
今後を占うのはイラン情勢の落ち着きとAI関連企業の好業績
2026年に入ってからの日経平均は、上昇基調を鮮明にし、6月28日には取引時間中の過去最高値7万2831円73銭まで上昇した。その後はイラン情勢の混迷から来るインフレ懸念や、AI・半導体の過剰な成長期待の反動で調整を余儀無くされている。株価はこのまま上昇相場を終えるのか、それとも再び上値を追うのだろうか。
米イラン情勢緊迫化を克服し日経平均は7万円乗せ
今年前半の株式市場について振り返ると、日米共にインフレに対する警戒感が強い中で、日経平均は史上初の7万円台、米国のダウ30種平均も初の5万ドル台を果たす等、記録的な上昇相場となった。世界同時株高の共通要因は、米国を始め巨大IT企業がAIインフラへ巨額投資を行い、企業業績全体を押し上げるとの期待が膨らんだ事だ。半導体関連銘柄が急騰し、株価指数を押し上げた。
だが、楽観論に包まれたまま一本調子で上昇した訳ではない。2月末からの米国・イスラエルによるイラン攻撃を機に、日米を始め世界の株価は調整を余儀無くされた。イラン側は、報復として原油の大動脈ホルムズ海峡を実質封鎖。原油価格が急騰し、世界的なインフレと景気悪化が懸念された。
原油価格が上がれば、企業の原材料費や物流費が膨らむだけではない。物価上昇を抑える為、中央銀行が金融引き締めを続けるとの観測も強まり、株式の相対的な魅力が低下する。
その後、停戦合意が伝えられた事で緊張が緩和され、最悪のシナリオが回避されるとの見方が広がった。警戒感が後退し、再び株価は最高値を更新する動きとなった。
一方、日本株独自の上昇要因としては、春闘での大幅賃上げで実質賃金がプラスに転じ、個人消費Jや内需拡大への期待が高まった他、積極財政を掲げる高市政権の政策運営が押し上げ要因となった。これ迄世界の中で日本株は割安との指摘があり、出遅れ修正の側面も見逃せない。
「AI成長神話」に疑念が浮上、反動安に
ところが、7月になると、楽観ムードは暗転する。きっかけとなったのは、今春の反発要因となった米国とイランの緊張が再び高まった事だ。原油価格が上昇し、収まり掛けたインフレ懸念が再燃。投資家が安全資産へ資金を退避させるリスクオフに転じた。金融引き締めによって金利が上昇するのであれば、無理に株式へ投資する必要は無いとの見方にも傾いた。
調整局面が訪れても不思議ではないタイミングだった。日経平均は史上初の7万円乗せを果たした訳だが、取引時間ベースで見ると、3月31日安値5万0558円から7月1日の最高値7万1962円迄、3カ月間で42・3%の急騰を記録した。利益確定売りが出ても不思議ではなく、東証統計でも信用取引の買い残増加など投機的な動きが目立った。
株価の上昇が長く続けば、更に上がるとの期待から市場参加者が増え、買いが積み上がる。悪材料が出れば損失を避ける為の売りが売りを呼び、下落幅が拡大し易い。地政学リスクや需給の過熱が原因なら、通常の上昇相場でも起こり得る短期的な調整に留まり、環境が改善すれば自律的に株価が反転する可能性も十分に有る。
しかし、直近の下落相場に関しては、こうした一時的な調整ではなく、根本的な上昇シナリオが崩れる兆候との見方もある。それは、ここ暫く続いた「AI成長神話」に疑念が広がってきた点だ。株価上昇の拠り所にされた巨大IT企業によるAI関連の巨額投資について、「本当に投じた額以上の回収が可能なのか」という警戒感が生じてきた。米国のナスダック市場や主要ハイテク株の下落が目立つのも、成長期待だけでは高い株価を支え切れないとの見方の表れだ。例えば、AI関連の中心的銘柄である半導体大手エヌビディアが設備投資の減速を見込めば、製品を供給する国内半導体製造装置大手アドバンテストの受注にも影響が及ぶ。米国の巨大IT企業、半導体メーカー、日本の製造装置企業は、AIインフラ投資を介して密接に繋がっている。関連企業の収益見通しが暗くなれば、相場の根本がひっくり返ってしまう。期待だけで上昇していた銘柄程、収益化の遅れが判明した際の反動も大きく、AIバブルの崩壊となれば本格的な下落相場へ突入する。
短期的にも、相場は厳しい局面を迎える可能性が有る。大和証券・チーフテクニカルアナリストの木野内栄治氏は、現在の相場について「歴史的に危険なチャートパターン」と指摘する。木野内氏によると、1987年のブラックマンデー前にも米国とイランの間で緊張が高まっており、今回も地政学リスクが金融市場を大きく揺さぶる恐れが有るという。上昇相場の基調が直ちに崩れないとしても、急落への警戒は怠れない。
反騰にはイラン安定とAI収益化が必要
調整局面を脱する条件としては、第一に、イラン情勢や中東における緊張が広がらず、原油価格が落ち着く事が挙げられる。原油価格が下落すれば、インフレ再燃の懸念が後退し、金利上昇の不安も和らぐ。景気悪化が避けられないにしても、影響が短期的且つ軽微なら、マーケットは将来の回復を先取りして買う。目安となるのは米国の長期金利で、この利回りが低下すれば、株価の割高感も薄れよう。原油価格と長期金利が共に落ち着けば、投資家がリスクを取る余地は広がる。もう1つは、AI・半導体業界の収益見通しが好調との見方が広がり、「投資倒れへの懸念」を払拭する手掛かりが明らかになる事だ。日米の主要企業が決算や計画を通じ、AI関連投資が実際にどれほどの売上や利益へ繋がるかを示せば、投資資金が回帰する事になりそうだ。
AI投資額の大きさだけでは、株価を押し上げる材料として不十分になりつつある。稼働率や投資回収期間等、具体的な収益性がこれ迄以上に問われる。実際、前出のアドバンテストは第1四半期決算で好調な数値を発表。7月29日の業績予想の上方修正を境に日経平均は反発に転じ、その後下落幅の3分の2以上を戻した。同社株も最高値を更新。AIの中核企業であるエヌビディアの主要取引先である同社の好業績が、AI相場復活を示したのかも知れない。再び最高値を窺う様な動きには、AI投資が現実の利益を生み出すとの確信が必要となる。
日本株は金利上昇で主役交代も
他方、日本株に限って言えば、相場の方向性を考える場合、その時々の主役を見極める事が重要だ。
目安として、銘柄別の時価総額ランキングに注目したい。時価総額首位を長く維持してきたトヨタ自動車は、6月に約22年半振りにソフトバンクグループへ首位を譲った。万全とも言える財務体質を誇るトヨタと対照的に、積極投資で知られるソフトバンクグループとの首位交代は、安定した企業体質だけでなく、成長投資を評価する市場の動きを象徴しているとも言える。只、その後も首位争いは激しさを増し、AIによる成長拡大を象徴する様に、キオクシアホールディングスが一時的に首位を奪取。更に、銀行株ではバブル崩壊後、約40年振りに三菱UFJフィナンシャル・グループが1位に躍り出た。
金利上昇を材料に銀行株が買われた事は、低金利時代とは異なる主役交代の始まりを示している。金利が上昇すれば、銀行は貸出金利と預金金利の差から利益を得易くなる一方、借入金の多い企業や、遠い将来の成長を前提に評価される企業には逆風となる。市場全体が同じ方向へ動くのではなく、業種や財務体質によって明暗が分かれる局面に入っている。
日経平均が再び7万円を超えるかどうかは、イラン情勢を背景にした原油価格の動向と、米国の巨大IT企業によるAI投資の収益化がカギを握る。地政学リスクや需給の過熱に留まるなら、今回の下落は一時的な調整で終わる可能性が高い。一方、AI投資が十分な収益を生まないと判断されれば、上昇相場の前提そのものが崩れかねない。実際に投資を考える場合、株価の上下動だけでなく、金利上昇による産業構造の変化にも目を配る必要が有る。


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