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第137回 政界サーチ G7広島サミットと『日本の誇り』

第137回 政界サーチ G7広島サミットと『日本の誇り』

岸田文雄・首相が心待ちにしているG7広島サミットが5月19〜21日に開催される。ポストコロナ時代と、ロシアによるウクライナ侵攻で様変わりした世界秩序にどう対処して行くかが問われる重要な会議になる。

 唯一の被爆国であり、戦後、平和主義を貫いて来た日本の原点の1つとも言えるヒロシマに、核保有国である英米仏の首脳らが訪れて世界平和を語り合う事の意味は大きい。広島出身の岸田首相でなくとも、人類の未来に大きく影響するであろう「核」との付き合い方を主要国のメンバーが再認識する事の意義は十分理解出来る。

 但し、サミットの性質上、こうした認識を共有出来るのは民主主義・資本主義陣営だけである。ロシア、中国といった対極にある陣営から見れば、敵対勢力が結束固めをしているとしか映らないだろう。ウクライナ侵攻に端を発する新冷戦時代の「壁」をどう解消して行くのか。平和主義は日本の誇りである。「友敵構造」を超えた有意義な議論をする事を期待したい。

 広島サミットに向けて、岸田首相は「人間の安全保障とユニバーサル・ヘルス・カバレッジ」という論文を発表している。新型コロナの様な世界的な健康危機に対する予防・備え・対応を強化し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジに繋がる強靱で持続可能な保険システムを構築しようとの提案である。小難しいが、要は2度と新型コロナの様な世界的混乱を招かない様各国が協力して、命と健康を守る仕組みを作ろうという話である。

 内容自体は、世界保健機構(WHO)等様々な機関でも提唱されているものだが、財政力の高い主要国が結束して、取り組みを進めようという所に新味が有る。新型コロナではワクチンや薬が偏在し、財政力の乏しい国々は危機に瀕した。世界規模でパンデミックに対処出来る新たな仕組み作りを目指すという。

 論文は外務省・厚生労働省合作の作文と見えない事も無いが、端々に人類全体に訴える人間主義を感じる。深読みかも知れないが、「この分野なら、中国やロシアにも共感を得られるのではないか」という思いが滲んでいる様に思える。G7はウクライナへの連帯を表明している以上、停戦前にロシアの経済制裁を緩める訳にはいかない。かといって、ロシアとの接点が何も無いというのでは先々が危うい。人類普遍の問題は話し合いの端緒になるのかも知れない。

 多少の期待も込めて、広島サミットを展望してみた。防衛力強化、台湾有事の対応等、尖った話ばかりでなく、新冷戦の壁を超える英知が問われているからだ。

 さて、文字通り故郷に錦を飾る事になる岸田首相だが、世評は相変わらずだ。景気回復の兆しから、一部で内閣支持率は回復したものの、発言の度に挙げ足を取られ、格調高い論文も余り顧みられていない。それを象徴するのが、2月末の自民党大会後にSNS上で流布した「#自民党全員落選運動」である。問題の自民党大会を振り返ってみる。

〝安倍色〟の岸田首相に批判殺到

 岸田首相は自民党大会の演説で、安倍晋三・元首相の死去について「失ったものの大きさを実感せざるを得ません」と悼んだ上で、こう述べた。

 「この10年は、民主党政権によって失われた日本の誇り、自信、活力を取り戻す為に、皆で力を合わせ、大きくこの国を前進させた『前進の10年』でありました。今こそ、安倍元総理、そして菅前総理が築いてこられた『前進の10年』の成果の礎の上に、『次の10年』を創るため、新たな一歩を踏み出す時です」

 お気付きの方も多いと思うが、この演説は安倍元首相のパクリである。「日本を取り戻す」は安倍元首相が好んだ表現であり、民主党政権を〝ディスる〟のも又同様だ。パクリ演説は、何だかまとまりの無い党内最大派閥・安倍派への気遣いと見られるが、宏池会関係者からは「安倍派が離反したら政権が持たないから、改憲や防衛力強化に言及するのは分かるが、『ハト派』の宏池会色が全く消えてしまった」との声も漏れた。

 問題はこの後に勃発する。SNS上で瞬く間に批判が広がったのだ。言葉はきついが、コメントが面白いので紹介したい。先ずは、やはり、安倍色に染まった岸田首相から。

 「言い草まで誰かさんに似てきたよ 自分ら何年政権担当してんだよ。たった3年の政党に責任なすりつけてんじゃねーよ」

 至言である。民主党支持者かも知れないが、東日本大震災という未曾有の危機に直面し、自民党の協力も得られなかったという事情も考慮すれば、民主党批判の愚かさがよく分かる。

 次もなかなかだ。

 「岸田さんは、頭のどっかで『安倍や菅の後で可哀想だ』と同情してた部分もあったけど…10年も前の事まだ言ってるんか?そして直近の10年のことは棚に上げるんですかね?ダメなリーダーの典型じゃんね」

 ダメ押しはこの2つ。まとめて。

 「いや、我が国は自民党の30年間で所得・人口・国際競争力など数えたらキリがないほど後退してるがな」「日本の誇りを失ったのは、どう考えても自民党政権、この10年で何もかも失われた」

 ツイッター上では「#自民党全員落選運動」というハッシュタグが登場。児童手当の所得制限撤廃に反対する保守派議員らが槍玉に挙げられ、防衛費増額、原発再開等の政策が批判を浴びた。

 自民党選対関係者が語る。

 「投稿者の多くは選挙に行かない人だと思いたいけど、何かそうでもないんだよね。岸田さんのあの演説はらしくなかった。民主党批判はカリスマの有る安倍さんだから許容範囲なんであって、本来、大政党の党首が口にする言葉じゃないんだよね。衆院選が近ければかなりの痛手になる所だったよ」

自民党全員落選運動と小沢塾の休止

岸田演説で批判された民主党の後継、立憲民主党の小沢一郎・衆院議員が20年以上続けて来た「小沢一郎政治塾」を休止し、古参議員らの話題を集めた。SNS上の「たった3年」の民主党政権樹立を含め、自民党を2回下野させた張本人にして、「政界の壊し屋」の異名を取る80歳である。

 最終講義は2月19日、東京都内で行われた。小沢氏は立憲民主党の現状については「エンドレスに議論して、野党の中でも結論を出すのは最後だ。だから、他の野党からも馬鹿にされる」と鋭く指摘。小沢節の健在ぶりを示したが、政界では「これで、小沢さんも本当に終わったな」との声が多数だった。

 小沢氏の最大の仕事は衆院の選挙制度を現在の小選挙区比例代表並立制に変更した事だろう。時代の変化に素早く対応し、異なる政党による政権交代を容易にする為だった。つまり、戦後ずっと続いた自民党1党支配体制の打破が目標だった。幾度かの政権交代は経たが、時代は再び自民1局に戻りつつある。周辺によれば、小沢氏は「もう1度政権交代を実現する」と意欲を失っていないという。民主主義には健全な与党とそれに拮抗する野党が必要だろう。国民の肉声は巷に溢れている。野党の奮起を期待したい。

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