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「マイナ」巡り相次ぐトラブル、岸田政権に焦りの色

「マイナ」巡り相次ぐトラブル、岸田政権に焦りの色
医療現場や自治体で相次ぐミスは政府の制度設計が要因

マイナンバーカードを巡るトラブルが後を絶たない。健康保険証として利用出来る「マイナ保険証」も含めれば、別人の情報を紐付けたり、医療機関での自己負担比率を間違えたり、枚挙に暇が無い。内閣支持率は低迷の一途を辿り、岸田文雄政権にも焦りの色が見え始めている。

 総務省や厚生労働省からマイナンバーカードやマイナ保険証のトラブルが発表される度に、通常国会が閉会したにも拘らず、特別委員会の閉会中審査が開かれて来た。そこで繰り返されるのが、野党議員からの政府方針の変更要求だ。

 立憲民主党の杉尾秀哉・参院議員は7月26日、「(現行の健康保険証と)併用すべきだ。少なくとも(健康保険証の廃止される)2024年秋の期限は延長すべきだ」と主張した。与党として政権を支える筈の自民党の山田太郎・参院議員ですら「期限ありきではなく、丁寧に国民からの理解を得るべきだ。与党からもそういう声が大きくなっている」と訴えた。与野党から政府方針への疑義が上がる異常事態とも言える。

 どうしてこの様なミスが相次いでしまうのか。カギになるのが、国や行政機関が個人情報をどの様に管理して来たか、という歴史的な経緯に関する理解である。

 米国やフランス、スウェーデン等では1930〜40年代に共通番号制度が開始されており、個人情報を一元管理する仕組みになっていた。一方、日本ではその様な土壌は無く、特に戦後は戦時中の反省も有り、個人情報を一元的に管理する事には慎重で、行政機関毎の分散管理が基本だった。この為、マイナ保険証では医療保険を運営する健康保険組合等が加入者の健康保険証とマイナンバーカードを紐付ける作業が必要になり、膨大な人数分の手作業を強いられる自治体職員にミスが生じてしまったという。

個人情報の分散管理がミス相次ぐ原因との声

 開業医らで構成する全国保険医団体連合会の調査(6月19日集計)では、オンライン資格確認システムを導入する医療機関でトラブルが有ったと回答した割合は全体の65%に上った。保険加入の有無を確認出来ず「無保険扱い」になって、患者に医療費を全額請求したケースが38都道府県で1291件確認される等、ミスのツケは利用者である国民が払う羽目になった。

 厚労省幹部も「根本的な原因は分散管理で来てしまったという点に有る。一元的に管理する事が出来ていれば、これ程のミスが相次ぐ事は無かった」と分析する。一方、実際の業務を担う自治体の関係者は「個人情報の紐付けミスは本来有ってはならないが、膨大な作業を要求されている以上、ミスは出がちだ」と吐露する。

 住所の表記揺れの様な問題も有る。例えば、「A市B町1の2の3」と「A市B町1−2−3」とそれぞれの行政機関に登録されている場合が有り、表記を揃える必要が有る。これ迄システム上では解決出来なかったというが、厚労省関係者は「日本年金機構で使っているシステムではこのように表記がずれている場合、機械的に是正してくれる。これを参考に、全国的にシステムを導入する事が出来る様にしたいと考えている」と明かす。

 個人情報の管理の問題に加え、「火種」になっているのが、河野太郎・デジタル担当相の存在だ。7月2日のNHK日曜討論で「マイナンバー制度とマイナンバーカードというものがかなり世の中で混乱してしまっていて、次にカードを更新する時にはマイナンバーカードという名前を辞めた方がいいんじゃないかと私は個人的に思っているんですが」と発言した。

 更に、マイナンバーカードの自主返納が相次いでいるという報道に対し、7月8日と9日の取材で「カードの自主返納が増えていると言う人がいるが、実際は微々たる数だ」と言いたい放題。事態の沈静化を図るどころか、逆に火に油を注ぐ結果になった。

こうした事態に対し、松野博一・官房長官は定例記者会見で「あくまで個人的な見解を述べたと承知している。政府として名称変更について検討しているものではない」「政府としては(自主返納数全体を)把握していない」と河野発言の火消しに追われた。

 ぐだぐだとも言える状況に野党からきつい一撃を浴びた。立憲民主党の西村智奈美・衆院議員は国会審議で「マイナンバー制度を進める上で、内閣で一番障害になっているのは河野氏なのではないか」と激しく詰め寄った。大手紙記者は「普段は野党の主張に賛同する事はあまり無いが、この時はまさに誰しもが感じていた事を言ってくれている様に感じた」と苦笑交じりで賛辞を送った。

 実は、河野氏を支える筈のデジタル庁は由々しき事態に陥っているという。その状況を明らかにしたのが、『週刊現代』のあるコラムだ。要約すると、デジタル庁で働く官僚達の間で河野氏に対する面従腹背が横行しているというのだ。

 具体的には、レクを受ける際の河野氏の口癖が「前倒し」だと言い、「前倒ししろ」と怒鳴られる為、1年で出来る事も1年半掛かると報告する様になったという。更に縦割り構造も深刻で「プロジェクト毎に組織が細分化され過ぎていて、隣の部署が何をしているのか全然分からない」という内部の声も伝えている。

 あるデジタル庁の職員もこの記事について「河野氏の態度は少しずつ変わって来ている様だが、概ね合っている」と認める。デジタル庁がこの様な体たらくでは、マイナンバーを巡るトラブルが相次ぐのも当然の様にも思える。

 しかし、巨額の予算が投じられており、話はそう簡単ではない。例えば、総務省はマイナンバーカードの取得を促す目的で、1人最大2万円分のポイントを付与した事は記憶に新しい。総額は2兆1000億円にも上る。

相次ぐ不作為のツケを払わされる国民

内訳を見てみたい。20年9月から21年末まで実施した「マイナポイント第1弾」では、カードを取得してキャッシュレス決済サービスを登録した人には最大で5000円分の付与だけだった。約3000億円程の事業だったが、実際の利用者は約2500万人と想定の半分程度と目論見が外れた格好になった。

 「第2弾」はわずか半年後の22年6月末から始まり、健康保険証との紐付けや公的給付金の受取口座の登録も名目に加え、ポイントを4倍の2万円分に迄増やし、総事業費は一気に膨れ上がった。同時に、保有枚数も9000万枚近くに迄跳ね上がった。

 マイナ保険証でも医療機関や薬局で年齢や住所等の情報をオンラインで確認出来るシステムの整備に多くの公費が投入された。厚労省は19〜23年度に医療情報化支援基金に約1400億円を計上。顔認証付きのカードリーダーやインターネット回線等の購入・整備費の補助に充てられた。

 人口減少下の日本に於いて、地方自治体も同様に縮減して行くのは当然の帰結だ。その中で行政サービスの質を落とさずに効率化して行く為に、マイナンバー制度の導入に異論を挟む余地は殆ど無い。

 しかし、個人情報の取り扱いをどうするか正面から議論せずにシステムの導入を決め、ミスを誘発する様に仕立てたのは政府の自業自得と言えなくもない。そのツケを払わされるのは国民に他ならない。こうした状況を知れば知る程、河野氏の発言等から担当閣僚を担う資質が無い事が分かる。

 せめて健康保険証が廃止される来年秋迄に医療が必要な人が医療機関で不利益にならない様、政府がきちんとした措置を講じる事を願うばかりだ。

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