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未来の会

知恵求められる経営者の「働かせ方改革」

知恵求められる経営者の「働かせ方改革」
国民への啓発、女性医師の活用、タスク・シフティング……

令和より一足早く、“働き方改革”元年が幕を開け、罰則付きの時間外労働規制の適用を盛り込んだ改正労働基準法が4月に施行された。

 発端は2015年末、大手広告代理店・電通の女性社員(24歳)が、長時間労働の末に過労自殺したことだ。労働基準監督署により、1カ月の時間外労働が105時間を超える過酷な労働実態が明らかになり、政府は16年9月、働き方改革実現会議を設置し長時間労働をはじめとした労働者の働き方の見直しを進めた。

検討会では「勤務医は労働者」と強調

 ただし、医師については応召義務との兼ね合いから特殊性を踏まえた対応が必要とされ、施行は5年間猶予されている。医師法第19条1項が定める応召義務では、診療に従事する医師は診察治療を求められた時、原則として拒むことができないと規定されている。

 一方、厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」は、今年3月に医師の働き方についての報告書をまとめた。検討会では改めて「勤務医が労働者であることに法律上疑問の余地はない」と強調された。報告書では、時間外労働の上限を原則として年960時間以下、地域医療の確保・高度技能獲得などのための特例として年1860時間以下と新たに定めた。また、労務管理の徹底や労働時間の短縮などを強力に推進していくことが示唆された。

 医師も労働者であるにもかかわらず、「医師には労働基準法が適応されない」「急性期病院で労働時間を厳守したら成り立たなくなる」と言われながら育った世代の医師は、なお理解が不十分な面もある。改めて解説しておこう。

 労基法では、労働時間を「1日8時間、1週40時間まで」と定めている。病院勤務では1日の仕事が終わるまで働くのが常識で、時間外労働などは考えたこともないという風潮もあった。しかし、8時間を超えた就業は「時間外労働」。午後10時以降は「深夜業務」に該当し、手当の対象となる。

 医療現場の慣例となっている「当直」の外来患者や救急患者への医療行為は、労働行政における「当直」とは異なる。本来の当直とは、入院患者の急変に対処を行う要員を意味しており、外来や救急の業務は時間外労働や深夜業務に相当する。さらに、当直明けにも外来を続けたり病棟業務や手術に従事したりすることは、労務規則に違反する行為となる。

 病院管理者が勤務医に時間外労働を行わせるには、「36協定」を締結し労基署に届け出なければならない。36協定とは、労働基準法第36条に基づいた、労働者側と使用者側との間の時間外・休日労働に関する協定である。病院ごとに内容は異なったものになるが、①時間外・休日労働の具体的事由②業務の種類③労働者の数④時間外・休日労働の上限⑤協定の有効期間を含めなければならない。

 もし臨時で、36協定にある限度時間を超えざるを得ないことが予想できる場合には、特別条項を定め、一定の時間を延長時間と決めることができる。

 時間外労働の限度に関する基準(労働省告示)では、時間外労働時間の上限を1週間で15時間、1カ月間で45時間、1年間で360時間と定めている。また特別条項では、1カ月間では100時間未満、2〜6カ月の平均では80時間、1年で720時間が上限として新たに設けられた。一方、厚労省は、脳血管疾患・虚血性心疾患と精神障害について、過労死認定基準を示している。例えば前者については、発症前1カ月間で100時間、発症前2〜6カ月で月平均80時間とされている。つまり1カ月間で100時間の残業は、この過労死基準に達するものだ。このため、特別条項については、過労死認定基準に近い時間の残業を認める規制だとして、批判の声も強い。

法定時間超の労働は使用者に刑事罰

 にもかかわらず、現実には36協定を締結していない医療機関が少なくない。労働契約書を交わしていない病院さえあるとされる。36協定を締結していない病院や、締結していても労基署に届け出ていない病院で、残業を行わせることは違法行為となる。法定労働時間を超えて労働させれば、使用者は懲役刑を含めた刑事罰を科されることさえあり得る。

 厚生労働科学特別研究「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査研究」では、若手医師を中心として、オンコールや宿直(実際には夜間勤務)を除いても、週20時間を超える時間外労働、長時間労働が常態化している実態が報告されている。時間外労働は、臨時労働であると認識しなくてはならない。

 時間外給与を支払わない、夜間勤務を宿直(当直)と称して時間外給与(25%割増)ではなく安価な宿直手当を支給する、時間外給与ではなく通常の労働賃金しか支給しない、管理実態がなくても管理職と称し時間外給与を支給しない……などは、全て法律に違反する。

 医師の過労死の労働災害認定についてはいくつも事例がある。例えば1999年8月に小児科医(44歳)が自殺したケースは、労務管理と自殺との因果関係が認められた。都内の病院に勤務していた医師は、自殺の約半年前、部長のいない小児科部長代行に就任し、事実上の小児科のトップとなった。その後、3月末に女性医師の退職などから小児科が半減し、常勤医3人(5月から4人)と嘱託医1人で外来診療を行った。

 これについて、3月以降の過重な勤務に加え、常勤医や日当直担当医の減少という問題解決に腐心せざるを得ず、大きな心理的負荷を受け、それらを原因とした睡眠障害ないし睡眠不足の増悪から、うつ病を発症したと認定された。しかし使用者である病院の賠償責任は認められなかった。これは安全配慮義務違反が否定されたためだ。すなわち、過重労働はあっても、心身の健康を損ない精神障害を起こす恐れを具体的客観的に予見すること、精神障害や精神的な異変を認識することはできなかったと判断された。労災が認められた点で、今日の医師の働き方改革に繋がる重要な示唆を含む事例である。

 医師の平均労働時間を減らすには、医師数を増やすか、総労働時間を減らすよりない。医師不足や応召義務を背景に、いずれも困難が伴う。であれば、病院は別の努力が必要だ。医療の受益者である国民への啓発に加えて、女性医師の支援、他職種へのタスク・シフティング(業務の移管)などは一層重要になってくる。経営者の“働かせ方改革”は、5年を待たずに始まっている。

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