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超高齢社会の医療に求められる 「病院総合医」の養成に乗り出す

超高齢社会の医療に求められる  「病院総合医」の養成に乗り出す
尾身 茂(おみ・しげる)1949年東京都生まれ。67年American Field Service(AFS)交換留学生として米国留学。69年慶応義塾大学法学部入学。72年自治医科大学入学(1期生)。78年卒業後、伊豆七島を中心に地域医療に従事。90年WHO西太平洋地域事務局感染症対策部長。99年同事務局長。2009年自治医科大地域医療学センター教授、WHO執行理事。11年国立国際医療研究センター理事。12年内閣官房新型インフルエンザ等対策有識者会議の長、14年独立行政法人地域医療機能推進機構理事長。その他、総合医を育て地域住民の安心を守る会世話人。

地域医療機能推進機構(JCHO)が、今年度から病院総合医の養成を開始した。従来、日本の医療は専門医の養成に力を注いできたが、高齢化が進む現在、幅広い領域の疾患を横断的に診られる医師が求められるようになっている。開業医はもとより、地域医療に取り組む多くの病院でも、その必要性は高まっている。「JCHO版病院総合医」の養成プログラムについて、尾身茂理事長に話を聞いた。


——病院総合医が必要な理由は?

尾身 私は若い頃に地域医療を経験しましたし、WHO(世界保健機関)の仕事に長く携わって、世界のいろいろな国の医療も見てきましたが、日本の医療は技術的にも医師の質でも世界的なレベルにあると思います。ただ、課題もあります。その一つが、専門性の方に偏り過ぎているということです。医学はサイエンスですから、深く掘り下げていくには、対象を絞り込んで専門性を高めていくことが必要になります。日本の医療は、こうした専門性を重視する方向に進んだことで、サイエンスとして非常に高いレベルに発展することが出来ました。ところが、専門性の方向だけが重視されたために、新たな課題が出てきたのです。それが、高齢化が進むことで顕在化してきたといえます。人間の体はどの組織も関連しているし、心と体も関係しています。そのため、総合的に診るという観点がどうしても必要なのです。ところが、これまでは専門医を育てることに力を注いできたため、総合診療を行える医師が足りないという状況が起きています。そこで、JCHOでも総合診療を行える医師の養成に乗り出すことになったわけです。

——専門医も総合診療医も両方必要なのですね。

尾身 国際的に見ると、先進国の多くでは、臨床医の2〜3割程度は総合診療を行える医師が占めています。織物でいえば、専門医は縦糸、総合診療医は横糸のようなものです。縦糸だけでも、横糸だけでも、織物にはならないわけで、両方そろっていることがとても大切なのです。

——両方そろうと、どんなメリットがありますか。

尾身 大きく分けて二つあると思います。一つは、医療を受ける患者さんにとってのメリットです。例えば、治療が難しい病気になった時には、専門医の診療を受けたいですね。肺がんになったら、肺がんの専門家に治療してもらいたい。その一方で、いくつもの疾患が絡み合って具合が悪くなることもあります。高齢になると、こういったケースが増えます。このような場合には、複数の専門医を受診する前に、まずはじめに総合診療医が診る方が、より合理的と言えます。つまり、縦のプロと横のプロがいた方が、患者さんに質の高い医療を提供することが出来るのです。

——もう一つのメリットは?

尾身 もう一つは、日本の医療制度にとってどうか、ということです。日本の病院の8割程度は病床数が200床以下の中小病院です。こういった地域の病院が日本の医療を支えていると言っても過言ではありません。こうした病院に専門医しかいなかったら、なかなかニーズに応えられません。例えば、小児の発熱というよくある症状に対して、「小児科でないので診られません」という医師ばかりだったら、日常診療はものすごく非効率的になります。医療機関を訪れる患者さんのほとんどはコモンディジーズ、よくある病気なのです。これに対して一般的な診療が出来、専門医に任せるかどうかの適切な判断が出来る医師がいると、専門医だけしかいないのに比べ、はるかに効率的な医療制度になります。これが二つ目のメリットです。こうしたメリットが考えられるため、JCHO版病院総合医の育成に乗り出すことにしたのです。今年4月にスタートしました。

テーラーメイドのプログラム

——JCHO版病院総合医の育成プログラムは、どんな人を対象としているのですか。

尾身 このプログラムの特徴の一つは、いろいろな入り口が用意されている点にあります。初期臨床研修の後、内科または総合診療科研修を終えた人も、各基本領域の専門研修を終えた人も、このプログラムを始めることが出来ます。基本領域の19番目が総合診療科となりましたが、総合診療の専門研修を行った後、この育成プログラムに入ることも出来ます。また、後期研修後にサブスペシャリティの勉強をして経験を積んだ人が、この育成プログラムを始めることも可能です。開業を目指す医師にとっても、良いプログラムだと思います。

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