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バイエル薬品「研究不正」告発の背景にパワハラ発覚

バイエル薬品「研究不正」告発の背景にパワハラ発覚
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 前号でもお伝えしたバイエル薬品(大阪市)の研究不正問題が新たな展開を迎えている。内部告発にも動きの鈍いマスコミや当局を刺激するためか、告発をした社員の弁護人が単独で記者会見を行ったのだ。そこで明らかになったのは、製薬企業のとんでもない不正の方法…ではなく、どこの企業でも起き得る労働事件だった。

 まずは一連の問題を振り返ろう。全国紙記者が解説する。

 「そもそも問題が明るみに出たのは、バイエル薬品の現役社員と名乗る男性が今年4月、TBSのニュースに出演し、自社製品にまつわる不正を話したことが始まりでした」

 報道によると、男性社員は2012年にバイエル薬品が発売した血栓症治療薬「イグザレルト」の販売促進に関わり、宮崎県の診療所の医師に依頼してアンケート調査を実施。その後、アンケートに答えてくれた患者の既往症などのデータをカルテから書き写す仕事をさせられたという。そして、患者の許可を得ずに勝手にカルテを見た行為が問題だと訴えたのだ。

 男性社員はこの事実を厚生労働省に通報し、TBSの取材でも繰り返し訴えた。TBSニュースでは、社員がアンケート調査に協力してくれた宮崎県の診療所の医師を繰り返し接待したことや、学会誌『プログレス・イン・メディシン』に掲載された調査結果の考察論文を書いたのは医師ではなく本社であったことなども報じられた。こうした報道を受けて厚労省がようやく、「個人情報保護法などに違反する可能性がある」との見解を示したのは前号でもお知らせした通りだ。

 その後も男性社員側の動きは止まらなかった。

 4月中旬、厚労省の記者クラブを福岡県弁護士会に所属する男性弁護士が訪れた。一連の問題について記者会見を行うためだ。「内部告発者を伴ってくるかと思ったが、会見に来たのは弁護士1人。どんな証拠が示されるかと期待したのですが……」(前述の全国紙記者)。

 弁護人はこれまでの経緯を時系列で説明。記者からの質問にも答えたが、肝心の物証などについては「今後に差し障りがある」と示さなかったのだという。さらに、この会見で明らかになったのは、告発者の男性社員が会社側と労働トラブルを抱えていたという事実だ。

机蹴飛ばし怒鳴り、部屋の隅に立たす

 出席した記者によると、男性社員はバイエル薬品の宮崎営業所に所属していたが、所長の男性から、パワハラ(パワーハラスメント)を受けたのがトラブルの発端らしい。研究不正が疑われる「イグザレルト」は12年発売の薬で、カルテの不正な閲覧も同年に行われていた。それにもかかわらず、男性社員が会社側に内部告発したのは15年7月だ。どうやら男性側は、パワハラの上司について内部告発し、その結果が思わしくなかったため、厚労省やマスコミなどの外部に情報を流した可能性があるのだ。

 「社員は15年4月頃から、上司に当たる所長からのパワハラに耐えかねて出社出来なくなったようです。パワハラの内容は、机を蹴飛ばしたり大声で怒鳴ったり、部屋の隅に立たされたりするもの。こうしたパワハラを受けるまでの過程で何があったのかは分かりませんが、この上司はもともと強権的な仕事のやり方をする人だったようです」(医療関係者)。宮崎営業所は小さな営業所で、他に相談出来る人もおらず、社員は孤立を深めていった。

 上司の非道性を明らかにするためか、男性社員は上司の指示でカルテを無断で閲覧し書き写したことを本社のコンプライアンス室に訴えたが、本社の見解は「あなたが悪い」というもの。指示をした上司の責任は認められず、「弁護士によると、その後は会社の早期退職制度の利用を勧められるなど、退職勧奨を受けたそうです」(記者)。

 結局、社員は16年9月から休職し、休職中の給与の支払いを求めるなど争いの舞台は法廷へと移った。男性側は上司から酷い扱いを受けていたことに加え、アンケート調査が会社ぐるみで行われており、違法な指示があったことをも認めさせたい目論見である。

 今回の事案を、男性と同じような立場にある他の製薬企業の医薬情報担当者(MR)達はどう見ているのか。

 複数の製薬企業を渡り歩いてきたという40代の男性MRは、「アンケート調査が会社ぐるみで行われたことは間違いないだろう。本社の指示がどこまでで、営業所の指示がどこまでかを分けるのは難しいだろうが、本社から新製品の発売を前に販売促進の大号令がかかり、その一環として、アンケート調査が行われ、論文が販促に使われることはよくある」と語る。こうした一連の流れの中でいい加減な研究が行われ、それが販促に利用されていたのが、かのディオバン事件だ。

 ディオバン事件が大きく報じられたのが13年頃。別の会社の女性MRは「ディオバン事件が大々的に報じられるまでは、どこの企業も似たようなことをやっていた」と振り返る。「バイエル薬品の告発者の男性は医師を接待してタクシーで送り届けたなどの癒着ぶりを取材で明かしているが、バイエル薬品に勤める知人によると、接待が行われていたのはかなり前のこと。当時としては、それが問題という意識はなかっただろうし、私もやっていました」(女性MR)。製薬企業と医師の関係が大きく見直されたのは、ディオバン事件を受けた14年頃からだという。

医薬品医療機器法違反は微妙

 今回の案件がディオバンと異なるのは、販促に使われる論文の元となったのが、複数の大学病院で行われた大々的な「臨床研究」ではなく、一医療機関で行われた「アンケート」であったという点。そして、ディオバンのように、その結果が複数の医療雑誌や薬の説明文書で派手に宣伝されたかどうかがはっきりしないという点だ。

 男性社員の弁護人を取材した全国紙記者によると、アンケートの結果は2度にわたり、『プログレス・イン・メディシン』に掲載された。一つはイグザレルトではなく、ワーファリンなど既存の血栓症治療薬の飲み方についてのアンケート考察、もう一つはイグザレルトに限ったアンケート結果の考察だ。この二つの論文は男性社員が会社に内部告発した後の16年1月になって取り下げられた。ところが、論文が取り下げられたことは社内では周知されず、同社のMR達はその後も、この論文を使ってイグザレルトの宣伝を続けていたと男性の弁護人は訴えたという。

 ただ、アンケート調査を使って販売促進を行っていたことを示す物証は「内部文書なので、外には出せない」(弁護士)といい、現時点で同社の販売促進の実態は分からない。こうした経緯もあり、今回の案件が誇大広告など医薬品医療機器法(旧薬事法)に違反するかは微妙だ。もちろん、販売促進のために患者情報が軽く扱われて良いはずがなく、詳しい調査が待たれる。だが、この事案は既に「厚生ではなく、労働の案件として係争中だった」(全国紙記者)のである。

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