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集中◉巻頭インタビュー 日医、法整備に向けて新体制で臨む ~国民からの信頼を取り戻し、存在感を示せるか~

集中◉巻頭インタビュー 日医、法整備に向けて新体制で臨む ~国民からの信頼を取り戻し、存在感を示せるか~

 

横倉 義武(よこくら・よしたけ)福岡県出身。医学博士。専門は外科。1969年久留米大学医学部卒業。77年西ドイツミュンスター大学教育病院デトモルト病院外科。80年久留米大学医学部講師。83年医療法人弘恵会ヨコクラ病院診療部長、90年同院長、97年同理事長(現職)。2006年福岡県医師会会長、12年第19代日本医師会会長(〜20年)、17年第68代世界医師会会長、17〜18年アジア大洋州医師会連合会長を歴任し、20年に日本医師会名誉会長の称号を授与される。20年日本危機管理医学研究会、21年ニューレジリエンスフォーラムを設立。21年旭日大綬章を受賞。著書に『新型コロナと向き合う』(岩波新書)がある。

——今回のCOVID-19の感染拡大によって、診察を希望する患者が医療機関で診てもらえない状況は、正に医療崩壊状態でした。この最大の原因はどこに有ったのでしょうか?

横倉 これは長年の医療費抑制政策の結果であると考えられます。余裕の無いところに感染者の急増が起きたという事です。それによって、防護具等の医療資源が不足しました。比較的余裕が有ったのは自治体病院等でした。自治体病院というのは、昔でいう伝染病床を持つ義務が有りましたが、日本は結核が収まった後、長い間大きな感染症が無かった事から一般病棟と化してしまった訳です。それにも拘わらず、自治体病院には総務省の予算で毎年8000億円近いお金が入っています。それには感染症対応が1つの重要な役割という意味も有りますので、もう少し頑張って頂きたいところですね。感染が拡大した時に、自治体病院の病床の3分の1から半分はコロナに対応する体制に出来ればもっと良かったと思います。

医療提供体制の整備に法律の壁

——「自宅療養」や「入院・療養等調整中」といった言葉が生まれました。これは病床が足りなかったという事なのでしょうか。

横倉 COVID-19は初め、感染症法の2類感染症相当に分類されましたので、一般の通常医療の中から外され感染症法の枠の中での医療となり、検査や治療法が全て保健所の許可の下に行われる必要が有りました。その為、通常の医療機関では疑いの有る患者は診てはいけないという事になりました。一方で保健所の数も、一時期の4割以上減らしていましたから、それで対応が出来なくなったんですね。そこで第1波の20年5月頃から発熱外来を適宜作り、対応して行きました。これは地方で進めた事もあって上手く行きました。第5波では、特に東京で急速に感染者が増えましたので、それに対応する為に緊急的に病床を増やす措置が行われました。千葉や神奈川でも試みられましたが、医療を提供する医師や看護師が中々集まりませんでした。そうした「平時」から「緊急時」への切り替えが直ぐ必要でしたが、法律的な縛りがあまりにも強過ぎたという事だと思います。

——病院組合からの反発も有ったのでしょうか。

横倉 それも有ったと思いますが、東京都の中でも、区の医師会と保健所の関係が上手く行っている所とそうで無い所、区長さんの考え方等によって対応が異なっています。台東区や板橋区、江東区等は上手くやっていましたね。今、こうした区の取り組みについての報告をまとめる為、医師会にお願いをして、区の医師会にヒアリングを行っているところです。

——感染症法での分類は今も変わっていません。何故、変えられないのでしょうか?

横倉 初めは、どういうウイルスか分からなかったので、ある程度は仕方ないところも有ったと思います。かなり危険なウイルスであるという事で、中国、アメリカ、イタリア等の諸外国でも混乱していましたし、お亡くなりになった方が相当いらっしゃいましたから。ただ、第3波位から大体ウイルスの正体が分かって来たので、出来ればあの段階でその取り扱いを変えて行けば良かったと思います。ただ国際的に見ると、日本は極めて良く対応していました。体外式膜型人工肺(ECMO)を使用した重症患者の生存率を見ても、国内では70%近くを達成し、日本の対応力と技術力の高さを諸外国に示す事が出来たのではないかと思います(弊誌2022年8月号参照)。

情報発信には政府との連携が必要

——COVID-19に関して、日医は多くの情報発信をして来ましたが、その発言内容が時として政府の対策と異なる事も有り、国民は混乱しました。

横倉 日医の役割は、正確な情報を示して、国民に安心を与える事です。特にパンデミックの時に政府の発表を否定する様な情報を出すと、国民は何を信じて良いか分からなくなる。情報番組等でも一生懸命国民に注意を呼び掛けていた状況でした。そういう中で、医師会の発言というのは、政府とよく調整しながら出して行かないといけないものだと思います。私の時は、感染が急拡大していた20年4月1日に、「医療危機的状況宣言」を発表しました。あの時は前もって当時の加藤厚生労働大臣に政府から出してもらえるよう頼みましたが、政府はまだその状況ではないという見解でしたので、緊急事態宣言に先行する形で医師会から出す事になりました。ただ、どういう発表をするかについては、役所と調整しながら行いました。初めは「医療危機宣言」という名称で出そうとしましたが、「危機」という言葉が強過ぎると言うので、表現を少し変更したという経緯も有りました。

——日本の医師会は都道府県医師会・郡市区医師会・日本医師会の3重構造を取っています。もっとシンプルに出来ないのでしょうか?

横倉 東京、政令市では4重構造も有りますし、そこはやはり何とかしなといけないですね。極端な事を言うと、様々有る学会のどれかに入会する時に「医師会の会員である事」を規定すれば、少なくとも臨床に携わる方は皆医師会員という事になります。医師会には、地区の医師会が出来て、それから都道府県医師会が出来て、日本医師会が出来たという歴史が有ります。本来は、地区の医師会に入った段階で日本医師会の会員にもなってもらいたいというのが本音で、福岡ではそうしています。県によっても対応が違うのです。地区の会費、県の会費、日本医師会の会費と有りますが、県迄しか入らなくても良い地域では日本医師会の会費は払わなくて良い事になっています。特に勤務医の先生方は転勤が有りますので、1回退会してまた入会を繰り返す必要が有りますが、それは現実的では無いですね。これから松本吉郎先生を中心に、その辺りの検討が行われていくと思います。

——一致団結して医師会の力を強くして行く方が、メリットが有るのでは?

横倉 私もそこはやりたかったところです。医師会の在り方は、武見太郎先生の代で大きく変わりました。その少し前迄の医師会のトップは殆ど、医学界の出身でした。北里柴三郎先生に始まって、北島多一先生、稲田龍吉先生と、皆学者です。そうなると、学者の力が強くなります。武見先生は国民皆保険に反発し、ご本人は最後まで自由診療を貫いていました。ただ、あれも大都会だから出来た事だとは思います。

——保険制度については、今でも何かと議論が絶えません。

横倉 当時の日本は発展途上国でしたし、保険診療になれば収益が減ってしまうという考えが医療界には有りました。それを国民の為にという事で、最終的には医師会が協力する形になりました。今や日本は世界トップの長寿国となりましたが、これを実現出来たのは、国民皆保険制度が有ったからこそだと思います。保険制度は皆保険を維持する為に、最近だけでも体外受精の保険適用やリフィル処方箋の導入が始まり、10月には後期高齢者の医療費負担の引き上げを控えています。超高齢社会の日本に於いて、この制度が国民の健康と安定した社会を維持するという目的の為に持続するよう、医師会としても、支援を続けて行く義務が有ると考えます。

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