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岩手医大「寄付金」を巡る疑惑に対し元父兄が提訴

岩手医大「寄付金」を巡る疑惑に対し元父兄が提訴
国試合格率3年連続ほぼ最下位でも金集めが優先

東京医科大裏口入学事件や日大アメフト部事件など、医学部や私立大学を巡る不祥事が相次ぐ中、私立の岩手医科大学(岩手県盛岡市)に対し元学生の家族が寄付金の返還を求める訴訟を9月下旬に盛岡地方裁判所に起こした。同大の理事長は、脳神経関連のエキスパートで、全国医学部長病院長会議顧問などに就く小川彰医師だ。弊誌は2017年6月号で、寄付金の支払い遅れの見せしめに医学部の学生(当時。以下、A学生)を留年させたのではないかという疑惑を報じたが、訴訟を起こしたのはA学生の家族だった。

 疑惑を振り返ってみる。約3年前、A学生は5年生への進級試験で、必修試験が合格点にわずか3・2点足りなかったため、留年の憂き目にあった。しかし、A学生より成績順位が下位の学生や、科目試験25科目のうち20科目を落とし、総合試験3科目を落とした学生が進級したことから、A学生や家族だけでなく、同大の他の学生の間でもSNSなどで疑問や噂が飛び交った。

寄付金支払い遅れの見せしめに留年か

 編集部の取材に対し、A学生の父(以下、B氏)は「子供の留年は大学への寄付金納付が遅れたためとしか思えない」と話す。そう推測するのは次のような経緯があったからだ。

 B氏宅にはA学生の入学直後に大学から「ご寄付のお願い」と題した文書が送られてきた。B氏は2010年5月に1000万円、11年5月に1000万円の計2000万円を寄付する旨の寄付金申込書を大学に送った。最初の1000万円は期日通りに寄付したが、2回目の1000万円は予定日を過ぎても振り込まなかったため、大学側から「寄付は分割払いでもいいから払ってほしい」と言われ、半年遅れの11年11月に1000万円を振り込んだ。さらに、B氏はA学生の留年が決定してから、15年3月に1000万円を振り込んだが、留年は覆らなかった。

 A学生や家族が困惑する中、A学生に友人からメールが来た。「〇〇ちゃん(編集部注:A学生の実名)の実力とかの問題じゃなくて、全て寄付金だよ。うちの親は小林(同:当時の医学部長・小林誠一郎氏、現・副学長)達との話でAちゃんのことを確信したって。卒試前にうちも入れる絶対に」と書かれていた。「寄付金の納付が遅れると、進級に関わる」ということを示すための“見せしめ”だったというのだ。

 岩手医科大の掲示板には、点数操作の実行者の名前まで出ている。「……寄付金遅れた人をいきなり点数操作して留年までさせて。……小笠原さんが張本人ですがね」。「小笠原さん」とは、当時の教務委員長で、現在は附属病院病院長を務める小笠原邦昭氏のことである。この点に関し、B氏は「小笠原氏と電話で話した時、勝手に答案をいじって試験の点数を上げたり、職務権限を越える不法なことをやっていたりしている実態を本人が認めていた」と言う。

 なぜ、ここまでして寄付金集めに邁進するのか。B氏は「創立120周年記念事業の一環として進められている附属病院移転事業が背景にあるのでは」と推測する。同大は19年9月に、盛岡市南部に隣接する矢巾町に附属病院を新築移転し、入院・治療機能を中心とした1000床の特定機能病院を整備するとともに、附属病院跡地に外来機能を中心としたメディカルセンター(病床数:50床)を開院する。新病院の建設事業費は550億円程度と試算している。

 「以前は3〜4人だった留年生がここ5〜6年で急増し、私の子供の時は18人、今年は35人前後もいる。歯学部と薬学部の入試倍率が低い中、医学部で学生を足止めして授業料を稼ごうとしているのではないか。1人留年させれば、年間500万円ほどの授業料が入る」とB氏。

 B氏は弁護士を立て、試験や寄付金の在り方について大学側に問い詰めたり、A学生が退学したことで寄付金の返還を求めたりしてきた。

 小林氏からは「寄付金は返してもいい」という主旨の発言があったというが、その後、大学側は弁護士を通じ、「寄付金によって進級したりしなかったりするものではないことを強調するために述べたにすぎず、返還する趣旨で発言したものではない」との詭弁とも受け取れる文書を出している。

 また、大学側の弁護士と話し合い場を持った際は、「訴えるなら、訴えてみろ」と恫喝されたという。

 B氏は今年3月27日付で、寄付金が返還されない場合、訴訟することを文書で大学側に通知したところ、4月5日付で送られてきた文書には「大学としては元父兄の方と訴訟で争うことについては避けなければならないという気持ちでおります。……話し合いを通じて妥協点を見つけられないかと考える次第です」と態度が一変した。

 4月27日に大学側弁護士と面談した際、B氏は責任者による誠意ある対応も求めたが、大学側弁護士は金銭の問題としか捉えておらず、調停による解決を求めてきた。そこで、B氏は訴訟に踏み切ることにした。ちなみにこの日、大学側弁護士は昨年の弊誌記事のコピーを持っていた。

国試合格率の底上げは二の次

 文部科学省は東京医大裏口入学事件を受け、全国の国公私立大の医学部入試に関する調査に乗り出した。

 「進級する際にお金を取るという、学生や父兄を食い物にした行為は決して許されるものではない。また入試に関しても、100人以下しか入学しない一般入試の1次試験で600人以上も合格させており、入学金目当てだと考えられる」(B氏)

 岩手医大は文科省の私学助成を受けている。平成29年度は補助を受けている573校中、35位の金額(約18億4360万円)だ。また、東京医大裏口入学事件では文科省局長の息子を裏口入学させる見返りに東京医大を私立大学研究ブランディング事業の対象校にした容疑が持たれているが、岩手医大も同事業の対象校で、補助金を受けている。

 このように税金が投入される中、さらにB氏が憤るのは、同大の医師国家試験(国試)の合格率の低さだ。今年2月の国試の合格率は90・1%(全国平均)だが、同大は77・3%。「全国最下位の合格率。偏差値も最下位で、質の悪い生徒を入れてお金を取って、成績が悪くても進級させてきた結果だ。岩手県民の健康を支えるのに適格かどうか疑問を感じる」。

 OBも危機意識を持ち始めた。同大同窓会「圭陵会」の4月の機関誌に、小川理事長の医学部同期である森本紳一郎・藤田保健衛生大学医学部客員教授が寄稿。「医師国家試験の成績が3年連続して全国でほぼ最下位」とした上で、統合試験の導入、医学部長と教育責任者を切り離すなど10の改善策を提案している。

 B氏は「学内は小川理事長に意見を言うことができない独裁体制。小川氏の金権主義が大学を危機的な状況に陥らせた。裁判を通じ、この実態を浮き彫りにしたい」と話す。

 編集部では同大に取材を申し込んだが、期日までに回答はなかった。

岩手医大「寄付金」疑惑

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