SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

【「集中」の是々非々 68】

【「集中」の是々非々 68】

「取り残される国、日本」

海外では、日本ではほとんど話題にならない「トランプ大統領とイーロン・マスク氏の舌戦」が今もSNSやメディアで盛んに繰り広げられている。その内容は深く、過激で、品格を欠く場面もあるが、少なくとも「言論の闘技場」が健在であることを再確認させられるバトルだ。日本の想像を超える激しさだ。「私は$300Millon(約450億円)を出した。この金で彼は大統領になれたんだ」「私の金がなければ、今のポストに別の人間が就いていただろう」なんて世界屈指の権力者に言い放つマスク氏の大胆さ。保守と革新、既得権と破壊者の対立が可視化され、世間は否が応でも盛り上がる。二人の争いは収まりが付かなくなり、選挙の前後の裏取引話までも応酬合戦の中で暴露されている。米国や英国の学生もトランプ派とイーロン派に分かれて盛り上がる。こんなに面白い劇場型スキャンダルを日本では、さらっと「トランプ vs マスク」と報じられるだけで、両者がメンツを賭した激論を展開しているとは報じられていない。世界を揺るがす激論が海の向こうで日々交わされている時、日本は“井の中の蛙”のままだ。情報鎖国が進んでいるのではないかと不安になる。メディアの責任は大きいが、それだけではない。携帯だけで情報を得ていると自分の興味以外の情報が入りにくい。この「情報遮断」は、実は医学・薬学の世界でも静かに進行している。英語論文を読まず、国際学会に参加せず、日本人だけで、日本語だけで学問を完結させようとする風潮——これこそが“ぬるま湯”の温床である。世界の医療は、先端医療、AI診断、遺伝子治療をはじめ、日進月歩で進化しているが、日本医学界の一部では、そうした流れに目を背け、「従来のやり方」に固執しているのではないか。故・髙久史磨氏は目が不自由になった最晩年でも、いつ訪問しても英語論文を読んでいた。

日本の現状を表す象徴的な出来事もある。2024年にドバイで開催された国際医学医薬展示会では、米国や中国からは200を超える企業が出展していたが、日本からは大手中堅を含め、たったの9企業という情けなさだった。主催者もその少なさに驚き、日本企業の出展が少ない理由を問い合わせてきたほどだった。今年6月初めに開催されたロンドンのナチュラル・ヒストリー・ミュージアムで開催された「PRIX GALIEN 財団」の表彰式では、世界の創薬や医療技術の最前線を称える名誉ある場であったが、欧米・中東・アジア各国の研究者や医学製薬企業関係者で占められていた。残念ながら、日本人の姿は皆無に近かった。世界の檜舞台に、日本の医学・薬学界がほぼ不在——それはまさに“静かな敗北”を表す。誘致されても逃げ腰であれば、日本の未来は暗い。言語が参入の壁になっているのか、日本企業が世界との競争を諦めているのか、いずれにせよ憂慮すべき事態である。

私たちは、島国根性という言葉を忘れてはならない。物理的に海に囲まれているだけでなく、精神的にも囲まれてしまえば、自ら進んで孤立の道を歩むことに等しい。そしてもう一つ、日本人の「英語アレルギー」も深刻である。英語が苦手だから情報に触れない。触れないから発言しない。発言しないから無視される——この悪循環こそが、国際医療界での「存在感の薄さ」につながっているのではないか。

勿論、世界で活躍する日本人の医学者や薬学者は少なくなく彼らの多くは高く評価されている。だが、その多くが孤軍奮闘であり、日本には彼らを組織的に後押しする体制が乏しい。留学の促進、英語での研究発表支援、国際会議への積極的な参加など、「島から出る」仕組みを国として整備する必要がある。でなければ、いつしか「日本の医学は20年遅れている」と冷笑されかねない。日本がバブル経済で沸いた当時、日本人の海外志向は強かったし、英語が通じなくても堂々とした態度で欧米人との交渉を成功させていた。バブル崩壊後、日本経済は自信を失ったままだが、日本の医学は今なお世界から尊敬を集めている。今こそ、日本の医学・薬学が日本経済を再建する鍵となる。世界と同じ土俵に立ち、同じ速度で走り続けること——それが、これからの医学・医薬人に課される最低条件である。「自分が蛙である」と自覚した者だけが、大海へ飛び込む資格を持つのだ。

 皆様からの情報をお待ちしております。>>>  info@zezehihi.shuchu.jp


【「集中」の是々非々 ① 】「大日本印刷北島社長の引責辞任」
【「集中」の是々非々 ② 】「悪辣な看護師派遣ビジネスで重い医療法人の財務負担」
【「集中」の是々非々 ③ 】「日大田中理事長体制を守ってきた責任は文部科学省にある!」
【「集中」の是々非々 ④ 】「東京にタクシーがいない・東京オリンピックにむけて大丈夫?」
【「集中」の是々非々 ⑤ 】「大日本印刷北島社長の引責辞任(2)」
【「集中」の是々非々 ⑥ 】「企業検診の義務化と予防医学を目指す」
【「集中」の是々非々 ⑦ 】 「新型コロナウイルス対策」
【「集中」の是々非々 ⑧ 】NIPT(出生前遺伝学的検査)は知る権利の一つだ」
【「集中」の是々非々 ⑨ 】「地に落ちた権威・WHO」
【「集中」の是々非々 ⑩ 】「世界が疑う日本発の情報」
【「集中」の是々非々 ⑪ 】「新総裁候補に期待すること」
【「集中」の是々非々 ⑫ 】「ファンド資金が医療法人に流入」
【「集中」の是々非々 ⑬ 】「替わらない厚労省と変われない医師」
【「集中」の是々非々 ⑭ 】「オンライン診療の導入を」
【「集中」の是々非々 ⑮ 】「日本初の医療格付がスタート」
【「集中」の是々非々 ⑯ 】「日本薬剤師連盟が頭を抱える松本純議員の行状」
【「集中」の是々非々 ⑰ 】「米国医師はカルテと処方箋の記載に全精力を傾ける」
【「集中」の是々非々 ⑱ 】「米国史上で最悪の医薬事件の顛末」
【「集中」の是々非々 ⑲ 】「新型コロナ感染拡大の中で見る国家力」
【「集中」の是々非々 ⑳ 】「尾身発言は立派の一語」
【「集中」の是々非々 ㉑ 】「大学医学部の2023年問題」
【「集中」の是々非々 ㉒ 】「日本の大学総長選挙が海外で注目に」
【「集中」の是々非々 ㉓ 】「研究費を自ら集めまくる海外一流大学」
【「集中」の是々非々 ㉔ 】「病院は不正企業の稼ぎ場なのか」
【「集中」の是々非々 ㉕ 】「オリンパスの漏洩事件が医療期間へ波及する?」
【「集中」の是々非々 ㉖ 】「海外メディアが配信する日本大学理事長逮捕の衝撃」
【「集中」の是々非々 ㉗ 】「コロナ幽霊病棟補助金の話題が拡散中」
【「集中」の是々非々 ㉘ 】「小野薬品オプジーボ訴訟から見えた日本の現状」
【「集中」の是々非々 ㉙ 】「当事者になって見えたもの」
【「集中」の是々非々 ㉚ 】「ジェンダー平等は時代の趨勢」
【「集中」の是々非々 ㉛ 】「医療ツーリズムは国際間競争に発展」
【「集中」の是々非々 ㉜ 】「岸田首相の考える健康危機管理庁(仮称)構想」
【「集中」の是々非々 ㉝ 】「米連邦最高裁判所で中絶NOの判決」
【「集中」の是々非々 ㉞ 】「東京電力13兆円賠償判決は医療賠償に影響」
【「集中」の是々非々 ㉟ 】「東京工業大学と日本医科歯科大学の統合協議開始」
【「集中」の是々非々 ㊱ 】「コンサル会社にご用心」
【「集中」の是々非々 ㊲ 】「上辺だけのサービスにはご用心」
【「集中」の是々非々 ㊳ 】「内部告発には迅速な対応が必要」
【「集中」の是々非々 ㊴ 】「世界は混沌」
【「集中」の是々非々 ㊵ 】「1000億円の損害賠償」
【「集中」の是々非々 ㊶ 】「マスコミにはご用心」
【「集中」の是々非々 ㊷ 】「日本の国際社会から乖離の一例」
【「集中」の是々非々 ㊸ 】「日本M&Aセンターの凄み」
【「集中」の是々非々 ㊹ 】「海外金融機関から期待されている集中格付」
【「集中」の是々非々 ㊺ 】「有機トリチウムは恐ろしい物質」
【「集中」の是々非々 ㊻ 】「海外のスパイが跋扈するお気楽な日本」
【「集中」の是々非々 ㊼ 】「過疎化と高齢化がもたらす病院経営の変化」
【「集中」の是々非々 ㊽ 】「強引とも思える国際基準は誰が決めるのか?」
【「集中」の是々非々 ㊾ 】「新たなアインファーマシーズ事件」
【「集中」の是々非々 ㊿ 】「海外臓器移植斡旋に実刑判決」
【「集中」の是々非々51】「世界もグリニッジが標準」
【「集中」の是々非々52】「日本の臓器移植のお寒い現状」
【「集中」の是々非々53】「身元保証が無ければ生きていけない社会が到来」
【「集中」の是々非々54】「日本の医療制度は世界地、秀逸」
【「集中」の是々非々55】「製薬会社が国民から袋叩き状態に!」
【「集中」の是々非々56】「地方の医師不足を解消するために新制度?」
【「集中」の是々非々57】「美容医療トラブル急増」の大きなタイトル記事」
【「集中」の是々非々58】「医師の報酬を欧米並みに高額にするべし」
【「集中」の是々非々59】「医療現場を脅かすモンスターペイシェントの存在」
【「集中」の是々非々60】「医師の偏在問題と僻地医療の新たなアプローチ」
【「集中」の是々非々61】「患者代表を中医協に加える事の意義と必要性」
【「集中」の是々非々62】「日本の女性が世界の女性と同じ権利を有する事の難しさ」
【「集中」の是々非々63】「日本の英語力92位に転落」の記事に驚愕
【「集中」の是々非々64】「東京女子医科大学とフジテレビに見る危機管理の欠如」
【「集中」の是々非々65】「日本の医療の信用失墜を心配する内閣府」
【「集中」の是々非々66】フジテレビ「調査報告書」の中立性は保たれているのか?」
【「集中」の是々非々67】「都合の良い人間関係」が人生を壊す
【「集中」の是々非々68】「取り残される国、日本」

 

Return Top