
実は社会復帰できるのでは?
毎年、夏が近づくと小中学校の校舎の屋上や校庭の一角で、お決まりの作業が行われる。プール清掃である。かつては教職員や児童・生徒、保護者が協力して作業を行った学校もあったが、近年は清掃や管理の手間を省くためプールを廃止したり、専門業者に清掃を委託したりする例が増えているようだ。
横浜市ではコロナ騒動が始まった頃から、一部学校のプール清掃を市内の福祉事業所に任せている。就労継続支援B型事業所などに通っている精神障害者が、事業所職員と共に作業に励む。筆者は昨年、作業を請け負う事業所の1つに潜入し、プール清掃にも複数回参加した。
作業は5月から6月に集中する。プール1カ所当たりそれなりの報酬になるが、作業に何日もかけると利用者(事業所を利用する精神障害者)の工賃単価が下がってしまう。筆者がいた事業所は工賃の高さ(とはいえ最低賃金以下)で利用者を集めているので、工賃低下は死活問題だ。できるだけ1カ所につき1回(4〜5時間ほど)で終えるため、職員がシーズン前に効率的な手順やブラシ、水切りワイパーの使い方などをレクチャーする。
5月にもなると、晴れた日の空のプールは灼熱地獄である。前年から溜まりっ放しの汚染水を抜き、木の葉や鳥の糞などがぐちゃぐちゃに混ざった汚泥を捨て、壁面や底にこびりついたコケや水垢などをブラシでこそぎ落す。プールの劣化を防ぐため洗剤は使えず、水をかけてはブラシでこする。
中学校のプール清掃(筆者は別の作業で不在)に2日連続で参加した事業所研修中の看護学生は、2日目に頭痛や吐き気を訴え早退してしまった。初日から体調を崩していたのに、無理をして続けたのだという。直後の職員会議で、担当職員からこんな報告があった。
「彼女は『本当は最後までやりたかった。自分が情けない』と言って、悔しそうな表情で、泣きながら帰っていきました」
これを聞いて、筆者は思わずキレた。
「なぜ美談にするのか。明らかに熱中症ですよ。死ぬことだってある。利用者を含め、体調管理や作業の見直しをきちんとしないと大変なことになりますよ」
職員たちはポカーンとするだけだった。昨年6月から企業の熱中症対策が義務化されたのに、世間知らずの福祉事業所はこのレベルなのだ。開いた口が塞がらない。
この肉体労働系事業所では、メール便配達も請け負っている。嫌がらせのような起伏だらけの土地で、労働者と見做してもらえないまま重労働に励み、労災保険すら適用されない「利用者」たちは、炎天下でも封書を届け続ける。大半はつまらない広告なので、届けたところでゴミ箱直行だろうが、彼らは地図を手に、徒歩や自転車で黙々と家を回る。
精神障害者が作業で体力をつけるのは悪いことではない。自信を取り戻せば回復につながる。だが、筆者がいた事業所の「利用者」の中には、重労働(福祉サービス利用とは思えない、明らかな労働)を数年から10年以上も続けている人が少なくない。筆者が「一般企業で十分働けるよ」「アルバイトの方が稼げる」と勧めても、「福祉施設症」に陥ってしまった彼らは「私には無理です」と言って逃げていく。全部とは言わないが、ある種の福祉事業所の存在が精神障害者の社会復帰を阻んでいると思えてならない。



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