
一部保険外療養の法制化
2026(令和8)年2月18日から始まった第221回国会(特別会)に、内閣提出法案として健康保険法等の一部を改正する法律案が提出された。特に重要なのは、「一部保険外療養」の保険外併用療養費の1つとしての創設であろう。
厚生労働省によれば、その趣旨は「①医療用医薬品の給付を受ける患者とOTC医薬品で対応している患者との公平性の確保、②現役世代を中心とする保険料負担上昇の抑制」であり、その概要は「OTC医薬品(要指導医薬品又は一般用医薬品)との代替性が特に高い薬剤を用いた療養その他の適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの(「一部保険外療養」という。)を創設。(令和9年3月施行を想定)」というものである。対象医薬品の範囲は「77成分(約1,100品目)」で、特別の料金は対象薬剤の「薬剤費の1/4」であるという。それらの基本定義だけは健康保険法に明示されるが、その他は厚労省告示で定めることとなるらしい。そうすると、特に大切なのは、まずは健康保険法の規定の文言となるであろう。
一部保険外療養の改正条文
健康保険法には、もともとその第63条の第1項に「療養の給付(疾病または負傷に関して、①診察、②薬剤または治療材料の支給、③処置、手術その他の治療などを行う)」の基本的な条文があり、第2項に「療養の給付」以外の「食事療養」「生活療養」と3つの「保険外併用療養」(評価療養〔3号〕、患者申出療養〔4号〕選定療養〔5号〕)が定められている。「保険外併用療養費」については、第86条第1項に「被保険者が…(略)…評価療養、患者申出療養又は選定療養を受けたときは、その療養に要した費用について、保険外併用療養費を支給する」と定められ、金額計算の仕方は同条第2項にあるとおりであるが、保険外併用療養費の定めをしようとする時は、中医協(中央社会保険医療協議会)への諮問が必要だとされている(3項)。
さて、今回、新たに「一部保険外療養」を創設すべく、同法第63条第2項第5号の選定療養の後ろに第6号を新設する改正案が出された。改正条文は、次のとおりである。
(当然、同法第86条の「保険外併用療養費」の定めにも、「一部保険外療養」が加わっている)
改正条文の法的解釈
同法第63条第2項第6号の改正条文の基本構造は、(A)「薬剤を用いた療養」(B)「その他の」(C)「適正な医療提供、公平かつ効率的な保険給付、その要する費用、一部を保険給付の対象としない療養」(D)「厚労大臣が定めるもの」という(A)(B)(C)(D)から成り立っていると言えよう。
まず、最初に把握すべきは、(B)で「その他の」となっている点である。法令用語で「その他の」となっているということは、「(A)その他の(C)(D)」という構造であり、(A)は(C)(D)の「例示」にほかならない。つまり、(A)「OTC医薬品との代替性が特に高い薬剤を用いた療養」は、1つの例に過ぎず、この条文からは、たとえ今は具体的に想定していなかったとしても、(A)以外の例はいくつもありうることを示している。もしもOTC医薬品関連に限定するつもりであったら、(B)「その他の」を「であって」とし、「ものとする療養として」を「ものとして」にしているであろう。「OTC医薬品との代替性が特に高い薬剤を用いた療養であって、適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとして厚生労働大臣が定めるもの」とすれば、OTC医薬品関連に限定ができる。
また、「薬剤を用いた療養」としているので、中心 が「薬剤」ではなく「療養」となっているとも感じえよう。もし、「薬剤」に、焦点を当てたいのであれば、「薬剤を用いた療養」を「薬剤を用い」に直し、「その要する費用」を「その療養に要する費用」にしているであろう。例示の焦点が、薬剤を用いた「療養」よりも、「薬剤」の使用に当たるので、拡大する際にも、「療養」一般でなく、「薬剤」一般に限定しやすくなるであろう。
なお、念のため付け加えておくと、通常の用法ならば「その療養に要する費用」とするであろうところを、「その要する費用」としているのも全く自然さを欠く。それは、「その薬剤に要する費用」としたのでは今後が窮屈になり、とは言え、「その療養に要する費用」としたのでは用法としては自然ではあるが、焦点が「薬剤」でなく「療養」に行ってしまい過ぎるのを避けたかったからであろう。もう1つ付け加えると、この「その療養に要する費用」というのは、有名ないわゆる混合診療裁判でまさに条文解釈の焦点となり、最高裁判所からも批判を浴びた文言だからであり、余りイメージが良くないからなのであろうか。
さらに、(C)に着目すると、過剰ならぬ「適正な」医療提供、他の患者や若年の保険料負担者と不公平にならないように「公平」な保険給付、財源等を含めた健康保険制度全体の運用のあり方として「効率的」な保険給付などの必要性に鑑みて保険外にしようとしている。その上でならば、「薬剤の支給」に限らず、「治療材料の支給」「診察(検査も含む)」「処置、手術その他の治療」などといった「その『療養』に要する費用」の一部をも、保険給付の対象から外すことができるようになった。
法的な奥行きがある理由
一部保険外療養には、評価療養・患者申出療養・選定療養といった他の保険外併用療養に比べ、法的な奥行きがある。「療養の給付」の内容自体に大胆に切り込み適正化しうる余地が生じたからだが、根本的理由は一部保険外療養を生み出すことを阻止しえなかった「混合診療禁止の原則」や「混合診療保険給付外の原則」の定めに内在する法的詰めの甘さにある。
いわゆる混合診療裁判の最高裁判決(平成23年10月25日。健康保険受給権確認請求事件)では、結果としては混合診療禁止の原則も混合診療保険給付外の原則も、それらの存在を認めて国側勝訴とはした。ただ、その判決理由は「保険外併用療養費に係る制度は、国民皆保険の前提の下で医療の公平性や財源等を考慮して混合診療保険給付外の原則を採ることを前提とした上で創設されたものと解される」「法86条にいう『その療養』は保険診療相当部分をも含めた療養全体を指す」という、制度の趣旨や目的といった抽象的で曖昧な根拠に基づくものに過ぎない。
現に、最高裁はその多数意見においてさえも、「評価療養の要件に該当しない先進医療に係る混合診療においては保険診療相当部分についても保険給付を行うことはできない旨の解釈(混合診療保険給付外の原則)が、法86条の規定の文理のみから直ちに導かれるものとはいい難い」「法86条等の…(略)…規定の文言上その趣旨が必ずしも明瞭に示されているとはいい難い面はある」といった具合に、その根拠の薄さを厳しく指摘している。補足意見でも、「利害関係者が容易にその内容を理解できるような規定が整備されることが望まれる」と述べられていたが、今に至るまで抜本的な対応はとられなかった。
このことこそが、一部保険外療養に法的奥行きが生じてしまった根本的な理由だと思う。ただ、抜本的な対処ができなかったためにこのようになってしまったのであるから、せめて今後は、改定の告示が発出される前の段階で、精密に個別具体的なチェックを行い、社会保障審議会や中医協を通過する際にその適正化を試みていくべきである。


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