
「取り残される国、日本」
海外では、日本ではほとんど話題にならない「トランプ大統領とイーロン・マスク氏の舌戦」が今もSNSやメディアで盛んに繰り広げられている。その内容は深く、過激で、品格を欠く場面もあるが、少なくとも「言論の闘技場」が健在であることを再確認させられるバトルだ。日本の想像を超える激しさだ。「私は$300Millon(約450億円)を出した。この金で彼は大統領になれたんだ」「私の金がなければ、今のポストに別の人間が就いていただろう」なんて世界屈指の権力者に言い放つマスク氏の大胆さ。保守と革新、既得権と破壊者の対立が可視化され、世間は否が応でも盛り上がる。二人の争いは収まりが付かなくなり、選挙の前後の裏取引話までも応酬合戦の中で暴露されている。米国や英国の学生もトランプ派とイーロン派に分かれて盛り上がる。こんなに面白い劇場型スキャンダルを日本では、さらっと「トランプ vs マスク」と報じられるだけで、両者がメンツを賭した激論を展開しているとは報じられていない。世界を揺るがす激論が海の向こうで日々交わされている時、日本は“井の中の蛙”のままだ。情報鎖国が進んでいるのではないかと不安になる。メディアの責任は大きいが、それだけではない。携帯だけで情報を得ていると自分の興味以外の情報が入りにくい。この「情報遮断」は、実は医学・薬学の世界でも静かに進行している。英語論文を読まず、国際学会に参加せず、日本人だけで、日本語だけで学問を完結させようとする風潮——これこそが“ぬるま湯”の温床である。世界の医療は、先端医療、AI診断、遺伝子治療をはじめ、日進月歩で進化しているが、日本医学界の一部では、そうした流れに目を背け、「従来のやり方」に固執しているのではないか。故・髙久史磨氏は目が不自由になった最晩年でも、いつ訪問しても英語論文を読んでいた。
日本の現状を表す象徴的な出来事もある。2024年にドバイで開催された国際医学医薬展示会では、米国や中国からは200を超える企業が出展していたが、日本からは大手中堅を含め、たったの9企業という情けなさだった。主催者もその少なさに驚き、日本企業の出展が少ない理由を問い合わせてきたほどだった。今年6月初めに開催されたロンドンのナチュラル・ヒストリー・ミュージアムで開催された「PRIX GALIEN 財団」の表彰式では、世界の創薬や医療技術の最前線を称える名誉ある場であったが、欧米・中東・アジア各国の研究者や医学製薬企業関係者で占められていた。残念ながら、日本人の姿は皆無に近かった。世界の檜舞台に、日本の医学・薬学界がほぼ不在——それはまさに“静かな敗北”を表す。誘致されても逃げ腰であれば、日本の未来は暗い。言語が参入の壁になっているのか、日本企業が世界との競争を諦めているのか、いずれにせよ憂慮すべき事態である。
私たちは、島国根性という言葉を忘れてはならない。物理的に海に囲まれているだけでなく、精神的にも囲まれてしまえば、自ら進んで孤立の道を歩むことに等しい。そしてもう一つ、日本人の「英語アレルギー」も深刻である。英語が苦手だから情報に触れない。触れないから発言しない。発言しないから無視される——この悪循環こそが、国際医療界での「存在感の薄さ」につながっているのではないか。
勿論、世界で活躍する日本人の医学者や薬学者は少なくなく彼らの多くは高く評価されている。だが、その多くが孤軍奮闘であり、日本には彼らを組織的に後押しする体制が乏しい。留学の促進、英語での研究発表支援、国際会議への積極的な参加など、「島から出る」仕組みを国として整備する必要がある。でなければ、いつしか「日本の医学は20年遅れている」と冷笑されかねない。日本がバブル経済で沸いた当時、日本人の海外志向は強かったし、英語が通じなくても堂々とした態度で欧米人との交渉を成功させていた。バブル崩壊後、日本経済は自信を失ったままだが、日本の医学は今なお世界から尊敬を集めている。今こそ、日本の医学・薬学が日本経済を再建する鍵となる。世界と同じ土俵に立ち、同じ速度で走り続けること——それが、これからの医学・医薬人に課される最低条件である。「自分が蛙である」と自覚した者だけが、大海へ飛び込む資格を持つのだ。
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