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第156回 岸田新首相と電撃衆院選がもたらすもの

第156回 岸田新首相と電撃衆院選がもたらすもの

 コロナ禍中の衆院選である。第100代首相となった岸田文雄・総裁が率いる自民党が過半数を獲得し、政権を維持出来るかが焦点だ。衆院選は4年ぶりの事であり、安倍晋三・元首相、菅義偉・前首相の約9年間の政権運営に対し、国民が総括的な評価を下す節目の選挙でもある。

 コロナの感染状況が落ち着いた好機をとらえ、大方の予想を覆す電撃衆院選(10月19日公示、31日投開票)に打って出た岸田首相。新内閣発足の勢いで押し切りそうな気配だが、菅前内閣を作ったのも壊したのも自民党だという事を忘れてはいけない。政権運営を継続してきた与党としての責任をしっかりと見定めないといけない。

 捲土重来を目指す、立憲民主党等は市民団体「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」(略称・市民連合)を媒介にした野党共闘を軸に据えた。しかし、日本維新の会は元より、国民民主党も共通の安保政策に乗れないと参加を見送り、野党一丸にはなれていない。

 市民連合の安全保障と立憲主義を前面に出した主張は安倍・菅政権への痛烈な批判だが、熱烈な支持がある一方、「過去に民主党内でさんざんもめた事の繰り返しで新鮮味がない」(野党支持者)との冷めた見方もある。

リベラル岸田に手を焼く野党選対

 岸田首相が広島出身で、核軍縮に熱心な事や、安倍元首相らとは異なるリベラル派で「所得再分配による格差是正」を掲げた事も、野党の勢いを削ぐ要因になっている。

 「ドラスティックでリベラルな河野太郎よりは戦いやすいが、野党側がずっと主張してきた格差是正をあたかも自前のように主張する厚顔さは、いただけない。安倍元首相が得意とした〝争点消し〟という姑息な手法だ」

 立憲民主党幹部は、国民に錯覚をもたらす岸田首相の主張は欺瞞に満ちていると憤慨している。

 「総裁選は安倍元首相、麻生太郎・副総理と示し合わせて、菅前首相、二階俊博・前幹事長を追い落としただけだ。政治とカネの問題がいい例だ。二階前幹事長の事は攻めるが、安倍前首相を叩こうとはしない。安倍、麻生という〝おんぶオバケ〟が背中に乗っている点では、菅前首相と何ら変わらない。安倍政権の『ゴミ箱の蓋その2』がその実体だ」

 とは言え、ご祝儀相場もあって岸田政権の滑り出しは上々だ。総裁選で披露した基本政策の黒衣が安倍元首相の秘書官だという情報もSNS等で、国民に知れ渡っている。菅前首相の総裁選不出馬に始まる「永田町の暗闘」も承知の上で、国民がリベラルな岸田首相に期待を寄せている事は否定出来ない。

 ただし、攻め口がない訳でもない。

 共産党幹部が語る。

 「安倍さんも岸田さんも大企業重視という点では同じだ。大企業は既に所得分配に配慮している。給料高いでしょ。岸田さんは経済対策で大企業を更に太らせ、分配を促して追認するだけの事。問題はそこじゃなく、下請けの中小企業や個人事業主なんだ。農家もそう。米の価格は下落の一方で、コシヒカリで1俵1万円を切る惨憺たる状況だ。自公政権が続く限り、変化は微々たるもので、その恩恵は一般国民には届かない」

 米価はここ数年下落が続いている。代表的銘柄のコシヒカリは数年前に1万4000円台だったのが、今年は各地で1万円割れが報告されている。農家はかつて、自民党の大票田だったが、最近は野党支持者も増えている。

 「自公政権が続く限り、中小企業や非正規労働者という本当に苦しんでいる人達に目配り出来ない」と共産党幹部は強調する。

 別の視点もある。

 共産党の支援を取り付けた立憲民主党中堅が続ける。

 「結局、世襲議員じゃないですか。安倍さんも岸田さんも。成り上がりの菅さんを皆で担いで、不要になったら皆でポイ。〝生まれ変わった〟なんてどの口で言っている。世襲議員同士が傷をなめ合っているだけだ。岸田政権がどうのじゃなくて、自民党という政党の限界、そこを有権者にとっくりと説明して回った」

 政権構想に必要な基本政策等の大枠の戦略とは別に有権者の身近な問題を掘り下げ、自民党の限界を指摘する戦術をこつこつ続けたという。「首相交代という目くらましの大技で勝利を窺う自民党の脇の下を刺す」と立憲民主党中堅は息巻いた。

苦労人のポイ捨ては厳禁?

 東京・永田町でしきりに話題になるのが、岸田首相の陰で、色合いを失った菅前首相の動静だ。

 「内閣の顔ぶれが変わり、ニュー自民党の関心が高まれば高まるほど、菅さんのマイナスイメージが強まる。大丈夫とは思うが、前首相を小選挙区で落とす事になれば、その影響は後々の政権運営に響く」

 菅前首相は地元、横浜市の市長選で腹心の小此木八郎・元国家公安委員長を失い、ここから、政権転落へと真っ逆さまだった。市長選の集票分析をみると、菅前首相の選挙区である神奈川2区(西区、南区、港南区)で、小此木氏はことごとく、当選した山中竹春氏に敗れている。港南区では1万票の大差を付けられた。市長選での民意がそのまま反映されれば、危ういのだ。

 菅前政権から岸田政権への移行過程で、新型コロナウイルスの感染状況が劇的に改善した事や、株価が急騰した事等も有権者の心理に影響しているという。

「神奈川は自民党内の闘争で明暗がはっきりと分かれた。菅前首相が倒れ、後継の総裁選で河野太郎・前行政改革担当相も敗れた。菅・河野ラインの小泉進次郎・前環境相も失速気味だ。代わって、長らく息を潜めていた甘利明・幹事長らが復権し、権力を握った。こういう劇的変化がある地域は過去の経験から不測の事態が起こり易い」

 自民党選対関係者は神奈川の選挙動向に神経をとがらせている。

「自民党が安定多数を占めるのはほぼ確実だろう。でも、話題性のある小選挙区で取りこぼすのは痛い。そこだけがクローズアップされがちになるからだ。苦労人の菅さんをポイ捨てしたという負のイメージは何としても避けたい」

 この自民党選対関係者は「誤解を恐れずに言えば、総裁なんて誰でもいい」と豪語した御仁だ。岸田評を聞いてみた。

 「幹部同士の激しい駆け引きはあったが、決め手になるのは〝選挙の顔〟より〝挙党態勢〟だと内心思っていた。河野さんでも衆院選は勝てただろうが、その後の党内運営に一抹の不安があった。岸田さんの長所は本人が言っているように、〝聞く力〟にある。挙党態勢という意味では、他の候補者から抜きん出ていた。電撃選挙に突入してみて、チームで戦っているという充実感がある。スター性の強い首相だと、こういう実感は伴わない。岸田さんは、いいチームを編成する能力者かも知れない。大化けするかもね」

 コロナ治療薬(経口薬)が開発され、米国株が高騰する等明るい話題も目立ってきた2021年秋。日本国民は再び自民・公明政権の継続を選択しそうだが、コロナ禍を経験した民意は従前とは異なるはずだ。じっくりと、得票分析をする必要がありそうだ。

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