SHUCHU PUBLISHING

病院経営者のための会員制情報紙/集中出版株式会社

未来の会

第130回 ポピュリズムの萌芽と政局の行方

第130回 ポピュリズムの萌芽と政局の行方

 令和初の国政選挙は戦後2番目の低投票率の中で、自民党が過半数を維持し、何となく安倍晋三政権が続くというぼやけた結果に終わった。国民の政治離れを懸念する声も多いが、「凡戦ながら随所に未来の萌芽が見えた」と前向きにとらえる専門家もいる。キーワードは「ポピュリズム」である。欧米を席巻し、悪いイメージもつきまとうポピュリズムだが、停滞する政治に変化をもたらす源泉との評価もある。ポピュリズムと、今後の政局を展望してみる。

 今回の参院選のトピックは政党要件を満たさない諸派である「れいわ新選組」(山本太郎代表)が2議席、「NHKから国民を守る党(N国)」(立花孝志党首)が1議席を得たことだ。れいわは比例代表の得票率が4・55%、N国も選挙区合計の得票率が3・02%で、政党要件(得票率2%以上)をクリアした。諸派が政党になるのは、1998年の自由連合以来21年ぶりという。れいわには「一過性のポピュリズム」、N国には「シングルイシュー(単一争点)政党」と突き放す見方もあるが、ベテランの自民党選対関係者は警戒感を隠さない。

 「山本氏の街頭演説は見応えがあった。聴衆との一体感という1点で見れば、今回の選挙で随一だった。アジテーターとしての能力の高さもあるが、地下から何かが噴き出して来るような感覚にとらわれた。『既存の野党がすくいきれない無党派層を掘り起こした』というのが一般的な評価なのだが、それにとどまらない不気味さも感じる」

 諸派の、れいわやN国は大手メディアの扱いも限定的だった。紙面や放送時間の制約により、全てを平等には扱えないためだ。両党はSNSを駆使し、それを巧みに補ってみせた。NHK内部の不倫スキャンダルという「業界の裏ネタ」を暴露するなど際どい手法もあったが、N国のネット動画の再生回数は自民党など既存政党をはるかに凌駕した。選挙手法の変革という点でも見るべき所があったのだ。

 「大手メディアがあまり扱わないため、最初は議席獲得などあり得ない泡沫と甘く見ていたが、視察で現場に出向いてびっくりした。自民党の票田に食い込むまでには至らなかったが、有権者の地盤変動を誘発している恐れもある。次の衆院選では、日本も世界を席巻しているポピュリズムの潮流に飲み込まれるかもしれない。油断できない」

 幾多の選挙を経験してきたベテランの自民党選対関係者はポピュリズムの脅威を繰り返した。

ポピュリズムは大衆迎合に非ず

 ポピュリズムはこれまで「大衆迎合主義」や「人気取り政治」などと説明され、ネガティブな面が強調されてきた。しかし、欧州では地方議会も含め、ポピュリズム政党が多数の議席を得て、移民・難民政策はじめ各国の政治に強い影響を与えている。米国のトランプ大統領や英国のジョンソン首相などはそれぞれ、伝統政党を母体としているが、その政治スタイルはポピュリズム型と分析されている。

 ポピュリズムには2つの定義がある。1つは、政治のスタイルに着目したものだ。政治学者の大嶽秀夫氏によれば、「(政治指導者による)政党や議会を迂回して、有権者に直接訴えかける政治手法」ということになる。もう1つは、「人民」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動をポピュリズムととらえる考え方だ。

 もう少し深掘りする。近代民主主義には2つの顔があるとされる。1つは、法の支配、個人的自由の尊重、議会制などを通じた権力の抑制を重視する、いわば自由主義の顔であり、もう1つは、人民の意思の実現を尊重する民主主義の顔だ。この2つのバランスで、それぞれの民主主義の個性が決まる。後者を重視すれば、ポピュリズムは真の民主主義であり、前者を尊重すれば、ポピュリズムは秩序を乱す存在として警戒の対象となる。 学説によれば、ポピュリズムには①政治から排除された周縁的な集団の政治参加を促す②既存の社会的な区別を超えた新たな政治的・社会的なまとまりを作り出す③政治を活性化させる——などの効用があるとされる。

 その一方で、①人民の意思を過度に重視し、権力分立、抑制と均衡といった立憲主義の原則が軽視される②敵と味方を峻別し、政治紛争が急進化する危険性がある③政党や議会などの制度や司法機関などの権限を制約する——などの弊害も指摘されている。

 いずれにしても、ポピュリズムは単なる「人気取り政治」ではなく、近代民主主義の根幹に関わる問題であり、自民党選対関係者が感じた不気味さの正体もこの辺にあるのだろう。自民党長老が語る。

 「ポピュリズムの特徴として『タブー破り』がある。山本氏が重度身体障害者の国会参加に道を開いたのもその1つだろう。国会の不作為は我々も反省しなければならない。ただ、ポピュリズムは何も新興勢力の専売特許じゃない。『自民党をぶっ壊す』の小泉純一郎元首相も、戦後のタブーだった憲法改正を真っ正面に掲げた安倍晋三首相も、ポピュリズムと言えば、ポピュリズムだ。所得格差が広がり、左派ポピュリズムが台頭する可能性はあるだろうが、ポピュリズムとの付き合い方も自民党に〝一日の長〟がある。軽視はしないが、恐れもしない。それでいいんじゃないか」

次期衆院選はポピュリズム対決?

 その自民党内では、安倍首相の自民党総裁4選と衆院解散の時期が最大の関心事だ。衆院解散の時期には3説が浮上している。

 注目の1つ目は「今秋解散説」だ。天皇陛下が内外に即位を宣言する「即位礼正殿の儀」などの皇室行事が10月末に一段落した後、お祝いムードの中で衆院選を決行するという案だ。10月の消費税増税に合わせた2兆円の景気対策も用意されているし、幼児教育・保育の無償化も始まる。ただし、消費増税直後の解散には慎重論がある。

 2つ目は、2020年度予算成立後の「来年4月解散説」だが、東京五輪ムード一色の列島で、国政選挙はしにくい。東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の森喜朗・元首相が五輪関係の会合で「当分衆院の選挙はないと安倍(首相)は言っていますから、しっかりと五輪実施を支えていただきたい」とご託宣したことなどもあって、五輪前の2説は尻すぼみだ。

 そこで、東京五輪・パラリンピック終了後の「来年秋解散説」が最有力とみられている。来年11月には米大統領選があり、トランプ大統領と安倍首相の朋友2人による「日米ダブル選挙」などと、大衆受けを狙った戦略もささやかれている。れいわの山本氏も次期衆院選で「政権取りに行く」と意欲を示しており、N国も旧みんなの党代表で無所属の渡辺喜美・元行革担当相と統一会派を結成するなど着々と準備を進めている。次期衆院選は、左右両派によるポピュリズム政治決戦の様相となるのかもしれない。 

LEAVE A REPLY

*
*
* (公開されません)

COMMENT ON FACEBOOK

Return Top