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笑顔の似顔絵が癒やしと活力の素に
257 新潟県立十日町病院(新潟県十日町市)
全国有数の豪雪地帯として知られる、新潟県南部の越後妻有(つまり)。その間を縫う様に流れる信濃川沿いの米所に、新潟県立十日町病院は在る。前身となる日本医療団十日町病院が設立されたのは戦時中の1944年。その後新潟県への移管を経て県立病院となり、これ迄80年以上に亘り、里山に囲まれた地で暮らす人達の医療を支えて来た。
実は、十日町の地は、元々アートと関係が深い。94年、当時の平山征夫新潟県知事が、十日町を含む1市4町1村を地域活性化策「ニューにいがた里創プラン」の対象に指定。これを受け、96年から地域をアートで繋ぎ、交流人口の増加を図る10カ年計画「越後妻有アートネックレス整備構想」が始動した。2000年には、現在では世界的に知られる存在となった「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」がスタート。新潟県中越地震や東日本大震災、更にはコロナ禍といった幾多の困難を乗り越えながら3年に1度の開催を続け、国内外の多くの人々を惹き付けている。
そうした風土の中で、名古屋造形大学の協力で壁画を制作する等、ホスピタルアートを段階的に実施。しかし、その活動が本格化した切っ掛けは、吉嶺文俊病院長と似顔絵セラピストの村岡ケンイチ氏との出会いだった。村岡氏は、似顔絵を描く事で患者や高齢者の心を癒やす「似顔絵セラピー」を提唱し、病院や介護施設で実践すると共に、その効果を学会でも発表している。2023年12月、三重県志摩市で開催された「第2回日本地域医療学会」で村岡氏の講演を聞いた吉嶺病院長は深い感銘を受け、「ホスピタルアートを十日町にも」との思いを湧き上がらせた。
翌24年2月、村岡氏を病院に招聘し似顔絵セラピー等について学ぶと共に、村岡氏、病院職員、新潟大学医学部生らで内科外来待合室に壁画を制作し、院内に彩りを添えた。次いで5月には「アート部」が発足。部員は壁画を制作したメンバーに加え、隣接する十日町看護専門学校の職員らで構成し、「アート処方 de あっと十日町プロジェクト」と銘打ち、活動を開始した。11月、アート部は「越後妻有に笑顔を広げよう」というキャッチフレーズの下、ワークショップを実施。地域の住民とアート部のメンバーは、それぞれ自分にとって大切な人の笑顔やペットの似顔絵を六角形の木材パーツに描き、事前に福祉施設や市内の医院等から寄せられたものも合わせ約140枚を制作し、更にこれらを組み合わせたモザイクアートが、病棟に通じる1階廊下の壁一面に飾られた。このイベントの反響は大きく、職員からは「仕事への誇りややりがいを再認識する機会となった」、住民からは「病院との距離が縮まる貴重な場となった」等、熱を帯びた声が寄せられた。
人口減少が進む中、医師や看護師の不足等、課題も山積しているが、アートは患者や家族の癒やしとなっているだけでなく、医療従事者にとっても日々の励みや活力の基となっている。越後妻有の伝統や風土を取り入れながらアート活動を展開する事で、医療機関として人と地域を笑顔で結び付ける役割を果たす事を、職員達は願っている。
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