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未来の会

テレビの「医療情報」をリードする悪しき〝専門家〟達

テレビの「医療情報」をリードする悪しき〝専門家〟達
エビデンスに基づいた情報が求められている

新型コロナウイルスが流行する中、連日垂れ流される民放テレビ局の「医療情報」がひど過ぎる。自称「医療ジャーナリスト」が牛耳る情報番組や、政権批判のためには科学どころか事実を無視するコメンテーターがまたぞろ出現しているのだ。さすがに当局や視聴者から批判を受けて反省するかと思いきや、相変わらず意気軒昂だというからたまったものではない。視聴者の中には、番組スポンサーに抗議をする動きもあるというが、制作側が専門家をしっかり選ぶ事が何より大事だ。

 ダイヤモンド・プリンセス号での集団感染等、新型コロナの国内発生が明らかになってからというもの、民放テレビ局は朝から晩まで新型コロナの話題で持ち切りである。

 「大前提として知っておいてほしいのは、テレビ局の情報番組とニュース番組は別物という事」と解説するのは、全国紙のメディア担当記者だ。

 「決まった定義があるわけではないが、情報番組とはいわゆるワイドショーと考えていい。報道局が主体となって自ら取材して放送するニュース番組と異なり、情報番組はコメンテーターを呼んで新聞記事にコメントしたり、芸能情報や健康情報といったニュースではあまり大きく扱わない事象に時間を割いたりするのが特徴」(同記者)と言う。

 近年はニュース番組の情報番組化が進み、コメンテーターがニュース番組に出演する事も珍しくない。その先鞭を付けたのはテレビ朝日系の「ニュースステーション」(現・報道ステーション)とされている。

 そのテレビ朝日系でたびたび問題となっているのは、「羽鳥慎一モーニングショー」(平日朝8時〜9時55分)だ。同局報道局の玉川徹氏が

コメンテーターとして出演し、歯に衣着せぬ発言が視聴者に受けた。この時間帯の主なターゲットである主婦層の受けが良い羽鳥氏とずばずば物を言う玉川氏のキャラクターのお陰か、コロナへの不安が高まる中、連日10%台(関東地区)の視聴率を記録するようになり、2月は12%台、4月は13%台、5月には14%台を記録した。

 一方で、玉川氏の発言は厚生労働省からも指摘が出るなどたびたび物議をかもした。4月28日の放送では「行政の検査機関が休みのため土日の感染者数が少なくなる」という主旨の発言をしたが、行政の検査機関は土日も休んでいなかった事が判明。謝罪に追い込まれた。また、5月19日には、PCR検査の精度が約7割という理由について、検体の採り方が今一つだからと発言。そもそもの検査の限界について無視し、現場の医師の腕が悪いと受け止められる発言で、大きな批判を浴びた。

テレビ局のコネや業界特有の事情が

 小倉智昭氏がメインキャスターを務めるフジテレビ系「とくダネ!」(平日朝8時〜9時50分)も同様だ。この番組にたびたび出演している医療ジャーナリストの伊藤隼也氏がツイッターで発信する新型コロナ情報がたびたび炎上しているのだ。例えば、2月には「大阪で原因不明肺炎が7000件も出ている」等とツイートしたが、その後、削除する騒ぎになった。

 3月12日には社会学者の古市憲寿氏と、インフルエンザワクチンを巡って生放送で口論となる場面もあった。「伊藤氏はHPVワクチンに反対する等、ワクチンに否定的な立場。そうした過去の発言を問題視した古市氏は、伊藤氏に医療ジャーナリストとして科学的な情報を発信してほしいと求めたかったのでしょう」(同局関係者)。

 古市氏が求めるまでもなく、伊藤氏の医療ジャーナリストとしての姿勢には以前から、数多くの疑問が呈されてきた。

 伊藤氏を知るある記者は「思い込みの強い性格で、おかしいと思ったら一気に突き進んで断定的に報じてしまう。行動力はあるが、反対意見を聞く事がない。白黒はっきりさせる事が難しい医療分野には、向かない人ではないか」と厳しい評価を向ける。

 こうした評価は市井にも共有されているようで、伊藤氏の新刊『誰も言わなかった新型コロナウイルスの本当の話』(宝島社)のアマゾンの読者レビューには「自称医療ジャーナリストの与太話」等と、辛辣な評価が並ぶ。

 オンライン署名サイトでは、伊藤氏の発信する医療情報が信頼できるのか「とくダネ!」とスポンサー各社に事実検証を求める署名が立ち上がり、約1500人の賛同を集めた。

 にもかかわらず、伊藤氏がフジテレビで活躍し続けるのには、同局幹部の強い〝コネ〟があるとの見方がある。

 同局関係者は「今でこそトンデモ情報を流せばネットで批判の的となり、局やスポンサーへの苦情に繋がるが、テレビが強かった時代はそうした事は少なかった。この時代に伊藤氏にお世話になった幹部や管理職には、話題になればいいと考えがちなテレビ業界特有の事情があるかもしれない」と分析する。

 テレビの「医療情報」について、東京都内の内科開業医は「時には命にも関わるだけに、かかりつけ医と関係をしっかり築き、信頼出来る医療情報を得てほしい。だが、うちのクリニックにも『テレビで見たんですけど』と怪しげな健康情報を信じる患者さんが来る」と明かす。

 トンデモ情報の発信源として上がるテレビの情報番組。全国紙記者は「医療をよく知らないコメンテーターが政権批判の材料に医療を使ったり、医療ジャーナリストが臆面もなくコメントしたりする場面が目立つ」と語る。

 医師免許なく医師と名乗れば犯罪だが、医療を学んでいなくても医療ジャーナリストを名乗れる。

「医学博士」の肩書にも要注意

 また、「医学博士」の肩書も要注意だ。大学医学部に入るのは至難の業だが、大学院はそこまでではないため、大学で医学以外を学んだ学士が医学系の大学院に入り博士号を取得する例もあるのだ。

 医学博士が必ずしも医師でないという事は意外に知られていない。例えば今回のコロナ禍で民放各局に出演し〝コロナの女王〟の異名をとった白鴎大学教授の岡田晴恵氏は順天堂大学大学院医学研究科を後期中退し医学博士を取得したが、医師ではないという。料理研究家で服部栄養専門学校校長の服部幸應氏は立教大学社会学部の卒業生だが、後に昭和大学で医学博士を取得している。スポーツ庁初代長官の鈴木大地氏も順天堂大学体育学部卒だが、医学博士を取得している。

 「世間的には医学博士は医師とイコールだと誤認されるので、それを狙って博士号を取得する人もいるだろう。がんが治る等のトンデモ本の著者には『医学博士』とあるものの、医師ではない人が散見される」と前出の記者は解説する。

 もっとも、医師免許を持っていても〝トンデモ医学〟を発信する人はいるわけで、肩書に頼り過ぎるのも良くない。だが、少なくとも新興感染症に社会の不安が高まっている時は、エビデンスに基づいた情報を発信出来るしっかりした「専門家」にテレビ出演をお願いしたい。

 

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