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中途半端な中間報告案、社保改革は「掛け声倒れ」の雲行き

中途半端な中間報告案、社保改革は「掛け声倒れ」の雲行き
厚労・経産両省が対立しながら最終報告に向け〝夏の陣〟

政府は昨年12月19日に、安倍晋三首相を議長とする全世代型社会保障検討会議の中間報告をまとめた。既定路線の年金と労働に加え、夏の最終報告に記述するはずだった医療についても一定の見直し方針を盛り込んだ。診療報酬改定と絡めたい財務省の巻き返しによるものだが、目論んだ通常国会への法案提出は加藤勝信・厚生労働相の意を汲んだ安倍首相の判断によって見送られた。

 今後は、医療制度改革の詳細設計に加え、全世代型社会保障を謳いながら高齢者施策に偏ったため、少子化対策をどこまで具体化出来るかがカギとなる。

 中間報告でまとまったのは、主に医療・年金・労働の3分野だ。医療では、団塊の世代が2022年に75歳以上の後期高齢者になり始めるのを見据え、一部の人の窓口負担を引き上げる方針が示された。

 現在、75歳以上の医療費の自己負担は原則1割で、現役並み所得(単身世帯で年収383万円以上)は3割負担だ。現役並み所得までいかないものの、一定以上の所得がある人に限り2割に引き上げる。中間報告では「高齢者の生活への影響を見極め、適切な配慮を検討する」と記しており、夏の最終報告までに2割負担の所得層を決める。

日医会長選も絡んだ省庁間対立構造

 ただ、6月に日本医師会の会長選が予定されており、5選を目指す横倉義武会長のメンツを保ちたい厚労省と負担の範囲を少しでも広げたい財務省という対立構図は続きそうだ。

 また、財務省が求めた受診時定額負担に代わり、紹介状がなく大病院を外来受診した際に初診で5000円以上の追加負担を求める制度を↖見直す。1000〜2000円を上乗せする方針で、この分は公的保険に繰り入れる方向だ。今後は、対象となる病院の線引き等が検討課題となり、2割負担同様の展開が予想される。実施はいずれも22年度から開始される事が見込まれている。

 年金分野では、選択可能な受給開始年齢の上限を70歳から75歳に延ばす。働いて所得がある高齢者の年金を減額する「在職老齢年金」は60〜64歳の区分だけ見直し、減額される基準を「月収28万円超」から65歳以上と同じ「月収47万円超」に引き上げる。

 低年金対策として、パート従業員らへの厚生年金の加入を促すため、強制適用の企業規模要件を従業員501人以上の企業から22年10月に「101人以上」、24年10月に「51人以上」へと段階的に緩和する。

 労働分野でも企業に70歳までの就業機会の確保を努力義務で求める。定年延長や定年廃止、継続雇用の他、他社での再就職や起業支援といった選択肢を法律に明記する。

 年金・労働分野は、いずれも働きたい高齢者の就労を促す施策が中心となった。ただ、厚労省の調査によれば、16万社のうち66歳以上でも働くことが出来る制度がある企業は30%程度にすぎない。今後、制度が浸透するにつれて不安定な雇用が拡大する可能性があり、「高齢者には出来るだけ長く働いて社会保障を受けずに支えろというのか」と反発する意見も出ている。

 負担増に慎重だった安倍首相が財務省の誘い水に乗って高齢者の自己負担増に舵を切った形となったが、これは台風災害等が相次いで年内解散の芽が潰えた事に加え、憲法改正のメドが立たなくなったためといわれている。

安倍首相の「本気度」の低さも影響

 中間報告をまとめる直前の昨年11月29日、安倍首相は加藤厚労相を官邸に呼び、「全世代型社会保障の全体像を示すためにも医療制度改革を含めた法案を20年の通常国会に提出したい」と迫った。加藤氏は医療については制度設計に向けて詰めた議論をしていないため、「国会で野党から追及される。国民が納得出来る説明が必要だ」等と抵抗した。加藤氏と重ねて協議をしたが、議論で平行線を辿り、最終的に安倍首相が折れた形になった。

 医療制度改革を盛り込んだ法案は早くても秋の臨時国会以降となったが、これは首相の「本気度」が高くなかった証左ともいえる。

 年末に安倍首相に会ったある要人は「安倍首相から全体的に政策等への意欲が感じられなかった」と明かし、安倍首相のレームダック化を懸念した。こうした安倍首相の姿勢も中間報告の書きぶりに影響しているとみられる。

 ただ、高齢化による社会保障費の増加は、22年には毎年8000億円前後に達するとみられ、「中間報告の内容だけでは不十分だ」(財務省関係者)との指摘も漏れる。今後、最終報告に向けて財務省のさらなる巻き返しが予想されそうだ。

 医療制度改革の行方とともに密かに注目されるのが、少子化対策だ。中間報告公表時に少子化対策が盛り込まれていなかったと一部報道で批判されたため、最終報告に向けて少なからず何らかが盛り込まれる方向だ。19年の推計出生数は86万4000人と過去最少を更新し、90万人割れとなった。待機児童数も依然として1万7000人近くに上る。

 中間報告を取り仕切る新原浩朗・経済産業省経済産業政策局長は「幼児教育・保育の無償化は10月に始まっており、これまでも少子化対策は手掛けてきた」と釈明するものの、公明党は少子高齢化の急速な進展に危機感を持っており、少子化対策を最終報告に盛り込むよう政府に求める方針だ。衛藤晟一・少子化担当相も実績作りに励んでおり、全世代型社会保障検討会議へのメンバー入りを水面下で求めている。

 ただ、ある厚労省幹部が「少子化対策のタマがない」とぼやくように、実効性のある対策を短期間で打ち出すのは至難の業といえる。42万円を受け取れる出産一時金増額や中学生までに1万〜1万5000円を支給される児童手当の増額を求める声があるが、10%超の消費増税が封印されている中、財源をどう確保するか課題が付きまとう。

 医療制度改革のあおりを受けたのが、介護保険の見直しだ。医療の負担増が先行する中、「介護も見直すとなると相当なエネルギーが必要になる」との判断でほぼ手付かずの状態になった。ケアプランの有料化や要介護1・2の軽度者への生活援助を総合事業に移行する案等は早々に断念された。

 通常国会に法案を提出するものの、中間報告には抜本的な改革に踏み込めず、「これなら法改正しなくても十分なのではないか」との声が厚労省内から相次いでいる。

 最終的に財務省が求めるような負担増は中間報告段階では叶わず、厚労省が当初求めていた40年を展望する中長期的な視野に立った改革も見込めず、「全体的に中途半端な内容」(大手紙記者)に落ち着いた。

 少子化対策については財源等を勘案すると踏み込み不足になる可能性もあり、全世代型社会保障改革は掛け声倒れになりそうな情勢が濃厚になっている。

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