
又しても、酷暑なのか。過去最多の猛暑・酷暑を記録した昨年程ではないものの、全国延べ10地点程度で摂氏40度以上の「酷暑日」が予想されている。4月に気象庁が決定した「酷暑日」は、夏の新たなスタンダードとなりそうだ。
消防庁の救急搬送統計(5〜9月)によると、2024年は救急搬送者数9万7578人、搬送後死亡者数120人、25年は救急搬送者数10万510人、搬送後死亡者数117人に上る。10万人が救急搬送されているのだから、最早、災害級である。
そして今年も高温の傾向が続くと見られ、10万人から12万人が救急搬送されると推定されている。救急医療を担う関係者に心から感謝する次第である。小まめに水分補給を行う等熱中症に注意し、自らの命を守る様心掛けよう。
さて、その様な厳しい暑さとなる中での、今夏の日本の政治についてである。高市早苗政権の数を頼んだ強引な運営で、終盤国会は荒れ模様となっている。原因は、日本維新の会が「政策の1丁目1番地」として掲げた「衆院定数の1割削減」の取り扱いだ。
衆議院議員の身分は国家の重要事項である。その身分は与党でも野党でも変わりなく尊重される。民主主義の根幹に関わる問題だからだ。従って定数の削減問題は与野党が一致して衆院政治改革特別委員会で審議に当たるのが通例になっている。
ところが、維新との関係を重視する自民党執行部は野党との調整が難しいと見るや、委員長職権で強引に同委員会の開催を決めてしまった。野党は当然、反発する。衆参両院の審議をボイコットする強硬策に走った。
衆院定数の削減は、簡単に言えば、衆議院議員になる為の門戸を狭くするという事だ。当然、各政党に様々な影響が表れる。無論、自民党内にも異論は有るのだが、今回、自民党執行部は今国会での成立に拘る維新との連携を重視した形だ。背景には参院が少数与党状態で、維新の協力無しには立ち行かないという事情が有る。
動かない野党に対し、与党側は更なる脅しを掛けた。国会の会期延長である。
念頭に有るのは、衆院での再可決という〝究極技〟である。衆院で可決され、参院に送付された法案等を参院が60日以内に議決︎しない場合、否決したものと見做し、衆院で再可決する仕組みだ。可決には衆院の3分の2以上の賛成が必要になる。憲法に定めの有る仕組みなのだが、参院を真っ向から否定する強権の為、発動案件はそう多くはない。
代表事例として挙げられるのは、08年の福田康夫政権での新テロ対策特別措置法だ。インド洋での米艦艇への給油を継続する為の法律だった。07年の参院選で敗北した事を受け、福田政権、それに続く麻生太郎政権は、参院を野党に握られる所謂「ねじれ国会」により、国会運営に苦しんだ。そこで実施した再可決は財政や安全保障等、国家の重要法案を切り盛りする為の窮余の策の色彩が強かった。
只、今回は維新のみが拘っている衆院定数削減や副首都に関わる法案が引き金になっている。自民党内にも「そこ迄やるべき問題か」との消極論が少なくない。
自民党幹部が語る。
「昔、必死にやったがアレは後味が悪い。制度としては有るが、今回やれば、習い性になってしまう。恐れが無くなれば暴走すら招き兼ねない。俺は7割が脅しで、3割が本気と見ている。再可決を避けながら、上手く延長して、維新にも花を持たせる様、工夫するのがベストだろう」
結局、維新は今国会での定数削減の成案を断念し、国会会期延長も小幅となったのだが、自民党幹部は「後味が悪いのが、もう1つ残ったままになっている」と表情が冴えない。
「俺が心配しているのは、飲食料品の消費税減税の問題なんだ。あれって期間限定だから、理屈上、2年後には元に戻る。当初から言われていた事だけど、結果として大増税になるよな。2年後には参院選が有る。将来的な大増税をチラつかせて選挙が上手くいくとは思えん。かと言って、減税を続ければ財政問題で国債が暴落し、猛烈な円安に見舞われ兼ねない。落とし処が見えないんだよな」
この問題は給付付き税額控除と合わせ、超党派の社会保障国民会議で議論され、実務者会議の中間取り纏め案が示されている。中身は①29年度に給付に絞った「給付付き税額控除」を導入、②それ迄のつなぎとして27年4月から2年間限定で飲食料品の税率を1%に引き下げる、というものだ。
この案は、高市首相が2月の衆院選で掲げた「食料品の消費税率ゼロ」を踏まえたものだ。引き下げ後の税率がゼロではなく1%なのは、飲食料品店等の事務作業を軽減し、早期に実行に移す為だ。不足する1%分は給付付き税額控除で、ほぼ同額をカバーするという仕組みだ。高市首相もこの内容をほぼ容認しているという。
減税問題の主戦場は年末へ
超党派による取り纏めを目指すのは与野党双方が責任を負い、参院選で与党に不利に働くのを避ける為だ。飲食料品の減税は元々、野党が言い出した事で、自民党には慎重論が多かった。それを自らの公約とし、衆院選の大勝利を呼び込んだのが高市首相だ。高市首相にすれば、野党を利用する形で、減税にわだかまりを持つ自民党内の財政規律派を抑え込む狙いもあった。
だが、事は目論見通りには進まない。ネックは財源問題だ。中間とりまとめでは、減税案の財源確保策について「来年度予算を編成する年末に掛けて決める」として結論を先送りした。これに対し野党は、中身の伴わない〝空証文〟だと反発を強めた。
更に、中間とりまとめと並行して、永田町を驚かせる事態も起こった。年末に掛けて減税問題論議を担う自民党税制調査会の小渕優子副会長が、減税反対の立場から、同税調の最終意思決定を担う「インナー」の辞任を表明したのだ。
小渕氏は所謂、財政規律派に属し、高市政権の積極財政策には反対の立場だった。経過を見ると、実務者会議で「中間とりまとめ案」が提示されたのは6月24日、小渕氏はその翌日に辞意を表明している。「中間とりまとめ案」が報道陣らに公開されたのが6月26日だから、そのドタバタぶりがよく分かる。
因みに「インナー」とは、税制改正の骨格を事実上決める中枢組織だ。メンバーは閣僚経験者ら有力議員に限られ、権威は高い。そのメンバーの途中での辞意表明は極めて異例で、税財政を巡る自民党内の対立の根深さを象徴する出来事になった。
先の自民党幹部が続ける。
「インナーも今や嘗て程の力は無い。小渕辞任は衝撃だが致命傷ではない。寧ろ、この時期で幸いだった。年末のギリギリの所で辞められたら収拾が付かなかったからな。小渕さんの後ろには財務省OB等、財政規律派が居る。減税案は経済界でも評判が悪いから、多少の凸凹は覚悟していた事だ。問題はこれからだな。中傷動画問題を切り抜けたとしても、この手合いは尾を引く。内閣支持率が下がれば、年末に掛けて党内の財政規律派が猛烈に巻き返しに出てくるだろう。かと言って、減税が中途半端だと国民の信用を無くす。秋以降の政界は難題がひしめく事になるね」
内政最大の課題は減税問題という事だろうが、外交も又、秋口に正念場を迎えそうだ。
対中無策で米中蜜月に募る不安
別の自民党ベテラン議員が口にしたのは、音沙汰無しの対中関係である。
「9月には中国の習近平国家主席が訪米し、トランプ大統領と米中首脳会談を行うと目されている。米国は11月に中間選挙を控えている。トランプさんは有権者にアピールする材料が欲しいから、中国との蜜月を演出するだろう。習主席は米国への手土産と引き換えに、台湾問題を自国に有利な様に運ぼうとする。結果、米中は融和が強まるだろう。今のままだと日本は浮いた存在になり兼ねない。11月には中国でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)が有る。高市首相も当然出席する。それ迄にあらゆるパイプを総動員して、対中外交の門戸をこじ開けないと、これから先が大変だ。この暑い季節、国会も官僚も民間企業も含めて、何が何でも対中外交再開の糸口を見つけないといけない」。



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