
巧妙化するテクノロジー犯罪に対する即応性が向上
昨年誕生した高市早苗内閣の下で早期に改正されたのが、ストーカー規制法である。
これ迄、ストーカー規制法では、恋愛感情や好意が受け入れられなかった恨み等の感情を充足する目的で行われる「つきまとい等」が規制されてきた。GPS機器を無断で取り付ける行為や位置情報を承諾無く取得する行為も規制対象に含まれている。しかし近年では、GPSを使用しない「紛失防止タグ」を相手の承諾無く取り付けたり、その位置情報を取得したりする行為が急速に増加している。これらに対応すべく法改正が為されたのである。
紛失防止タグとは通称スマートタグと呼ばれる、小型の位置確認機器である。小さいものでは500円玉程度、中にはクレジットカード位の大きさでバッテリーが10年も長持ちすると謳うものも有る。これらは一般的に使い捨てで、1000円から5000円以内の商品が殆どであり、ネット通販や家電量販店で簡単に手に入る。使い方は様々だが財布に入れておいたり、スマートフォン(以下スマホ)のケースに付けたりして紛失防止に使う事が多い。中にはペットに付けたり、子供やお年寄りに持たせたりして迷子や見守りにも利用できると案内されているものも有る。車やバイクに載せる等して位置情報を得る為に使う事も出来る。探索距離に制限は無く、スマホやパソコン上で位置情報を検索出来る。
ストーカーはあらゆる手段を講じて被害者の行動を探ろうとする。その意味に於いて、小型で発見され難く、長期間使用出来る上、離れた場所から位置を確認出来る事が、悪用される一因となっている。
当然の成り行きとして、紛失防止タグを利用したストーカー行為による被害が増加する傾向が顕著となっている。警察庁の統計によると、2024年に相談を受けたストーカー事案の内、紛失防止タグで居場所を特定されたとの申告が計370件に上るとされている。22年には113件であった事から、2年で3・2倍に増加した事になる。警察庁はこの様な状況を鑑みて、法整備の必要性に迫られていた。
グレーゾーンの行為を違法として明確化
この改正により、GPS機器等を用いて位置情報を取得したりGPS機器等を取り付けたりする行為に加え、紛失防止タグを用いて位置情報を取得する行為や、その前段階として紛失防止タグを取り付ける行為そのものが規制される事となった。
具体的には、第2条第3項第2号、3号により「承諾を得ないで、その所持する位置特定用識別情報送信装置(中略)の位置に係る位置情報を取得すること」、「承諾を得ないで、その所持する物に(中略)位置特定用識別情報送信装置(中略)を取り付けること、位置情報記録・送信装置等を取り付けた物を交付することその他その移動に伴い位置情報記録・送信装置等を移動し得る状態にする行為として政令で定める行為をすること」を禁じると規定した。例えば、被害者の車両や所持している物に紛失防止タグを取り付け、被害者の位置情報をスマホ等で取得する行為や、紛失防止タグを被害者の使用・乗車する自動車等に取り付けたり、被害者の所持する鞄等に差し入れたりする行為等が規制の対象となる。
警視庁始め各地の警察では、ストーカー被害を防ぐ為の心構えとして、GPS機器による被害については、スマホ等を他人に操作される様な所に放置しない、スマホ等に身に覚えのない位置情報共有アプリが入っていないか確認する、アプリ等から求められる位置情報の許可申請について安易に承諾しない、といった事項を挙げている。
紛失防止タグによる被害については、スマホのアラート機能をオンにして被害者と紛失防止タグが一定時間一緒に移動している場合に通知を受け取る設定を取る事、無断でGPS機器等や紛失防止タグを取り付ける行為については、普段使用している自動車や鞄等をこまめに点検し、身に覚えの無い機器が見つかった場合は相談するように呼び掛けている。
警察がストーカー被害者から相談を受ける事で取る事の出来る、ストーカー規制法に基づく対応は2つ有る。1つはストーカー行為を行っている者に対して警告する事である。警告によって、加害者に自分の行為がストーカー規制法に違反している可能性を認識させる効果が期待出来る。但し、加害者が警告に従わなくても罰則は無い。
もう1つは都道府県公安委員会による禁止命令等である。禁止命令等は、ストーカー行為を行っている加害者が反復してストーカー行為を行う恐れが有る場合、被害者の申し出により、又は職権で具体的に禁止する行為等を明示した上で発せられる。禁止命令等の効力は1年間で、更新する事が出来る。有効期間中に加害者が禁止命令等に違反して、ストーカー行為又はつきまとい等もしくは位置情報無承諾取得等をした場合は、通常のストーカー行為の刑罰(1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)よりも重い2年以下の拘禁刑又は200万円以下の罰金に処せられる。
ストーカー事案への警察による相談等対応件数は24年では約2万件となっており、直近5年間はほぼ横ばいの状況にある。被害者の8割以上が女性であり、交際相手や知人・友人等からの被害が多い。動機は規制の対象となる好意や感情、好意が満たされない事による怨恨が大部分である。尚、ビジネス上のトラブルや、その他近隣トラブル等による怨恨の感情によるものは規制対象とはなっていない。
又、警察が24年にストーカー規制法に基づいて行った警告は1479件、禁止命令等は2415件である。禁止命令等の内「緊急禁止命令等」が1466件有る。緊急禁止命令等とは被害者の「身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害されることを防止するために緊急の必要があると認めるとき」に迅速に保護する為の措置であり、都道府県公安委員会が発出する事が出来る。警告や通常の禁止命令等で必要とされる聴聞を行わずに命じられる事から、即効性が有る。つきまといや待ち伏せ、押しかけ等がエスカレートしていたり、脅迫的な言動や暴力の兆候があったり、被害者が強い恐怖や危険を訴えている等、今すぐ止めないと危険と判断される場合に発出される。従わない場合は禁止命令等と同様に刑事処罰の対象になり、通常のストーカー行為の刑罰より重く扱われる。
因みに、24年にストーカー事案に関して、検挙された件数は3084件である。この内、ストーカー規制法違反は1341件(内禁止命令等違反233件)、1743件はストーカー事案に関連する刑法犯や他の特別法犯であり、多くは住居侵入や脅迫、暴行、器物損壊、迷惑防止条例違反等である。
被害者の勤務先や学校に被害者支援の努力義務
紛失防止タグ使用によるストーカー行為に関する事以外にも、新たに規定された事項が有る。探偵業者を始めとする第三者からストーカー行為等の相手方の所在等に関する情報を入手して、ストーカー行為等を行う事案が発生していた事がある。その為警告や禁止命令等が行われた場合は、情報保有者に対して、情報提供先がストーカー行為等をする恐れが有る者である事を警察が通知して、情報提供を行わないよう求める事が出来るようになった。つまり、ストーカー加害者が探偵等を利用しても、意図が知られたら情報が入手出来ない様にしたのである。
この通知等は被害者の申し出によらず、警察本部長等が職権で行う。この規定によって探偵業者側も依頼者がストーカー加害者であると知る事が出来、依頼を断れるようになった。更に、ストーカー被害者の勤務先や学校は、安全の確保や相談対応等、被害者を支援する為に必要な措置を講じる努力義務が課せられた。この事から、会社や学校は私的問題として放置しにくくなった。
現行の改正ストーカー規制法は巧妙化するテクノロジー犯罪に対応する重要な一歩である。警察には新たな規制を実効性有るものとし、被害者を迅速に守り、重大犯罪に至らぬよう未然に防ぐ対応力の強化が求められる。被害が出てから動いても、時既に遅しだ。



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