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未来の会

能登半島地震 過去の災害の教訓生きた場面も

能登半島地震 過去の災害の教訓生きた場面も
災害関連死防ぐ長い支援必要

新年を迎えたばかりの日本で、またしても大きな災害が起きてしまった。石川県で最大震度7を記録した能登半島地震では、揺れが収まった後も津波に火災、長期化が見込まれる避難生活と様々な苦難に見舞われている。交通の便が悪く、高齢化した小規模集落が多い被災地だが、被災者への対応には2011年の東日本大震災や16年の熊本地震等、これ迄の大規模災害の経験も確実に生かされている。熊本地震では、避難生活で体を壊す等して亡くなる「災害関連死」が地震による死者の4倍に上っており、生き延びた被災者の健康を守る為には、息の長い支援が必要だ。

 1月1日午後4時過ぎに発生した能登半島地震。地震の規模を示すマグニチュードは7・6と、阪神・淡路大震災や熊本地震より大きく、石川県志賀町で同県での観測史上初となる震度7を観測した他、同県七尾市と輪島市、珠洲市、穴水町で震度6強、中能登町と能登町、新潟県長岡市で震度6弱が観測された。又、地震発生直後から津波が観測され、車や家屋等が流される被害も出た。更に、輪島市では大規模な火災も発生。倒壊した家屋や土砂の下敷きになって亡くなる人も多数出た。

 「大きな災害は特に、発生直後には被害の全容が見えないものだが、今回は特にその傾向が強かった。道路が寸断されて辿り着けない集落が多数出ており、港も破壊され海からの支援も難しい。携帯の基地局はやられ、停電で固定電話等も通じない。何日も連絡が取れなかった被災者が多く居ました」(全国紙の社会部記者)。「知人と連絡が取れない」と石川県に連絡が有った「安否不明者」が当初かなりの人数に上ったのもそうした理由からだろう。

 困難な状況に有りながらも、厚生労働省が管轄する災害派遣医療チーム(DMAT)や災害支援のNGO等は早々に現地に入り、各地に開設された避難所等で活動を始めた。大地震の後というのは、余震への不安から車で寝泊まりしたり、食事や水分が十分に取れなかったりしてエコノミークラス症候群になるリスクが高いが、更に「冬場の災害、しかも豪雪地帯とあって、低体温症、更にインフルエンザ、新型コロナ等の感染症のリスクも高い。水が使えない事で手洗い等も十分に出来ず、食中毒が広まる恐れも有る。歯磨きが十分に出来ず、誤嚥性肺炎のリスクも高まる。実際に、感染症が広まってしまった避難所も有った」と前出の記者は話す。

 一方で、感染者が出ても広げない様にする工夫が採られた避難所も有った。輪島市の県立輪島高校に開設された避難所では、DMATから派遣された看護師の助言を受け、インフル、新型コロナ、感染性胃腸炎に感染した被災者をそれぞれ別室で療養させる様に運用した。使用するトイレも分け、症状が無い避難者らは患者となるべく接触しない体育館等の場所で生活させ、感染が広がらない様工夫した。

 だが、避難所で怖いのは感染症だけではない。災害医療に詳しい内科医は「発災から日を追う毎に、若い元気な人は避難所を出て生活再建に向けて動き始める。避難所に残るのはどうしても、体力が無い高齢者や疾患を持った人、障害が有る人達が中心になって行く。中には急な環境の変化で認知機能の衰えが進む人も居る。大切な人や家財を失った事による心の傷も深く、初期の救急医療や感染症対策だけでなく、様々な息の長い医療支援が必要となる」と指摘する。

「災害関連死」を防ぐ為には

 地震で命が助かっても、「災害関連死」を防がなければ意味が無い。16年の熊本地震では、死者273人の内、災害関連死は218人と8割近くを占めた。熊本県が、この218人について詳細を調べたところ、約3分の1の人が発災から1カ月以内に亡くなっていた。70歳以上の高齢者が多く、死因は肺炎等の呼吸器系疾患が最多の63人。続いて心不全やくも膜下出血といった循環器系疾患(60人)で、これらの死因が全体の約6割を占めた。

 では、災害関連死を防ぐにはどうすればいいのか。DMATで活動した経験を持つ医師は「一日も早く、被災者が暮らす環境を整える事」と指摘する。今回の様な交通事情の悪い被災地では特に、外部からの支援が充分に入り難く、避難所の環境を快適に整えるには時間が掛かる。「であれば、避難者を被災地から外に運ぶオペレーションが重要になって来る」(同医師)。

 先ずは全国の医療施設や介護施設に受け入れ先を見つけ、そこ迄の搬送ルートを確保する。今回の場合は、近隣自治体の施設への移送であっても、陸路では相当な時間が掛かる。医療や介護を必要とする高齢者が長時間の移動に耐えられるか、寝たままでの搬送が可能か、付き添いや介護者を確保出来るか等、様々な課題が有る。新たな環境に慣れるのが難しい障害者等は、移送した先の環境がストレスになる可能性も有り注意が必要だ。

 尤も、緊急的な医療が必要となる患者については、これ迄の災害の教訓が生かされて比較的スムースに搬送が進んだ例も有る。「例えば被災した臨月の妊婦については、産婦人科の医療ネットワークで近隣の医療機関と連携したり、週に2〜3回の人工透析をしないと命の危険が有る腎臓病の患者については近隣の透析可能な医療機関が受け入れたりと、被災地からの移送が上手く行った例も有る。一方で、水の確保がままならない現地の医療機関が必死に復旧を急ぎ、医療を繋いだ例も有った」と全国紙記者は話す。

外部からのSNS発信は配慮が必要

更にこの記者は、今回の地震では、SNS等の情報発信ツールが発達したからこそ浮かび上がった課題も有ると指摘する。「被災地を心配するあまりだろうが、避難所の環境が劣悪だと海外と比較して安易に批判したり、政府の対応が後手に回った為救援が遅れたと政権や自民党批判に繋がる様な投稿が目立った。被災地の状況は刻々と変わっており、批判の投稿が広まった頃にはもう解消されていた課題も有る。緊急時だからこそ、SNSでの情報拡散には慎重さが求められると伝えたい」。

 被災当初は、テレビやネットで情報を収集する事が出来なかった被災者達も、時間が経つとSNS等の利用を始める。そこで事実とは違う投稿を目にして混乱する恐れも有る。又、投稿を見て義憤に駆られた第三者が、自治体や避難所に善意で問い合わせをして、職員や避難所のリーダーらに余計な負荷を掛ける可能性も有る。

 能登半島の被災地で支援を行った医師は「手を動かさず、口だけ出すなら誰にでも出来る。どうしたらより良い支援が出来るかを考える事は大事だが、それを発信するには適切な時期というものが有るのではないか」と苦言を呈する。そして、その発信のタイミングは、発災直後の混乱の中ではないと断言する。

 「私達は一定期間が過ぎれば元の場所に帰れるが、自治体職員や被災者は被災地に留まり、長期に亘って震災と向き合う事を余儀なくされる。その精神的な重圧に思いを馳せてあげて欲しい」と同医師。東日本大震災での経験を教訓に生まれた薬局機能を備えた車「モバイルファーマシー(移動薬局車)」等、過去の災害を生かして改善出来た点は沢山有る。教訓を次に繋げる事は大事だが、「出来ていない」とあげつらう事は対応に当たる人達の気持ちを折り兼ねない。

 今後は、今は「助ける側」に回っている被災者への支援も必要となるだろう。被災地の外から出来る支援は、被災地の状況に、長期に亘って関心を持ち続ける事と、今回の支援についての教訓と対策を適切な時期に検討する事だ。

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