2017年度末に保育所に入れない子供をゼロにする政府目標が絶望視される中、安倍晋三首相は6月に新たな保育所待機児童解消プランを策定する考えだ。7月の東京都議選をにらんだ失地回復策でもある。ただ、「待機児童ゼロ」の見通しは立っておらず、厚生労働省内からは「打てる手は全て打っている」との焦りの声も聞こえる。
「残念ながらまだ地域によっては、保育園に入れない状況が続いている。しかし、待機児童ゼロという目標は決して下ろしません。次なる待機児童解消プランを6月に設定していく考えです」。3月4日、自民党青年部などの会合で、首相は保育所の入所希望が増えたのはアベノミクスで女性の社会進出が進んだ結果と自賛した上で、待機児童ゼロに向けた決意を語った。
17年度末の待機児童ゼロを打ち出したのは、13年に公表した「待機児童解消加速化プラン」でのこと。保育の受け皿を新たに40万人分整備することなどが盛り込まれたが、当初の見積もりの甘さから15年秋には「50万人分」へと引き上げる羽目になった。この目標について政府は、賃上げによって保育士の数を約9万人増やすことなどで達成出来るとしている。しかし、働く女性が増え、保育所需要の急増ぶりは政府の想定を超えている。16年4月時点の待機児童は2万3553人。2年連続で前年を上回った。東京都のある区の担当者は、保育施設の整備について「実績は目標の半分以下。17年度末に待機児童ゼロなんて夢」と言い、厚労省幹部も「保育施設を増やすというと、『それなら私も働こう』と入所希望者も増え、整備数が一向に需要に追い付かない」とこぼす。
待機児童が多いのは東京や大阪など大都市中心。施設整備が進まない大きな理由は、用地確保が難しいからだ。地価が高過ぎ、需要増に見合う施設数を確保出来ない。首相は2月の衆院予算委員会で、17年度末に待機児童ゼロにする目標について「非常に厳しい状況」と認めざるを得なかった。
政府は19年度までに市区町村がどれだけ保育施設を整備出来るかを調べている。こうしたデータや人口推計を元に、6月の新プランには受け皿の新たな整備目標を入れ込む意向だ。厚労省は、規制緩和によって企業主導型保育所を増やすことなどで目標を達成する考えでいる。
待機児童解消策の要点は、全体の9割を占める0〜2歳児の受け皿を増やすことだ。だが、消費増税の先送りを重ねたこともあり、政府は財源の目処を付けられずにいる。日本総合研究所の試算では、20年からの5年間で0〜2歳児の保育需要はさらに2万人分増えるという。低年齢児にはより多くの保育士の配置が必要で、これだけで新たに数百億円規模の財源が必要となる。
受け皿を多く増やさずに済むよう、育児休業制度を拡充し、0歳児は家庭でみてもらうようにする、との案も根強くある。しかし、育休利用の大半が女性という現状が変わらない限り、「育児は女性の役割」との固定観念を一層強めかねない。自民党の小泉進次郎氏らは公的年金保険料に上乗せして保険料を徴収する「こども保険」の創設を掲げているが、負担増となる企業の反発は避けられない。厚労省幹部は「弾を撃つにはカネがいる」と言うものの、増税に関しては「消費税率10%」への道筋すら揺らぎ始めている。
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