅官房長官との対立が表面化した。菅政権に代わっても対立構造は続いたが、首相との力量差はいかんともしがたい状況だった。

 転換点は米大統領選だった。世界的なカジノのあるラスベガスと親密で、IR誘致に積極的だったトランプ大統領が選挙に敗れ、IR誘致に関心の薄いバイデン政権が誕生したからだ。IR推進派の自民党中堅議員が語る。

 「大統領選後、雰囲気はガラッと変わったね。米国のカジノの日本進出の機運はすっかり冷めてしまった。今、動いているのはカネ余りの中国系企業ばっかりだ。コロナ禍も大きいね。中国への不信感は消えず、横浜辺りだって、中国企業なんか来なくていいという雰囲気さえ漂っている」

 時流を読み取って動いたのが藤木会長だった。4月19日。横浜港ハーバーリゾート協会の集会で、地元選出の菅首相を槍玉に挙げた。

 「あの人は旅人なんだよ。世の中、旅人と村人(住民)しかいない。村人は村の事に責任を持つけど、旅人は旅人なんです。横浜について余計な事を言うなという事です」

 舌鋒は市長選候補に名前が挙がった三原じゅん子・自民党参院議員(56歳)にも及び、「自民党は1人1人はいつもいいこと言うけれど、一緒になるとドブみたいな臭いがする結論を持ってくる。言わされているんだな。バッジを付けると終わり」と切り捨てた。

 自分自身を「オーバーランスピーキング(脱線発言)の名人」という藤木会長は「気持ちから言えば、俺が立候補したいよ、本当に。90で俺、当選するからね。でも次の日から歩けなくなっちゃうと困っちゃうから、勘弁してもらうけど」と冗談を交えながら、IR断固阻止に不退転の決意を示した。

 時の首相を「旅人」呼ばわりし、「村の事に口を出すな」とすごみを利かせたのだから、ただでさえ頭の上がらない小此木前国家公安委員長は頭を抱えたに違いない。

 「卒寿の藤木さんにあそこまで言われたら、自らの責任で収拾せざるを得ないと覚悟を決めたんだろう。菅VS藤木も巷間言われているようなひどい状況ではないと思うな。米大統領選以降のカジノを取り巻く状況も菅首相は分かっている。ゴリ押しする気は無いし、小此木さんの行動もある程度予想していたんじゃないか。横浜誘致を消しても、IR自体は残る工夫を考えるだろう」

〝国政とは別〟は通用しない?

 自民党幹部が心配なのは選挙の行方だと言う。

 「小此木さんがIR誘致反対を掲げた事で、立憲民主党が推す横浜市立大医学部の山中竹春教授(48歳)ら野党勢力との対立軸は消えた。しかし、林市長が立候補した事で、IRを巡って保守が分裂し、野党候補に敗れる可能性すらある」

 横浜市長選を巡っては7月15日時点で、現職の林市長をはじめ、元東京地検特捜部検事の郷原信郎・弁護士(66歳)や田中康夫・元長野県知事(65歳)ら9人が出馬を表明している。市長選立候補者の過去最多(6人)を更新する事は確実で、候補者乱立の様相となっている。

 小此木前国家公安委員長が争点消しに動いたIR構想を巡っても、希望の党の創立メンバーだった福田峰之・元内閣府副大臣(57歳)が誘致推進を掲げて立候補の構えだ。林市長の動向いかんでは、再び主要な争点として浮上する事もあり得る。

 自民党長老がしぶい声を上げた。

 「従来は、『横浜だろうが東京だろうが、1地方選挙であり、国政とは別』という言い逃れが出来たが、今回は、現職閣僚が辞任して臨んだ首相の地元の選挙だ。やむを得ない事情ではあるとしても閣僚放棄の責任もあるし、言い逃れは出来ないな。政権の信が問われる選挙になってしまう」。投開票は東京五輪後の8月22日。ハマのやっかいな熱い戦いが続く。

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